第28話

視界が鮮明になっていく。ロクスコクーンの黒色の蓋が見える。どうやら、現実世界に戻って来たみたいだ。

 俺は壁面に付いている開閉ボタンを押して、ロクスコクーンの黒色の蓋のロックを解除する。

 黒色の蓋が開く。

 俺は上体を起こして、周りを見渡す。周りにはロクスコクーンが何台も置かれている。ここはサイバー・スクワッドのロクスコクーン室で間違いない。

 ロクスコクーン室のドアが開き、亜砂花さんが入って来た。

「攻略成功しました」

 俺は、にこっりと笑って言った。

「よくやったわ。本当によくやったわ」

 亜砂花さんが抱き締めてきた。声は震えている。

「ありがとうございます。でも、すいません。力強すぎます」

 抱き締めている力が力強すぎる。骨の数本折られそうな勢いだ。

「ごめんなさい」

 亜砂花さんは俺から手を離した。表情は本当にホッとしているようだった。

「あの真珠や被害者の人達は?」

「みんなが確かめに行っているわ。真珠ちゃんの所へ行く?」

「はい。行きます」

 俺は立ち上がろうとした。しかし、身体がふらつく。

「いきなり動こうとするからよ。肩貸してあげるから」

 亜砂花さんはふらついている俺を手で支えてくれた。

「すいません。借ります」

 俺は亜砂花さんの肩を借りた。精神疲労が肉体にも影響しているのだろう。自分の身体なのに制御が上手くできない。

「よろしい。それじゃ、駐車場へ向かうわよ」

「はい。行きましょう」

 俺と亜砂花さんはロクスコクーン室から出て、車がある駐車場に向かう。

 まだ実感が湧かない。誰も攻略してなかった響野祥雲のゲームを最初に攻略した事を。まぁ、販売されていないから何とも言えないが。けれど、攻略したおかげで何人もの人が助かるはず。ゲームで人助けって変な感じだ。


 午後10時。

 亜砂花さんが運転している車の助手席の車窓から見える街はライトアップされていて綺麗だ。待ち行く人々は事件があった事なんて知らずに楽しそうにしている。

 俺がこの時間に出歩いていたら普通は補導されるだろう。でも、今回は特例だ。決して、遊びに行くわけじゃない。真珠が意識を取り戻しているかを確認するためだ。

 亜砂花さんはエルシスタ学園女子寮の前で車を停めた。

 車の自動ドアが開く。

「1人で歩けそう?」

 亜砂花さんは俺の身体を心配してくれているようだ。

「大丈夫です。もうある程度動けます」

 身体に違和感がない。普通に動ける。走ったりは出来ないと思うが。

「そう。それなら安心だわ」

「はい」

 俺と亜砂花さんはシートベルトを外して、車から降りた。

 亜砂花さんは車のキーを赤外線で施錠した。

 俺と亜砂花さんはエルシスタ学園女子寮に入る。そして、階段を上り、真珠の部屋がある二階へ行く。

 二階に着いた。真珠の部屋の前には古道さんが立っていた。

 俺と亜砂花さんは古道さんのもとへ行く。

「どう?」

 亜砂花さんが古道さんに訊ねる。

「無事意識取り戻しましたよ。ほら」

 古道さんは部屋の中に視線を向ける。部屋の中ではベットの上で座っている真珠と、真珠を横から泣きながら抱き締めている桃愛の姿が見える。

 ……よかった。本当によかった。無事で。

「よかったわね。遊ちゃん。行ってきなさい」

 俺は部屋の中へ入って、真珠達のもとへ向かう。

「……遊喜」

 真珠は申し訳なさそうな声で言った。

「遊ちゃん。真珠ちゃん。無事だよ。本当によく頑張りました」

 桃愛は人に見せる事ができない程のぐしゃぐしゃの顔で泣いている。それだけ心配していたと言う事だ。

「あぁ。攻略したよ。ノワール・ネージュ・イリュジオンを」

「……ごめんなさい」

「馬鹿野郎。心配させやがって」

 俺は真珠を抱き締めた。

「……ご、ごめん」

「もし意識が戻らなかったらどうするんだよ」

「そ、それは」

「なんで、無茶するんだよ」

「…………」

「お前が……真珠が居ないと俺は……俺達は困るんだよ。俺と真珠と桃愛三人合わせて、チームルベウスだろ。誰か1人でも欠けたら駄目なんだよ」

「……ご、ごめんなさい。遊喜の力になりたくて。でも、負けたくないって気持ちもあって。色々考えてたら、あんな事しちゃった」

 真珠は泣きながら言った。久しぶりだ。こんなふうに泣いている真珠を見るのは。

「勝ち負けはゲームだけにしようぜ。捜査はみんなでやろう」

「……うん。私が間違ってた」

「本当に馬鹿だよ。真珠は」

「馬鹿馬鹿言わないでよ。馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ」

 真珠は俺の背中を叩く。しかし、力はまったくない。

「うるせぇ。馬鹿」

「もう。そう言う遊喜の所が嫌い」

「もう2人で楽しくしちゃって。私も混ぜろ」

 桃愛が俺と真珠を抱き締めてきた。

「おい、やめろ。桃愛」

「そうだよ。危ない。桃愛ちゃん」

「うるさい。私がルールだ」

 桃愛は楽しそうに言った。これで、これからもこの三人でゲームを作れる。そして、この事件でこの2人がとても大切な人達だと知れた。俺はこの2人の為なら何でもする。誰かに馬鹿にされようとも。笑われようとも。

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