第25話

29体のモンスターをどうにか仲間にできた。これで魔王ボルボを倒す下準備が少しできただろう。仲間は一体でも多いほうが良いに決まっている。

 ブランシュ・ルシャトの巨大な門が見えてきた。城が大きければ門もそれに比例して大きくなる。ざっと、10メートルぐらいはあるな。

 門の両側にはガーゴイルの石像が一体ずつ建っている。あの二体の石像が桃愛の言っていたやつだな。

「桃愛、あれが言っていた石像だよな」

 現実世界に居る桃愛に訊ねる。

「そう。それぞれ、属性が違うよ」

「何属性と何属性だ?」

「光と闇だよ」

「了解。どんな攻撃をするんだ?」

 弱点は知れた。あとは行動パターンが分かればどうにかなるはずだ。

「攻撃パターンは三つ書かれてる。一つ目は交互に爪で攻撃してくる。二つ目はそれぞれの属性の魔法を放ってくる。三つ目は前方と後方からプレーヤーを挟んで属性効果のある爪で攻撃してくるよ」

「……了解」

 攻撃パターンは3パターンか。隙が一番出来そうな攻撃は三つ目のやつだな。他の2パターンは戦いながら隙を探るしかないな。あとは二体のHPを気にしつつ攻撃しないとな。

色々と考えながら戦わないと。一瞬でも気を抜いたらお陀仏だ。

「戦ってる時、相手の位置とかもう一体の位置とか言った方がいい?」

「言ってくれ。その方が戦いやすい」

「りょ。じゃあ、声でアシストするよ」

「頼んだ。頼りにしてるぞ。桃愛」

「うん。頼りに答えるよ。絶対」

「おう。期待してる」

 1人で戦うより2人で戦った方が楽だ。それも、即席のコンビじゃない。昔からの付き合いだ。変なミスはしないと信じられるし。

 深呼吸をして、息を整える。その後、胸に手を当てて、自分のステータスを確認する。HPとMPはフルの状態だ。戦う準備は出来ている。

 俺はブランシュ・ルシャトの門の前へ行く。

「立ち去れ」

「命が欲しくば立ち去れ」

 門の両側に居るガーゴイルの石像から禍々しい声が聞こえる。

「立ち去らない。俺は魔王ボルボに用があるんだ」

「愚かだ」

「ここで死にたいのか」

「愚かじゃないし、ここで死なない。だから、この門を開けてくれ」

「そうか。それでは私達を倒せ」

「そうすればこの門は開かれる」

 ガーゴイルの石像達が変色していく。いや、元の姿に戻っていくと言えばいいのか。左側が白色、右側が黒色のガーゴイルになった。きっと、白色が光属性で黒色が闇属性ってところだろう。

