第18話「和也の想い」

 凜夜とデートをした日の翌朝。学校にて。

 男女数人の友達を廊下に呼び出して話を聞いてみる。

「和也って、みんなにあたしのことなんか話してた?」

「バカだってのは言ってたけど?」

 それは今さらだ。

「そういえば、高校入ってから機嫌悪いことが多くなったかなー?」

 中学時代からの女友達がヒントになりそうなことを言った。

「どんな時?」

「んー。ちょうど七海が須藤君と話してる時だったかな」

「凜夜君と話してる時?」

 凜夜のことが嫌いなのだろうか。しかし、昨日二人が会った際に特段険悪なムードにはならなかった。

 それとも凜夜にばかり夢中で、漫画のシナリオを書いていないからか。これも昨日までは書いているのか書いていないのか知らなかったはずなので違う気がする。

(あたしと組んで漫画家を目指す理由……)

 凜夜の言葉を思い出す。

 さして優れたシナリオが書ける訳でもない七海と組むメリットがあるとしたら。

 考えていたら、一人の男子が意外なことを言い出した。

「ひょっとしてあいつ、東山のこと好きなんじゃね?」

「え!?」

 思わず声を上げてしまった。

「和也が……あたしのこと……?」

「それが一番ありそうだろ。他の男と話してる時に不機嫌になるなんて」

「い、言われてみれば……」

「本人に直接聞いてみろよ。ここで予想だけしてても始まらないだろ」

「わ、分かった……」

 一応、手がかりはつかめたので、放課後に和也を連れて人のいない校舎裏に向かった。

「なんだよ、こんなとこに隠れて。久しぶりにケンカするってのか?」

 和也の方は、昨日殴った件について気にしているようだ。

「あー、いや。そうじゃなくて……」

 どう切り出せばいいか迷う。『あたしのこと好きなんじゃないの?』などと尋ねたら、ものすごく自意識過剰な女になってしまいそうだ。

「なんていうか、その……。和也ってあたしのことどんな風に思ってんのかなーって」

 このぐらいが限界だった。

 対する和也は。

「もし好きだとか言ったらどうすんだよ?」

 疑問の形ではあるが、かなりストレートに近いセリフで返してきた。

 仮に和也が自分に異性としての好意を持っているとしたら。

「まず……謝るかな……」

 あくまで仮定の話として進める。

「凜夜君へのプレゼント選びに連れてったりしたのは無神経だと思うし……」

 自分のことに置き換えて考えてみた。

 凜夜が他の女子を好きになって、その女子へのアプローチに協力させられたらどんな気分か。

「じゃあ、謝ってもらおうか」

 仮定が確定に変わってしまった。

「えっと……じゃあ、ホントに和也はあたしのこと……」

「どうせお前は須藤のことしか頭にないんだろ。だったらはっきり言わせんな」

 それも道理だ。

「ごめんなさい……」

 漫画家としてタッグを組む理由――相手が好きだからというのはあっておかしくない。

 それを、他の男子と仲良くなって、タッグは一方的に解消などというのでは怒られて当然だ。

「まあ、お前の目的は須藤に会うことだって分かってて組んでた俺も俺だけどな……」

「それじゃあ、なんで組んでくれたの?」

「どうせ振られると思ってたんだよ。須藤に振られたあとで、一緒に漫画描いてる俺の方に気持ちが向けばいいって」

 それならば合点がいく。

「勝手に振られることにしてたのも悪かったから、そこはお互い様ってとこか。で、どうあっても須藤以外と付き合う気はないんだな?」

 和也の本心を知ってしまった以上、ケジメをつけなければならない。

「うん。あたしはどんなことがあっても凜夜君のことだけを好きでい続ける」

 凜夜本人に告げたのと同様に明言した。

「そういうことなら仕方ねえ。俺があきらめるしかないな。あきらめの悪さでお前に勝てる訳がねえからな」

「ごめんね……」

 和也の寂しげな横顔に、再度謝罪の言葉を投げかける。

 ただ、まだ分からないことがある。

「でも、なんで和也があたしのこと好きになったの?」

 凜夜がお試しで付き合ってくれているのも奇跡だが、和也に対しては特に尽くすようなこともしていない。

「女子で俺とケンカできる奴、お前しかいなかったろ。他の女子殴ろうもんなら、そいつは泣くわ、大人からこっぴどく叱られるわでロクなことがなかったからな。遠慮がいらないってだけでも、俺には貴重だったんだよ」

「そっか……」

 今まで告白を受けたことがなかったから知らなかった。せっかく自分を好きになってくれた人を振ってしまうことがこんなに悲しいとは。

 遠慮のいらない相手が貴重なのは七海も同じ。

「これからもさ……、友達でいてくれる……? 漫画のシナリオも書くから……」

 柄にもなく弱々しい声になってしまった。

 逆に和也の方は元気を取り戻す。

「どうしてもって頼むなら考えてやってもいいぜ」

「どうしても! あたしはずっと和也と友達でいたい!」

 七海の宣言を聞いて、和也はふっと表情を緩めた。

 本当は、お試しとはいえ凜夜と交際し始める前に、こちらの決着をつけるべきだったのだろう。

 だが、これで関係はある程度定まった。

 和也は生涯の友。凜夜は未来の恋人だ。

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