第24話

RPGの袋って、異次元ポケットだな。大量のアイテムをどれだけ入れても壊れないし、重たくならない。だって、壺を30個入れても何ともないんだから。

 現実世界だったら、壺を30個も袋に入れたら、袋の中で割れるだろう。それに、そんな量が入る袋自体ないし、重たくて運べない。

 装備品も見た目よりは軽くてよかった。動けない程の重さじゃない。でも、まだモンスターと戦闘を行っていないから性能を把握出来ていない。

 俺は舗装された道に戻り、純白の城に向かって進んでいる。

 武器に慣れる為に白炎刀を振る。少しでも戦闘経験不足を解消しないと。

 ある程度歩くと、全身黒い巨大なドラゴンが道を塞いでいるのが見えた。

 俺は驚きのあまり、その場で立ち止まった。

 ちょっと待ってくれ。あのサイズで雑魚なのか。もしかして。

「桃愛、ちょっとお伺いしてもよろしいですか?」

「なんだい?言ってくれたまえ」

 桃愛の声が耳に入って来る。

「道を塞いでいるドラゴンが居るんですが。あれは雑魚モンスターですかね?」

「その通りだよ。そのドラゴン、このステージで一番弱い雑魚モンスター」

「う、うそーん」

 あの風貌でこのステージで一番弱いモンスターなんて。色々とふざけすぎだろ。響野祥雲はこのゲームを作っている時何か辛い事でもあったのか。それとも、社会に対して不満を持っていたのか。プレーヤーを楽しませる気ゼロじゃないか。くそったれ。

「ファイト。応援だけはしてる」

「おう。ありがとうな」

 目を閉じて、深呼吸をする。

 どれだけ文句を言っても、戦わないといけないのは確実だ。気持ちを切り替えていかないと。集中しろ、俺。あいつで戦い方を覚えればいい。もし、負けそうになったら、壺で吸収すればいいんだ。

 俺は目を開けて、黒いドラゴンへ向かう。

 黒いドラゴンが俺に気づき、翼を強く、咆哮で威嚇してきた。

 威圧感が恐ろしい程にある。でも、こいつがこのステージで一番弱い存在。ここで怖気ついたら、真珠を救えない。

「道を開けやがれ」

 俺は色んな感情を振り払うように叫びながら、黒いドラゴンに向かっていく。

 黒いドラゴンは口から火炎を放った。

 この火炎に当たればダメージをかなり喰らうはず。

 俺は火炎を避ける。

 黒いドラゴンはまだ火炎を放っていて、隙が出来ている。今がチャンスだ。

 黒いドラゴンに近づき、白炎刀を振る。

 俺が振った白炎刀は黒いドラゴンに命中した。黒いドラゴンの皮膚からは血が溢れ出している。きっと、かなりにダメージを与えたはずだ。

「ぎゃあー」

 黒いドラゴンは叫びながら苦しんでいる。

 俺は黒いドラゴンから距離を取る。いきなり、連続攻撃はリスクがありすぎる。

 黒いドラゴンの頭上にゲージが現れた。ゲージがほんの少しだけ減っている。もしかして、あれが黒いドラゴンのHPなのか。

 それだったら、ダメージ全然与えられていないじゃないか。最強武器で攻撃しているのに。桃愛が言った通りに壺で封印していかないといけないな。

 でも、まだこのまま戦わないと。通常攻撃は今の攻撃でなんとなく理解した。あとは特技と魔法の使い方を覚えないといけない。

 俺は黒いドラゴンの次の攻撃を待つ。

「桃愛、特技と魔法の使い方を教えてくれ」

「胸に手を当てると目の前に特技と魔法の項目が表示されるからその中から使いたい魔法や特技をタッチして選んで」

「わ、わかった」

 戦いながら選ぶのか、結構難しいな。相手の動きを気にしつつだもんな。

 黒いドラゴンは空中へ飛ぶ。そして、俺目掛けて猛スピードで向かって来る。

 さっきの攻撃よりも、ダメージはありそうだ。

 俺は全力で走って、黒いドラゴンの攻撃を避けた。

 黒いドラゴンは地面に衝突して、気絶している。

 特技と魔法を使うチャンスだな。

 俺は胸に手を当てる。すると、桃愛が言っていた通りに魔法と特技が表示された画面が現れた。

 黒いドラゴンに視線を向ける。まだ意識を取り戻していないな。

 俺は魔法の中から攻撃強化魔法「レホンール」をタッチ。

 身体中に力がみなぎって来た。これで攻撃力が二倍になったはず。

 特技の項目から「竜殺しの乱舞」を選択。特技の説明にはドラゴン系のモンスターに極ダメージを与えると書いている。でも、どうやって特技を発動するんだ?一度、桃愛に聞く前に攻撃してみるか。