「遊ちゃん。白色が光属性で黒色が闇属性だよ」

「ありがとう。聞こうと思っていたところだった」

 さすが、桃愛。気が利くな。

 俺は胸に手を当てて、特技と魔法の項目を表示する。今回は特技より魔法攻撃の方が良さそうだな。特技中にもう片方に攻撃される恐れがある。

 さて、どちらから攻撃してくるか。

 白いガーゴイルが爪で切り裂こうとしてきた。これはパターン1の攻撃だな。

 俺は白いガーゴイルの攻撃を避ける。すると、すかさず黒いガーゴイルが爪で切り裂いてくる。

 黒いガーゴイルの攻撃も避ける。桃愛から事前に聞いていてよかった。知らなかったら普通に当たっていた速度だ。

 白と黒のガーゴイルは俺から離れて距離を取った。

 パターン1の攻撃が終わるまではこちらから攻撃が出来ないな。避ける事に集中しないと。

「ユルティム・ソンブル」

 最上級の闇魔法。闇の球体を白いガーゴイルに向けて放つ。

 闇の球体は白いガーゴイルに直撃した。白いガーゴイルは苦しんでいる。白いガーゴイルの頭上にHPゲージが表示され、ゲージの10分の1が減った。

 単純計算であと8発同じ攻撃をして、少しだけHPを残す。同じ事を黒いガーゴイルにもする。そして、最後にレプリック・シュヴァリエで同時攻撃をすればいいな。

 ある程度戦い方が分かった。あとは気を抜かずに攻撃をしっかり避けて攻撃すればいいはずだ。

 黒いガーゴイルが黒い刃を投げてきた。これが魔法攻撃。パターン2の攻撃だな。それにしても、黒い刃の速度が速い。

 俺は屈んで、黒い刃を避けた。

「遊ちゃん。ジャンプ」

 桃愛の指示を信じて、その場でジャンプする。足元を白い刃が通過していく。

 俺は地面に着地して、白い刃が飛んで来た方向を見る。そこには白いガーゴイルが居た。

「サンキュー。桃愛」

「あいよ。またこの攻撃のパターンになったらジャンプか屈むタイミング言うから」

「頼んだ」

 桃愛の指示がなかったら確実に当たっていたな。それにしても、相手二体のガーゴイルの攻撃は考えられているな。相手が避けた状態を狙うなんて。響野祥雲って性格が悪かったのか。いや、今はそんな事考えている暇なんてないぞ。集中、集中だ。

「ユルティム・エクラ」

 最上級の光魔法。光の球体を黒いガーゴイルに向けて放つ。

 光の球体が黒いガーゴイルに直撃する。黒いガーゴイルは苦しむ。黒いガーゴイルの頭上にHPゲージが表示され、白いガーゴイルと同様、HPゲージは10分の1が減少した。

 こっちも、あと8発当てればいいか。

 白いガーゴイルが超高速度で移動した。目で捉えきれない。

 どこだ。どこに行ったんだ。

「遊ちゃん。後ろだよ」

 後方に居るのか。それじゃ、これはもしかして、攻撃パターン3か。

 黒いガーゴイルが俺の前で、両手を挙げて構えている。やはり、これは攻撃パターン3だ。

 白いガーゴイルの超高速移動。もし、黒いガーゴイルも同じ速度だったら、ジャンプをした所で避けられる気がしない。もっと、空中に飛ばないといけない。

「白いガーゴイルも両手を挙げて構えているよ」

「了解」

 どうする。どうすりゃ避けれる。考えろ。考えるんだ。

 魔法と特技で何か使えるものはないか。もう時間がないぞ。

 ……ソニックブーム。この特技は衝撃波を放つ。たしか、その反動で身体が後方に飛ばされるんだった。

 これだ。これでどうにか出来るはず。

 ソニックブームを選択。黒色と白色のガーゴイル居ない場所に白炎刀を構える。

「遊ちゃん。二体とも向かって来ているよ」

 一か八かだ。思いっきり吹き飛ばされてくれよ。

 俺はソニックブームを何も居ないところに放つ。その反動で身体が後方へと吹き飛ばされる。

 視界の先では白いガーゴイルと黒いガーゴイルが互いに爪で切り裂き合っている。どうやら、成功みたいだ。

 二体のガーゴイルのHPゲージは真ん中ぐらいまで減った。威力の高い攻撃はそれだけ代償もあるって事だな。

 二体のガーゴイルは痛みで苦しんで、その場から動けないでいる。

 今がチャンスだ。連続攻撃をかましてやる。

「ユルティム・ソンブル。ユルティム・エクラ。ユルティム・ソンブル。ユルティム・エクラ。ユルティム・ソンブル。ユルティム・エクラ。ユルティム・ソンブル。ユルティム・

