『閃光の騎士』その2


 アース王国の王都。そこでは中心にある王城から近いほど街並みの豪華さは増し、人の賑わいも増えていく。王城に近い順から各環状線を区切りにして『サンライズ地区』、『モーニング地区』、『ヌーン地区』、『トワイライト地区』、『ナイト地区』と分かれていて、外にいくたびに治安も悪くなる。


 王都の中でも中心部に程近いところにある『サンライズ商店街』の中は昼夜問わず賑わっている。王都の中心部の方に住むお金持ちの人々も、外の方に住む人々も老若男女問わずここに買い物に来るのだ。ここは王都の中でも最大規模の商店街だった。


 ここ『ことりのさえずり』は、この辺りで最近有名なカフェだ。サンライズ商店街の一角に上品に佇むこの店の中で、3人の婦人たちが談笑していた。


「『閃光の騎士』ライハルト様が盗賊数百人を捕縛、盗賊団を壊滅ですって。すごいですわね」


 3人のうちの1人、ハキハキとした婦人が新聞の切り抜きを手に興奮した様子で語る。それに相槌を打つ婦人たちもみな少し興奮気味だ。


「さすがだな。まあ、彼にとってみれば大したことはないのだろうが」


 凛とした雰囲気の婦人が呟く。それにうんうんと他の婦人たちも頷く。


「その時助けられた商人の男性、私の親戚なんですよ〜」


 おっとりとした雰囲気の婦人が言う。


「なんと」


「え!? すごいですわね。それでそれで、その時のこと詳しく聞きましたの?」


「もちろんですわ〜。なんでもその時、隣町までお仕事に行く途中で10人の盗賊に襲われたらしいんですの。ナイフを突きつけられて、もうダメだって思ったとき、煌めく輝かしい光が見え……彼、ライハルト様がお姿を現したそうですよ。その時言ったお言葉が……」


「「お言葉が?」」


「『悪党どもに容赦はしない。己の罪を悔い改めるがいい』と。するとたちまち眩い光が走って次の瞬間には盗賊たちは全滅していた、とのことです〜」


「なんと素晴らしい」


「素敵なお言葉……。まさに騎士の中の騎士様ですわね。100年に一度生まれると言われる〈光魔法〉の使い手というだけでも素晴らしいのに、さらにその高潔な精神。さながら光の化身のようなお方ですわ」


「全くその通りだな。文字通り、日の光の如く王都を照らす存在と言える」

 

 うっとりと空を眺める3人。この3人の集まりには名前がついていた。『ライハルト様について語り合う会』といって、まあ端的に言えば推し活の一種だ。彼女たちも推し活を通して出会った推し仲間同士で、意気投合して毎週この会を開いている。


 もちろん、ライハルト推しの人たちは彼女たちの他にも大勢いる。王都には『閃光の騎士 ライハルト様ファンクラブ』なるものがあって、サンライズ地区にある本部をはじめ各地区に一つずつ支部が建てられている。その会員数は延べ10万人に達する。これは王国騎士の中でもぶっちぎり一位の人気だ。


「ところで新聞には数百人の盗賊を捕縛とあるが、先ほどの話の後に盗賊の本拠地に向かわれたのだろうか」


「そうみたいですね〜。その時捕縛した盗賊の方から本拠地を聞き出して、その日のうちにはもう盗賊団をやっつけてしまったみたいです〜。すごいですよね〜」


「なんと……」


「『閃光』の二つ名がこれほど相応しい方はいませんわね」


「まさしく光の速さということか。あのお方にかかればどんな偉業でも容易く見えてしまうな」


「私の親戚の方も、ライハルト様には大層惚れ込んでいるみたいでして、今度『閃光の騎士』グッズの新作を発売しようと騎士団のほうに掛け合っているみたいです〜。これがその設計案らしいのですけれど」


 テーブルの上に羊皮紙を広げる。そこには『閃光の騎士』ライハルトの絵に『悪党どもに容赦はしない』というセリフが

添えられたデザインが描かれていた。どうやらタペストリーを作りたいようだ。

 

「ほ、ほんとうですの? これ、欲しいです! 発売したら必ず教えてくださいまし」


「私にもお願いしたい。品切れになってしまう前にどうか融通してもらえると嬉しい」


「もちろんですわ〜。その時は、お二人には特別価格で譲っていただけるように交渉してみますわ」


「ありがとうございます」


「感謝するよ」


 3人の『ライハルト様について語り合う会』は今回も大盛況だ。その後もひとしきり語り合い、彼女たちは満面の笑顔で帰路についた。


 

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