 俺は気絶している黒いドラゴンに白炎刀を振った。すると、身体が勝手に動き、黒いドラゴンを12回切った。

 なるほど、選んだ特技のモーションを勝手に行ってくれるのか。でも、それって、攻撃中は無防備になるし、カウンターもくらう可能性もあるな。考えて使わないと。

 黒いドラゴンは俺の攻撃で目を覚まして、俺を睨んで来る。しかし、黒いドラゴンのHPは「竜殺しの乱舞」でかなり減った。もう一度攻撃すれば倒せる。

「遊ちゃん。戦い方分かった?」

 桃愛の声が耳に直接入って来る。

「おう。なんとなく」

「じゃあ、そのドラゴンを壺で封印しよう」

「なんで?」

「レベルマックスなんだから、倒しても経験値もらえないじゃん」

「あ、たしかに」

 倒し損になるのか。無益な殺生はよくないしな。

「それに壺で封印したモンスターは仲間になるから。そっちの方が一人で攻略するより少し安心するでしょ」

「モンスターを仲間にするか。それはいいな。やるか」

 RPGゲームでモンスターを仲間に出来るって、男からしたら最高な設定なんだよな。だって、さっきまで戦っていたやつが仲間になるなんて少年漫画っぽくて熱いし。

「じゃあ、腰に付けている袋から壺を取り出して」

「了解」

「相手の攻撃を気にしつつだよ」

「分かってるよ」

 俺は黒いドラゴンの動向を気にしながら、腰に付けている袋から壺を取り出した。

「それでどうすればいいんだ?」

「黒いドラゴンに壺の口の方を向けて。近づいてからね」

「はいよ」

 黒いドラゴンは俺に向かって火炎を放ってきた。

 俺は壺を持ちながら、火炎を避ける。

 黒いドラゴンは火炎を放ったままで隙が出来ている。どうやら、攻撃パターンはこの火炎と空中からの突撃だけみたいだ。HPが減ったから違う攻撃でもしてくると思っていたんだけどな。