エクラ」

 最上級魔法を交互に白いガーゴイルと黒いガーゴイルに放つ。

 二体のガーゴイルのHPゲージは残りわずかになった。レプリック・シュヴァリエを使うタイミングだな。

 腰に付けている袋から、レプリック・シュヴァリエを取り出して、使用する。

 目の前に俺と同じ姿の騎士が現れた。

「うわー遊ちゃんが2人」

 耳に桃愛の声が入って来る。なんて、緊張感のない声だ。俺は命懸けで戦っているのに。まぁ、そこが桃愛のいい所でもあるが。

「指示をください」

 俺と同じ姿の騎士が言った。

「白いガーゴイルにユルティム・ソンブルを放ってくれ。タイミングは、俺がユルティム・

エクラを放つのと同時だ」

「承知しました」

 正気を取り戻した白いガーゴイルと黒いガーゴイルが俺と俺と同じ姿をした騎士を囲む。

これは攻撃パターン3だな。

 黒いガーゴイルが両手を挙げて構えている。

「白いガーゴイルも両手を挙げて構えているよ」

 桃愛の声が耳に直接届いてくる。聞くより前に言ってくれるとはさすが桃愛だ。安心して攻撃に徹する事ができる。

「サンキュー桃愛」

 黒いガーゴイルが足で地面を蹴って、超高速で向かって来る。

「ユルティム・エクラ」

 俺は黒いガーゴイルに最上級光魔法を放つ。

「ユルティム・ソンブル」

 後方から同時のタイミングで最上級魔法の名前が聞こえてくる。さすが、ゲームだな。寸分の狂いもない。

 俺の放ったユルティム・エクラの光の球体が黒いガーゴイルに直撃する。それと同時にHPゲージが全てなくなった。そして、黒いガーゴイルの姿は煙のように消えて行く。

 振り向いた。俺と同じ姿をした騎士は姿はもういない。白いガーゴイルは黒いガーゴイルと同じように煙のように消えて行く。

 これは二体とも同時に倒して、バトルが終了したって事だな。

 白いガーゴイルが居た場所に白いハートが落ちている。いわゆる、ドロップアイテムってやつだな。

「遊ちゃん。勝利だね」

「おう。まぁ、桃愛のおかげだよ」

「まぁ、2割はそうだね」

「少なく見積もりすぎだぞ。8割は桃愛のアシストのおかげだ」

「うわー、ただただ嬉しい事言うね。彼女とか居ます?」

「お前なぁ。俺がお前と真珠以外と楽しく話しているとこ見たことあるか?」

「あーないわ。ごめん」

 桃愛は白々しく言った。逆に桃愛と真珠が俺以外の男子と仲良く話している所を見た事ないな。もしかして、俺らって学校で浮いてるのかな。

「現実世界に戻ったら覚えとけよ」

「都合の悪い記憶は忘れるたちなので」

「お前なぁ」

「さぁさぁ、ドロップアイテムを拾って」

「はいはい。分かりましたよ」

 俺は桃愛に言われたとおり、落ちている白いハートを拾った。

「それはヴィーグル。HPがゼロになる攻撃でも、HPを1だけ残してくれるアイテムだよ」

「そっか。それはありがたいアイテムだな」

 俺は腰に付けている袋にヴィーグルを入れた。

「だね。黒いガーゴイルもアイテムを落としているから拾って」

「了解」

 俺は黒いガーゴイルが居た方に視線を向ける。地面には黒いダイヤモンドが落ちていた。もしかして、あれって。

「おい。桃愛」

「そうだよ。遊ちゃんが思っているやつで間違いよ」

「ブラック・ダイヤモンドか」

「うん。その通り」

 俺はブラック・ダイヤモンドを手に取る。ここで手に入るアイテムだったんだな。

「効果は能力限界突破か」

「うん。でも、対象は個人でも複数でもいいみたい」

「そっか。ちょい違うだな」

 能力の限界突破は事件の物と一緒だな。対象範囲は違うみたいだけど。

 俺はブラック・ダイヤモンドを腰に付けている袋に入れる。どこで使うかだな。使う局面を間違えたらいけないアイテムだ。

「うん。あ、門が開きだしたよ」

 ブランシュ・ルシャトの門が自動で開く。城の扉が見えてきた。

「じゃあ、行きますか」

「罠とかギミックは都度教えるから」

「了解。頼むわ」

「頼まれました」

 俺は扉を開けて、ブランシュ・ルシャトの中へ入る。

 豪華な赤い絨毯、魔王ボルボの肖像画、禍々しいが美しい花を供えられた花瓶、金で作られたであろうモンスターのオブジェ、上階に繋がる螺旋階段。魔王の城らしい雰囲気が漂っている。

