第2話 一枚目、切り裂かれ、

どうもこんにちは!女神様から産み落とされた久々の人間、ヒューウェント・ア・ヴァルローズです。

名前は長いのでヒュウかヴァルと呼んでくださって構いません。さて、これからするのは100回のうち1回目のお話。馬鹿な女の、ありきたりな失恋の物語。

ま、結論から言いますと、私の恋文は無事クローウェル・ブライのもとへ届き、そして彼自身の手によって破り捨てられました。

もっとドラマチックに言うのなら、私は手紙を無事届けられた知らせを聞き、お返事を一年待ちました。けれども言伝のひとつすら無くて、もしかして忘れてしまったのかしら!と彼の住む…正確には彼が住み込みで働いているお城の応接間まで押しかけて、直接彼の返事を聞きに行ったのです。

すると、五時間待ったのちにたった一言、彼の使いだという人間からこう伝えられました。

「そのお手紙は失礼ながら細かく破り暖炉の薪と共に燃やしました。」

「…ああ、そう、そうなの。」

その時はそう返すのが精いっぱいで、ああ、愚かにもぼおっとしたまま帰路についた私は。

魔力暴走か何かで起きた事故、とやらに巻き込まれ瓦礫の下敷きになって死にました。

それを良く思わなかったのは私を産んだ女神ビュラスで、かの女神はこの星そのものの時間を巻き戻し、私が彼への手紙を書き終えた瞬間まで遡ったのです。私の記憶だけをそのままに。

さて、ここで愚かな私は書いていた手紙を懐に入れ、直接彼のいるお城まで届けに行きました。私の身分上、門前払いは出来ないので前回と同じように応接間に通され、二時間待ったのち、息を切らしてやってきた彼に、クローウェル・ブライに。

「迷惑だ。」

そう言われ、目の前で手紙を破り捨てられました。

あの会場ではあんなにうつくしかった彼の黄金色の瞳は、冷たく虚ろなもので…。

ああ、この言葉は本心なのだと、そう理解できました。

その日の帰り、私はまた何かが爆発したとかの事故に巻き込まれ失血死しました。

そうしてまた巻き戻り…もうこの語り口調もめんどくさいな。

三回目はお友達から始めようと彼の城に足繁く通い、声をかけまくるも迷惑がられ失恋し、事故って圧死。四回目は周りから攻めようと彼の働く城に押しかけ、居座り、あれこれと情報を集め彼の好みを探るも本人から「気持ち悪い、帰れ。」と言われ勢いで告白し失恋、事故って溺死。

五回目、六回目、七回目、八回目…手を変え品を変えクローウェル・ブライに近付こうと画策するも全て失敗し、失恋し、事故死する。それを繰り返すこと記念すべき100回目…とうとう愚かな私でも気が付いた。

「この恋って、絶対叶わないんだあ。」

身分差?そんなもの一度失踪して単なる普通の人間種のフリをして、顔まで隠して近づいたが同じように拒絶された。容姿?性別?年齢?いいえ、何度も繰り返す中でそれは問題ではないと結論が出ている。

なら何がダメなのか?そんなもの、ただ単に。

「お前からの好意は気色が悪い。たった一度見ただけで俺の何を理解した気でいるんだ。」

一度ではありません。もう何度も繰り返しその気味の悪いものを見るような顔を拝見しました。

何度も何度も、貴方の好みを知りたくて、あの手この手で、時に大胆に時に慎重に、情報を集めて、娼館に馴染みの娘がいることも、ふたつ年下の妹と弟がいることも、両親に先立たれ家族はその二人きりだということも、あのお城で高位魔法官として最年少で採用され働いていることも、血は薄くとも女神との混血であるとされる普通の人間から虐げられた過去があることも、分類としては劣等種の人間であることも、全部。

本当に気持ちが悪いほど何度も繰り返す失恋の中で貴方の情報を集めて、貴方に声をかけて、プレゼントを用意して、手紙を送って……その全部、駄目だった。

全部、全部全部、死んで終わり。失恋のおまけ付き。

…犬が好きで将来飼いたいと思っていること。妹と小さいころに結婚する約束をしたのに、妹はすっかり忘れて恋人探しに躍起になっていること。もっと魔法を勉強して、いつか、女神の血など無くても普通の人間では起こせない奇跡が起きるようにしてやるんだと野望を抱いていること。

何かの拍子に私が手に入れた彼からの言葉には、私へは決して向けられない熱が籠っていて…──。

とおい、とおいひとなのです。かれはきっと、わたしにはとおすぎるひと。

101回目の目覚めで、私は。

目の前にある書き終えたばかりの手紙を、インクすら乾かないうちにビリビリに破り捨てた。手は黒く汚れ、上等な白紙の破片が舞い、ああ。


百一枚目は、破り捨てられるのだ。初めがそうであったように。

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