第26話
巨大な扉の前に着いた。
「遊ちゃん。魔王ボルボと直接対決だね」
「あぁ。そうだな」
「準備はいい」
「おう。いつでもいいぜ?」
「絶対に負けないでね。いや、絶対に勝ってね」
桃愛は少しでも俺にプラスの感情で居てもらいたいのだろう。だから、負けないでから勝ってに言い直したのだと思う。
「あぁ。絶対に勝つさ。それが俺に与えれた任務だからな」
「うん。そうだね。私も全力でフォローするから」
「頼んだぞ。桃愛」
「うん。頼まれた」
「しゃあ、行くぞ」
自分を鼓舞しながら、巨大な扉を開けた。部屋の中には玉座に座る魔王ボルボ。魔王ボルボの背後にある檻に入れられたノワール姫が居た。
ノワール姫の容姿は設定資料と同じ。
「ようやく来たな。勇者よ」
「あぁ。お前を倒しに来ってやったよ」
「偉そうな事を言うな」
「偉そうなのはお前もだろ」
俺はゆっくりと魔王ボルボのもとへ近づいていく。
「偉そうではないのだ。偉大なのだ」
「はいはい。分かりました」
「うっとしい奴だ」
「あんたもな」
魔王ボルボの間合いに入った。いつでも、勝負が始まりそうだ。気を抜くなよ。気を抜けば一瞬でゲームオーバーだ。
ノワール姫の方に視線を送る。声を全く出さない。そう言う設定なのか。それとも魔法とかで声が出せないようされているのか。
表情はどことなく俺が来てホッとしたのか、ちょっと嬉しそうに見える。でも、俺が勝たない限り、その檻から出れないんだよ。
「さぁ、戦いを始めよう」
魔王ボルボは玉座から立ち上がり、戦闘態勢になった。
「望むところだ」
魔王ボルボが動き出すのを待つ。こう言う強者と戦う時は自分から先制攻撃を仕掛けるのは得策じゃない。
魔王ボルボの姿が消えた。
どこだ。どこに消えた。
俺は必死で周りを見渡す。しかし、どこにもいない。
「遊ちゃん。上」
桃愛の声が聞こえてきた。
俺は桃愛の言葉どおりに上を向いた。魔王ボルボは空中にした。
「遅い」
魔王ボルボは蹴りの構えをしながら、超高速スピードで俺に向かって来る。
速い。速すぎる。城の前で戦ったガーゴイルより数段早い。
このままだったら直撃する。しかし、避けれない。
俺は咄嗟に盾を構える。
衝撃が来ない。なんでだ。このタイミングだったらもう盾に魔王ボルボの蹴りが当たっているはず。
「遊ちゃん。後ろ」
「え?」
俺は振り向いた。そこには俺を殴ろうとしている魔王ボルボが居た。蹴りはこの為のフリか。
「遅い。遅すぎる」
魔王ボルボは右ストレートで俺の左頬を思いっきり殴った。
俺はその衝撃で吹き飛ばされ、壁に激突した。
痛すぎる。現実世界でも味わった事のない痛みだ。
300ダメージ。やはり、ラスボス。一回のダメージが大きい。それに今まで戦ってきたやつと圧倒的に格が違う。
俺は壁を支えに立ち上がった。
「大丈夫?」
「おう。でも、普通の戦い方じゃ勝てる気がしない。あいつの弱点は?」
「……ないよ。全ての属性に耐性があるから」
「ま、まじかよ」
困ったな。弱点無しか。接近戦でやりあうのは難しい。あの速度にはさすがに反応できる気がしない。
「マジだよ。地道にダメージを与えるぐらいしかない」
「じゃあ、あいつのHPは?」
「10万」
「……おい。6桁かよ」
「うん。それにね。HPが半分の5万になった瞬間に一度だけ全回復するの」
「はぁ?なんだ、それ」
「それにね。その次にまたHPが半分になったら無条件で確定で9999ダメージ与える技・ハルマゲドンを撃ってくる」
「ど、どうすりゃいいんだよ」
「私も考えているんだけど攻略方法が思いつかないの。あんなにスピード速いと思ってなかったし」
たしかにあの速度は想像以上だ。あんなの反則だぞ。人間の目で追える速度じゃない。
「……うーん。どうにか考えながら戦う。桃愛も何か思いついたらその時言ってくれ」
「わ、わかった」
魔王ボルボの方を見る。
「攻撃して来ないのか」
「ちょっと、お前をどう倒そうか考えていたところなんだ」
「ふん。威勢を張りおって」
あーマジで倒し方が思いつかない。
「勝つ事しか考えてないからな」