 俺は上階に行く為に螺旋階段へ向かおうと第一歩を踏み出した。

「遊ちゃん。伏せて」

 桃愛の指示が聞こえる。俺は指示通りに伏せた。

 何かが頭上を通り過ぎた気がする。俺は恐る恐る通り過ぎた物の進行方向を見る。そこには鉄の紐で吊るされた巨大なハンマーが揺れていた。

 もしかして、あれが頭上を通り過ぎたものなのか。

「サンキュー。桃愛」

「無事で何より。罠や仕掛けは今のやつのおかげで目視できるようになったはずだよ」

「お、おう」

 俺は周りを見渡す。たしかに目視出来るぐらい大量に罠を仕掛けがある。ギロチンや吹き矢、落とし穴らしき仕掛けなど大量だ。特に螺旋階段には一段ずつ罠などがあるんじゃないかと言うレベルだ。手すりを上っていくしかないな。

「ノーダメージで通れそうなルートを言うから指示通りに動いて」

「あのさ、そのルートって無理な動きとかしないか?」

 雑技団員とかサーカス団員でしかできない動きは求めないでくれよ。それだったら、少しはダメージくらってもいいルートにしてくれ。

「大丈夫。ゲームの世界だから身体能力向上してるはずだし」

「それって、現実世界だったら限られた人でしか出来ない動きがあるって事か」

「うん。でも、そんな事気にしない。だって、ここはゲームの世界なんだよ」

「お、お前な」

 他人事だからそんな事が言えるんだぞ。人間には不可能な事もあるんだぞ。特に自分の運動神経を超えた動き。それは自殺行為と同じなんだ。

「じゃあ、指示するから。匍匐前進で螺旋階段の手前まで行って」

「匍匐前進も種類があるだろ」

「あーそうだね。一番スタンダードなやつ」

「第五だな。きっと」

「たぶん。それ」

 俺は伏せた状態で、螺旋階段へ移動する。こんな事初めてだ。豪華な絨毯の上で匍匐前進するなんて。それに絨毯が滑り止めみたいになって、前に全然進まない。あー腹が立つな。普通に歩いて、螺旋階段まで動きたい。……もしかして、響野祥雲はプレーヤーが苛々して立ち上がるだろうと、予想して罠や仕掛けなどを設置しているのか。恐るべし、響野祥雲。性格が悪いぞ、響野祥雲。

「おい、着いたぞ」

 ようやく辿り着いた。これが現実世界だったら筋肉痛もんだな。

「おっつ。じゃあ、次はね。手すりの上だけを歩いたりして上って」

「や、やっぱり」

 思ってはいた。けど、言われると堪えるな。

「ファイト。次の階に行けば、ちょっとは普通に階段を上ってもいけるから」

「わ、わかった」

 俺は手すりの上に乗った。

 魔王の城ってなんでこんなに罠とか仕掛けを設置するんだろう。ゲームとかだから仕方ないんだとは思うけど。

 どうやって、魔王や魔王の手下とかは普段の生活を行っているのだろう。こんな城で生活していたら気を抜く場所がなくてストレスでどうにかなりそうな気がする。

 変な事を考えるな。今は他人の事より自分の事を考えろ。集中しろ、俺。集中するんだ、秋葉遊喜。お前がこのゲームを攻略するんだ。


 ブランシュ・ルシャト最上階に着いた。視界の奥には巨大な扉がある。その扉の前までの道の両脇には禍々しいドラゴンの石像が並んでいる。

 ちょっと休憩したい。この階に着くまでに何回ゲームオーバーになるかと思ったか。集中し過ぎて精神疲労が激しい。それに精神疲労はゲームのHPやMPには関係ないから余計に滅入ってしまう。

「大丈夫?」

 桃愛の声が聞こえる。

「大丈夫、大丈夫。けど、深呼吸をさせてくれ」

「りょ。ちなみにそこの石像達には仕掛けはないみたいだから」

「そっか。ありがとう」

「どういたしまして」

 俺は目を閉じて、深呼吸をする。そして、ゆっくり集中していく。この階に居るはずの魔王ボルボさえ倒せば、真珠も、被害者の人達も助かる。負ければ大勢の人達に迷惑が掛かる。絶対に負けられない戦い。どんな手を使っても勝つ。たとえ、誰かに馬鹿にされる戦い方であっても。卑怯だと言われる勝ち方でも。

 目を開けて、魔王ボルボが居るであろう部屋の扉へ向かう。

 近づくにつれて、心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。それと同時に頭が冴え出している。矛盾した身体だな。緊張しているのに集中は出来ている。まぁ、集中力散漫じゃないだけましか。

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