破れた恋は切り絵になる。

かりんとお饅頭

第1話 美しき絵画の恋

遠い空、宇宙の隅。そこにたくさんの生命が住む小さな星がありました。

その星には女神と呼ばれる特別な力を持つ生き物がおり、彼女たちは番を作らずとも子を産みました。

そうして産まれた子供達は人間と呼ばれ、彼らは女神たちの手を離れ繁殖し自らの住む国を造り上げました。

最初の国、アンビス。そこでは女神の血をより濃く受け継ぐ人間が偉いとされ、皆の憧れの的でした。しかし時が経てば経つほど女神の純血を持つ人間は減っていき、ついには女神の存在すら怪しまれた現在。

その少女は、産まれました。

名をヒューウェント・ア・ヴァルローズ。ピンクの薔薇を彷彿とさせる鮮やかな頭髪に、アクアマリンのような輝く薄青の瞳を持った世にも美しい女の子です。

彼女を産んだのは生命の時間と美を司る麗しき女神、ビュラス。それ故に彼女の美貌は生涯失われぬことが約束され、また時間の流れによって醜く老いることもありません。

さらに彼女には持って生まれた天武の才がありました。まだ幼いうちに猛獣さえ斬り倒すほど卓越した剣の扱いに、周囲の人間たちは喝采を贈ります。

ああ喝采を、万来の喝采を彼女に!これこそが女神の純血、人間の上位種!

しかし彼女はそれに驕る事無く、鍛錬を続け更なる高みを目指していました。そんな時耳にしたのが、魔法、というものの存在です。

魔法は無より炎や雷を生み出し、それらをまるで手足のように操るというのです。もしも少女にそんなことが出来るようになれば、戦術の幅は大きく広がります。

少女は自身に与えられた城を出て、遠くにある隣のお城で行われるという魔法の技術を競う大会を観に行きました。そこで──運悪くも、運命の人間と出会います。

「次!クローウェル・ブライ!」

名を呼ばれ、演技台の真ん中まで歩く少年は美しい容姿をしていました。もちろんヒューウェント・ア・ヴァルローズに比べれば大したことなどない程度ではありますが、普通の人間にしては美しいと言えるでしょう。しかし、少女にとってそんなことは然したる問題ではありませんでした。

「血よ、炎の薔薇となれ。」

その、たった一言で。会場の上空に真っ赤な…血のように赤い薔薇の形をした炎が生み出されます。これほど巨大な炎の塊を生み出し、薔薇に見えるよう操り長時間滞空させる彼の実力は凄まじいもので、審査員たちは彼がたとえ女神の血が一滴も流れていない劣等種の人間だとしても100点満点を与えずにはいられませんでした。

「きれい…。」

少女は思わず見とれてしまいました。炎の薔薇に?少年の美貌に?違います。

少年が炎を生み出すその刹那、魔力を込めるために見開かれたその瞳の輝きに、あるいは炎を薔薇の形に編むその繊細な指の揺れ動く様に。彼女は、心を撃ち抜かれてしまったのです。

少女はお城に帰ると、すぐにインクとペンを用意させました。そこにどれだけ貴方が美しかったか、どんなに私が心惹かれたか、それはそれは情熱的に書き上げます。

どうか、どうか、叶うなら、こんなにもうつくしい貴方とうつくしい家庭を築きたいのです。

そんな一文を添えて。

ああ、これが、すべての悪夢の始まりだとは知らずに。


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