光の騎士は闇魔法使いの少年を拾う

微糖

第一章 光と闇の出会い

第1話 『閃光の騎士』その1

 アース王国。この世界有数の大国家である。周辺国家と比べても一際広い国土を持ち、そこにたくさんの資源を抱えそれを輸出することによりこの大陸全体の経済を支えている。


 その中心部にある王都には煌びやかな王城が築かれ、麓の城下町は繁栄し人で溢れかえっている。街道はいくつも整備され、王城を中心としていくつもの環状線が通りその周囲に人々が集まることで大都市を形成している。


 その街道のうち、1番外側の環状線。『ナイト地区』と呼ばれる王都からは1番程遠い場所に一台の馬車が停まっていた。その周りを複数の男たちが取り囲んでおり、ただならぬ様子だ。


「ひっひっひ。無駄な抵抗はするな。金目のものだけ頂いたら、命まではとりゃしねえよ」


 ナイフを持った男が下品な笑い声をあげて言う。馬車の中にいるのは恰幅のいい男性と、痩せた青年だ。おそらくは商人だろう。商品の仕入れから帰る最中に盗賊に狙われたといったところか。馬車の外には護衛も2人いるが、10人の盗賊たちに囲まれて腰が引けてしまっている。


「わ、わかった。言う通りにする。ここにある荷物は全て好きにするといい」


 恰幅のいい男がそういうと、痩せた青年を連れて馬車から降りる。盗賊たちはそれをニヤニヤと眺めている。


「話がわかるじゃねえか。ヒヒ。でもちょっとまちな。お前が身につけているものも置いていけ」


 盗賊は手に持っていたナイフを商人の首元に突きつける。そこには真珠のネックレスがかかっていた。


「こ、これは……」


「なんだよ」


 尻込みする商人を睨みつける。


「これは、妻の形見なんだ! これは……これだけはどうか勘弁してくれ!」


「知らねえよ! いいから置いてけよ。さもねえと……」


 盗賊はナイフをさらに商人の首に近づけ、切先を食い込ませる。ぷつりと切れた皮膚から血が滲む。


「ひいい! どうか、どうかご勘弁を!」


「っのやろう、強情なやつだな。そこまで言うなら……」


 ナイフが首元から離れる。商人はほっとしたように息をつくと盗賊の顔を見上げる。そこには見たこともないほどの邪悪な笑みが浮かんでいた。


「お前も妻のところに送ってやるよ! ヒヒ、ヒッヒッヒッ!」


「や、やめっ」


「そこまでだ」


 透き通るような声が響いた。この場にいる誰もがその声に動きを止める。


「だ、誰だ!?」


 動きを止めた盗賊がナイフを振り上げたままの姿勢で辺りをキョロキョロと見回す。すると、馬車の屋根の上に一つの人影が見えた。


「悪党に名乗る名などないな」

 

 特別大きな声というわけでもないのに、どこまでも響くような声。覇気を感じさせるその声の主はそう言い放つと屋根から音もなく飛び降りる。

 

 それは非常に美しい青年だった。さらりと流れるような金髪は陽の光を受けてキラキラと輝く。同じく金色の瞳は見るもの全てを安心させるような魅力を放ち、くっきり整った目鼻立ちはまるで絵画の中から切り取ったような黄金比を備えている。


 彼は白銀の全身鎧を身につけ、背中には赤いマントを着ている。マントには白い刺繍で大きな鳥のような紋章が描かれている。あれはアース王国の紋章だ。つまり、彼はアース王国の騎士。


「あ、あなたは!」


 商人の男が大きな声を上げる。盗賊の男たちの中からも「あいつは……」とか「まさか……」という声が聞こえる。


「大人しく投降するならばそれでよし。もし戦うというのなら……」


 騎士は右手を持ち上げる。その手の中には一本のナイフが握られていた。


「なっ! あ、あれは俺のナイフ」


 そのナイフは先ほど盗賊の男が持っていたものだ。男は自分の手の中からナイフが消えているのに驚き、自分の体を必死に探る。


「もし戦うというのなら、私は決して容赦しない」


 騎士が持ち上げた右手に力を込めると、鉄製のナイフがバキンと砕ける。それを見た盗賊たちは気圧され後ずさる。


「ば、バカにしやがって! 騎士が1人来たからってこの人数に勝てるわけねえだろ! 野郎ども、殺せ!」


 盗賊たちは騎士に向かって襲いかかる。だが、確かにそこにいたはずの騎士はいつのまにか姿を消している。


「は?」


 キラリと一筋の閃光が走る。瞬きよりも早く。その瞬間1人の盗賊が倒れる。


「え?」


 再び閃光が走る。今度は二つ。チカっと光が見えたと思ったら盗賊が2人倒れる。


「な、何が」


 閃光が幾重にも重なる。視界の端に光が映ったと思ったら残りの盗賊たちが倒れていく。何が起きているのか。何もわからない。ただわかるのは、光が見えると人が倒れるということ。


「何が起きてるうう!?」


 残った1人の盗賊の視界が光で白く染まる。「あ、光った」そう思った時にはもう、自らの体が地面に倒れていくところだった。


 

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