考えているだけじゃダメージも与えられない。魔法で遠距離攻撃だ。
「減らず口を。ケイオス・フレーム」
魔王ボルボが俺に掌を向けてきた。その掌から巨大な黒炎の火球が現れた。魔王ボルボはその黒炎の火球を放ってきた。
「ま、まじか」
遠距離攻撃も最強レベルじゃねぇかよ。
俺は黒炎の火球を必死に避けて、魔王ボルボの方に視線を向ける。
魔王ボルボの姿が見えない。
「また上だよ」
桃愛の指示が聞こえる。
俺は上を向いた。魔王ボルボが蹴りの構えをしている。
「くそったれ」
避けれない。でも、盾で防ぐと、蹴りの構えを囮に殴られるかもしれない。
「どうにでもなれだ」
俺は手に持っている盾を上に放り投げる。
「阿修羅回転切り」
俺は超高速スピードで回転しながら周りを切る。
「な、なんだと」
魔王ボルボの声が聞こえる。そして、白炎刀が何かに当たった感触もする。
回転が終わり、周りを見渡す。
魔王ボルボの姿は周りはない。
「玉座の方だよ」
桃愛の声が聞こえる。
俺は桃愛の言うとおりに玉座の方を見る。玉座の前で魔王ボルボが右腕を押さえながら、こちらを睨んでいる。それに魔王ボルボの頭上にはHPゲージが表示されている。どうやら、ダメージを与えたようだ。全然減ってはいないけど。一か八かの賭けが成功したようだ。でも、これを何回もする事はできない。次の手を考えないと。
「よくも我にダメージを与えたな」
「あぁ。お前を倒すから当たり前だ」
俺はかっこつけて言いながら、近くに落ちている白炎の盾を拾う。
「そうか。それじゃ、我も本気で戦おうとしよう」
「か、掛かって来い」
声が震える。う、噓だろ。あれで手を抜いていたのかよ。舐めプーしてたのか。くそったれ。
「お前の戦い方を参考にした技だ。喰らうがいい。ブラック・レイン」
魔王ボルボは掌を天にかざした。すると、宙に黒い球体が出現した。
「……レインって雨だよな。もしかして」
俺がコントラクト・ヒーローで使った戦術と似てる。もしかして、それを再現するつもりか。ゲームのキャラクターが自分で技を編み出すなんてありなのか。
「あぁ、その通りだ」
黒い球体から黒い雨が降り出す。
やばい。当たれば一発のダメージ量が少なくても何度も喰らえば大ダメージだ。でも、雨を避けられるスピードは能力の限界値を超えても無理だ。
俺は白炎の盾で頭を護る。
身体ががら空きになってしまう。
「アシエ・アルミュール。アシエ・アルミュール。アシエ・アルミュール……」
防御力を上げる魔法を何度も唱える。がら空きの身体を攻撃された時のダメージを出来るだけ減らすために。
魔王ボルボは俺のもとへ超高速移動で向かって来る。
「腹ががら空きだぞ」
魔王ボルボは俺のお腹を何度も殴る。くそ。鎧越しなのにダメージが半端ない。痛みで気を失いそうだ。
ブラック・レインが止んだ。
魔王ボルボは殴るのを中断した。そして、即座に回し蹴りをしてきた。
俺は抵抗できずに吹き飛ばされ、遠くへ飛ばされ、地面に激突した。
HPが残り50になった。防御力を上げる魔法を使っていてよかった。もし、使っていなかったらとっくの前にHPは0になっていた。
どうする。HPは回復魔法でどうにかできる。でも、あいつを倒す方法が思いつかない。どれだけ攻撃力を上げたところでダメージは1万にも届かないはず。
「アンティブリス」
俺は立ち上がりながら全回復魔法を使う。HPは全て回復した。身体の傷も癒えていく。
「回復魔法か。まぁ、いい。何度でもお前をいたぶってやる」
「あんた。いい性格してるな」
「口数が減らないな。誰かに助けを求めてみたらどうだ?」
魔王ボルボは俺を見下して言った。
「……誰かに助けを求める」
ちょっと待って何か良い案が浮かびそうだ。誰かに助けを求める。誰かと力を合わせる。
桃愛はゲームには参加できない。ゲーム中に使える仲間。……封印してきたモンスターだ。でも、これだけじゃ、火力が足りない。能力を上げないと。……そうか。ブラック・ダイモンドでモンスター達を限界突破させればいい。そして、限界突破したモンスター達で総攻撃すればいいんだ。あとは複数のモンスターを同時に召還できるかを確認するだけだ。
