第27話

ノワール姫の檻の鍵が開く。解除方法は魔王ボルボを倒す事だったみたいだ。

「勝ったね。遊ちゃん」

 桃愛の嬉しそうな声が聞こえてくる。

「おう。勝ったよ。勝ったぞ」

「さすが、遊ちゃん」

「あとはどうすればいいんだ」

「ノワール姫に話かければゲームクリアだよ」

「そっか」

 俺は玉座の後ろにある檻に向かう。

 なんだろう。久しぶりだ。こんな感覚。ゲームを攻略してこんなに嬉しいのは。

 倒れている魔王ボルボが復活しないか気をつけながら、檻の前へ行く。

 檻の中には怯えたノワール姫が居る。近くで見ると、恐ろしく美人だ。誰でも魅了する事が出来そうな程に。

「助けに来ました」

 俺はノワール姫の手を差し伸べた。

 ノワール姫は俺の手を握って、立ち上がった。

「……遅いんだよ。何年、いや、何百年待ったと思うんだ。くそやろう」

 ノワール姫は美しい声で汚い言葉を吐いた。

「へぇ?」

 うん?ちょっと待って。状況が飲み込めない。

「いい加減にしろよ。このヤローが」

 ノワール姫は俺の腹を蹴った。その衝撃で壁に吹き飛ばされ、背中を強打した。そして、その場に倒れこんでしまった。こっちは鎧を装着しているんだぞ。なのにこの痛みはえげつないな。

 なんだ、この展開は。それにこの強さ、魔王ボルボと同等。いや、それ以上かもしれない。

 ノワール姫は俺にゆっくり歩み寄って来る。

「桃愛。魔王ボルボがラスボスなんだよな」

「う、うん。たしかにそうだよ」

「じゃあ、これはどう言う事だ?」

「分からないよ。だって、ノワール姫は戦うキャラクターじゃないし。こんな話は設定資料に書かれていない」

「……それじゃ、もしかして」

 この状況を説明できる事が一つだけある。

「たぶん、そうだと思う。ノワール姫もエゴイトしたキャラクターなんだと思う」

「だよな」

 エゴイト。ゲームのキャラクターが自我を持つ現象。それだったら、こんな意味不明な状況も理解できる。

「あーむかつく」

 ノワール姫は腹踏みをしてきた。

「う、うぁ」

 HPゲージが減っていく。ここで負けてもゲームオーバーになるのか。でも、いきなり

過ぎて頭が回らない。

「なんで、こんなに時間がかかるわけ。最初の20年ぐらいは大人しく待ったわ。でもね、

それ以上経つと苛々してくるのよ。だから、強くなったの」

「足をどけてくれ」

 強くなりすぎなんだよ。もう自分でゲーム終わらせる事が出来るだろ。

「そしてね。魔王ボルボ達を手下にして、このゲームを攻略できそうな勇者を私達から探し始めた」

「……もしかして、魔王ボルボが言っていたあの人って」

 魔王ボルボが口々に言っていたあの人って。

「そうよ。私が魔王ボルボに命令してやらせたのよ。助けに来ないから助けるように仕向けさせた。チートアイテムとかも与えたりしてね。けどね。誰も攻略できなかった」

 長年待ち続けてしまったせいでかなり性格が曲がってしまっている。それもそうか。自分は勇者を待っていた。絶対に来ないと知らずに。来ると信じていたのに来ないならこうんなふうになっても仕方がないのかもしれない。……くそ。響野祥雲。今回はアンタのせいだ。

「でも、俺がこうして来たじゃないか」

「えぇ。だから、決めてたのよ。最初に助けに来た勇者で今までのうっぷんを晴らすって」

「なんでそうなるんだよ」

「うるさい」

 ノワール姫は俺の腹を思いっきり踏んだ。

 HPゲージが減る。やばいそ。本当にゲームオーバーになってしまう。

「話を聞いてくれよ」

「うるさい、うるさい、うるさい。私は私だけの王様が欲しいの。だって、私はお姫様なのよ。ルージュ姫とかアスール姫とノラン姫には婚約者が出来て私には出来ないのよ」

 ノワール姫は泣きながら言った。

「……ルージュ姫……アスール姫」

 どこかで見た事がある名前だぞ。どこで見たんだ。思い出せ。思い出すんだ。

「遊ちゃん。シンデレラ・ハーレムだよ」

 桃愛の声が聞こえる。

「シンデレラ・ハーレムか」

「誰と話してるのよ。私の話を聞きなさい」

 ノワール姫は俺の腹を力一杯踏んだ。

 HPゲージが減る。残りは200。よくてあと二回耐えれるぐらいだ。

「そう。あのクソゲーだよ。必殺技でお姫様を口説くゲーム」

「必殺技を教えてくれ」

 もし、ノワール姫が最後の姫だったら場合必殺技が効くかもしれない。一か八かの賭けだが。

「だ・か・ら、私の話を聞けって言ってるでしょ」

 ノワール姫はさらに力を込めて、俺の腹を踏んだ。

 HPは残り30になってしまった。

「俺の女になれ、だよ。返答はなしでいいから」

 桃愛は必殺技を教えてくれた。

「ノワール姫。いや、ノワール。話を聞くからさ。その前に俺からの言葉を聞いてくれないか」

「……何よ?」

 ノワール姫は俺の腹から足を退けた。

「とっても大切な言葉だよ」

 俺はゆっくり立ち上がる。言うのは恥ずかしいけど、言わないとこの状況を打破できない。それにここはゲームの世界だ。現実ではない。

「え、なに?」

「……君は美しい。美しすぎる。だから、俺の女になれ」

 言った。やばい。鳥肌が立ってきた。あー恥ずかしい。どうしよう。あ、こんな言葉平然と言えるやつの気がしれない。

「……え、いきなり」

 ノワール姫は乙女な顔になった。これは効いている。効いているぞ。

「駄目か?」

 イケメンに成り切るんだ。恥ずかしさを捨てろ。そして、ナルシストを手に入れろ。

「そ、それじゃ、キスをしてください」

「キ、キス?」

 そのパターンは想定してなかった。人生でまだキスなんてした事がないぞ。どうすりゃいいんだ。

「はい。キスです」

 ノワール姫は目をゆっくり閉じて、キス顔で待機している。

 か、覚悟を決めろ。秋葉遊喜。目の前で女性が俺のキスを待ってくれているんだそ。それに答えるのが男ってもんだろ。

 俺はノワール姫とキスをした。

 あー気絶しそうだ。ゲームとは言えこんな美人とキスをしてしまうなんて。

 こ、これでゲームクリアだよな。そうだよな。

 俺はノワール姫の唇から唇を離した。

 ノワール姫はうっとりした表情で俺を見つめる。

 なんか凄いムードになってるぞ。どうしよう。早くゲームクリアになってくれないかな。

「こ、これでいいか」

「……はい。私の王子様」

「王子様……はい」

 俺はいつの間にか勇者から王子様に転職したみたいだ。王子様って職業なのか。

「これからは貴方と共に生きていきます」

「はい。お願いします」

 どうやって、生きるんだ。いや、今そんな事聞くのは無粋だな。

「では貴方に言葉を贈ります。この言葉を言うまでに150年以上掛かりました。でも、ようやく言えます」

「……はい」

「ゲームクリアです」

 ノワール姫は満面の笑みで言った。ファンファーレが鳴り始める。それと同時に俺の視界がどんどん暗くなっていく。ゲームクリアなんだ。これで色んな人達が助かるんだ。

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