 俺は黒いドラゴンに近づく。そして、黒いドラゴンに壺の口を向けた。

 壺の口が黒いドラゴンを吸収していく。黒いドラゴンは抵抗しようとするが、吸引力に負けて、壺に吸い込まれてしまった。

「……す、すげぇ」

「凄いでしょ。あと壺が29個残ってるから、29体のモンスターを仲間にできるよ」

「お、おう」

 ある意味最強のチートアイテムのような気がする。これで魔王ボルボを封印できないかな。いや、それはないな。それだったら、壺ゲーになってしまうもんな。

「ちなみに魔王ボルボは吸収できないみたい」

「やっぱり」

 そんな上手い話はないよな。でも、これで道中に出てくるモンスターは全部仲間に出来るって事だな。仲間が居るのと居ないとじゃ、心の余裕が違うもんな。

「テネーブル・ドラゴンを入手しました。名前をつけますか?」

 機械の声が聞こえ、目の前に名前を入力する画面が現れた。この声は何か決める時に訊ねてくるみたいだな。

「……うん。どうしようかな。そうだ」

 俺は名前入力画面で「テネテネ」と入力した。

「テネテネでよろしいですか?」

 機械の声が訊ねてくる。画面には「はい」と「いいえ」が表示されている。

 俺は「はい」をタッチした。

「かしこまりました。それでは旅を続けてください」

 目の前から画面が消えた。これで先に進めるな。

「なんで、テネテネにしたの?」

「なんとなく。昔のゲームのモンスターみたいだろ」

 100年以上前のゲームで仲間のモンスターの名前でこういう名前があった気がする。それがふと頭に浮かんだからそうしただけ。そこまで深い理由はない。

「それはそうだけど」

「何かあるのか?」

「いや、遊ちゃんだなって思って」

「どう意味だよ」

「深い意味はないよ。さぁ、先に進もう」

「おう。出会うモンスターを封印しまくるぞ」

 俺は純白の城に向かう為に舗装された道をひたすら進んでいく。

 思った以上にあの純白の城まで距離があるな。あとどれだけ歩けば到着するのだろうか。

 道の両脇に生えている木陰に隠れている金色の宝箱が見えた。

「宝箱か。開けるべきか、開けないべきか」

 ボソッと呟いた。

 金色の宝箱の中にはアイテムが入っているのか。それとも、モンスターが入っているかもしれない。もし、モンスターだった場合は即死効果の特技や魔法を覚えている事が多い。

 即死効果が適応された瞬間、ゲームオーバーだ。

 俺は金色の宝箱の前に行く。

 開けてみたい。けどな。怖いな。モンスターだったら嫌だしな。叩いたら分かるかな。

 俺は金色の宝箱の側面を叩いた。

 金色の宝箱の中からは何も聞こえない。モンスターは居ないか。いや、息を潜めているだけなのかもしれない。

「遊ちゃん、何してるの?」

 桃愛の声が耳に届いてきた。

「宝箱を開けようか悩んでいるんだよ」

「そうなんだ。開ければいいじゃん」

 適当の返しだな。もし、モンスターが居たらここでゲームオーバーかもしれないんだぞ。

「モンスターが居たらどうするんだよ。即死効果のある魔法や特技を覚えているかもしれないんだぞ」

「ハハハ、そんな事で悩んでたんだ。大丈夫だよ。その宝箱にはレプリック・シュヴァリエが入ってるよ」

 桃愛は笑いながら言った。

「知ってるなら早く言えよ。俺の反応見て楽しんでたんだろ」

「そんな事しないよ。なんで、聞いてこないかなって思ってっただけだよ。設定資料にアイテムの配置位置とか書かれてるんだし」

 それもそうだな。桃愛が設定資料持っているんだから、何でも聞けばいいんだ。なんで、そんな事を忘れていたんだ。変に緊張しているのか。

「……そっか。それで、レプリック・シュヴァリエってなんだ?」

「複製騎士って言ったらいいかな。自分と同じ能力で指示通りに行動してくれる騎士を一体生み出す道具だよ」

「何か凄い道具だな」

「うん。後で必要になるから手に入れといて」

「……わかった」

 俺は金色の宝箱を開けた。中には無地の人形が入っていた。これがレプリック・シュヴァリエか。

 俺はレプリック・シュヴァリエを金色の宝箱から取り出す。そして、腰に付けている袋に入れる。

「あのさ。桃愛」 

「なに?」

「この道具はどんな場面で使うんだ?」

「ネタバレしていいの?」

「おう。真珠達を助けないといけないからな。普段なら怒るかもしれないけど」

 ゲームを楽しむ時はネタバレされるとぶち切れそうになる。先の事を教えられたら知る楽しさを奪われるから。でも、今は楽しむのではなく攻略する事が目的だ。だから、ネタバレしてもらって、これからの事に対して対策が出来る。

「それもそうだね。だったら教えるよ」

「頼む」

「純白の城・ブランシュ・ルシャトの入り口を護る二体のガーゴイルの石像が居るの。その二体は同時に倒さないと、復活し続けちゃうんだ」

「面倒だな。だから、自分の指示通りに行動をするレプリック・シュヴァリエを使って同時に倒すんだな」

 同時に倒さないといけないモンスターって嫌いだな。タイミングとか考えないといけないし。あと、純白の城にも正式な名前があったんだな。最初に言ってくれよ。まぁ、教えてもらっても何もないけど。

「そう言う事」

「じゃあ、何かあれば逐一聞くな」

「りょ。任せんしゃい」

「頼んだ」

 ゲームオーバーに一度もなってはいけない。だから、正々堂々攻略しなくてもいい。どんな手段を使っても攻略すればいい。人の命や人生が掛かっているんだ。卑怯とかそんな事を考えては駄目だ。

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