「どうする?誰かに助けを求めるのか?」
「助けは求めない。けど、ちょっと確認はする」
「確認だと?」
「あぁ。だから、ちょっとタイム」
「タイム?」
魔王ボルボは驚いているような表情をしている。
「……桃愛、ちょっといいか?」
「なに?遊ちゃん」
「封印したモンスターって何体まで使用可能なんだ?」
「……ちょっと待って。確かめるから」
「早くしてくれ」
「分かってる」
桃愛は急いで調べてくれている。
「確認は取れたのか?」
魔王ボルボが訊ねて来た。
「うるせぇ。ちょっと待っとけ」
俺は怒鳴りながら言った。
「うるせぇだと。貴様、口の聞き方をわきまえろ」
魔王ボルボは声を荒げた。怒っているのか。器の小さい魔王だな。
「わかったよ。遊ちゃん」
「お、それで何体だ」
「持っているモンスター全員可能」
「そうか。あんがとな。桃愛」
これで倒せる戦術が実現可能だと分かった。普通ならこんな戦術はしない。だけど、今回は負けられない。数の暴力で勝つ。
「うん。頑張って」
俺はにやりと笑った。
「貴様、なぜ笑っている」
「アンタを倒せるって分かったからな」
「我を倒せるだと?」
「あぁ。今からその準備を見せてやるぜ」
「準備?」
「召還、召還、召還、召還、召還……」
俺は腰に付けている袋の中から壺を一つずつ出して、封印したモンスター30体を召還していく。
30体のモンスターを召還し終えた。俺の目の前には大量のモンスター達が居る。
「30体のモンスターか。だが、我にすれば雑魚当然。数を揃えた所で結果は同じだぞ」
「まだ準備は終わってねぇんだよ。お前がよく知っているアイテムを使わせてもらうぜ」
「我が知っているアイテム。も、もしや」
魔王ボルボは俺がこれから出そうとした物に気づいたようだ。
「そうだ。これだよ」
俺は腰に付けている袋からブラック・ダイヤモンドを取り出した。
「ブラック・ダイヤモンド」
「効果は限界突破。そして、対象は個人でも複数でも可能だったよな」
「……あぁ」
「だから、こうさせてもらう。ブラック・ダイヤモンドを俺とモンスター達に使用」
能力のゲージ壊れる。俺自身の能力は全て9999になった。モンスター達はHPとMP9999になり、他の能力は9999に上昇した。
「そ、そんな馬鹿な」
「馬鹿な戦い方だけどな。アンタを倒すならこれが一番いい。総攻撃だ」
モンスター達が魔王ボルボを攻撃していく。魔王ボルボのHPゲージがどんどん減っていく。
「我は負けん」
魔王ボルボのHPゲージが全回復した。
「まだまだ」
まだ総攻撃は終わらない。減らして、減らして、減らしまくれ。
魔王ボルボのHPゲージが半分になった。次はハルマゲドンを撃ってくるはず。
「小癪な。だが、お前だけを倒せばいいんだ。ハルマゲドン」
魔王ボルボが禍々しい黒い槍を出現させ、その黒い槍を俺に向かって投げた。
速い。避けれるレベルの速度じゃない。
黒い槍が俺の鎧に刺さった。HPゲージが1になってしまった。
「危なかった」
「な、なぜだ。なぜ生きている」
魔王ボルボは俺のHPゲージが残っている事に驚いているようだ。
「あんたの手下のドロップアイテム。ヴィーグルのおかげだ」
どれだけ強力な技でもHPを1だけ残してくれるアイテム。使うタイミングを間違えなくてよかった。
「くそぉ。我は負けんぞ」
「俺が勝つんだよ。まだ攻撃は終わってねぇんだ」
モンスター達が魔王ボルボに攻撃を続ける。
「もう一発攻撃を当てさえすれば我の勝ちだ」
「それはさせるかよ。アンティブリス」
HPを全回復する魔法。これで1だったHPが9999に戻る。
「……わ、我が負けるのか」
モンスター達の総攻撃を喰らった魔王ボルボのHPゲージは消えた。そして、魔王ボルボはその場に膝から崩れ落ちた。
「……勝った。勝ったんだ、俺」
召還したモンスター達が消えて行く。バトルを終えた証拠だ。こ、これで真珠や被害者達の意識が戻る。
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