第14話

サイバー・スクワッドのミクスコクーンでミクスへ意識を飛ばした。

 ワークスペースのより数段機材がいい為、現実世界に居る5人までなら会話が可能になっている。

 俺はメルカマルクへ行き、ブネル社のゲーム専門店「ブネルスター」を目指す。

 なんだろう。この居心地悪い感じは。きっと、理由はあれだ。亜砂花さん、古道さん、真珠、桃愛に行動を見られているからだ。

 俺が少しでも変な事をすると、誰かから怒られたり注意されたりするはず。あー面倒だ。

「ブネルスター」の前に着いた。何の変哲もない普通の店だ。ここで有り金とアイテムを全部奪われているのか。

「遊ちゃん。慎重に入りなさい」

 亜砂花さんの声が直接耳に入って来る。

「了解」

 俺は深呼吸をする。その後、「ブネルスター」の入り口のドアを開けて、店内に入った。

「……ここもかよ」

 店内には誰も居ない。商品が並んでいるだけ。どうやって、体験版をプレイすればいいんだ。

「アナーキーシティー・ガトリングを体験プレイしませんか?」

 どこからか機械の声が聞こえる。

「……あぁ、体験プレイするよ」

 そう答えるしかない。それが目的だから。

「ありがとうございます。もし、貴方がこの体験版をクリアできなかったら所持金とアイテムはいただきます」

「分かった。それじゃ、俺が勝てば今まで体験プレイをしたプレーヤーから奪ったものを返してもらう」

「いいでしょう。それではアナーキーシティー・ガトリングのゲームエリアへ行く為のホールを貴方の前に出現させます」

 俺の目の前に大きな穴が現れた。この大きな穴に入れば、《アナーキーシティー・ガトリング》の世界に行ける。

 俺は目の前の大きな穴に躊躇する事無く入った。視界は一瞬にして、真っ暗になった。


 アナーキーシティー・ガトリングの世界。

 どんよりとした空。重苦しい空気。荒廃した街が見える。街の前には大勢の悪党や現実には居ない化け物達がうじょうじょ居る。

「遊ちゃん。聞こえる」

 亜砂花さんの声が耳に直接届く。

「聞こえるよ」

 どうやら、この世界は外部からでもある程度干渉できるみたいだ。何かあれば現実世界で調べてもらいながら攻略できそうだ。

「それならよかったわ」

「じゃあ、進むね」 

 俺は街へ続く荒野の一本道を歩く。

 なんか世紀末って感じだな。アニメみたいだ。アナーキーって、無政府とかそんな意味だったよな。それじゃ、もしかしたら、このゲームってルールがあるようでないのかもしれない。いわゆる、何でもありなゲームかも。まぁ、全部憶測だけど。

 街へ向かっている道中に銃と弾丸100発が入ったケースが落ちていた。

「それが初期装備です。お拾いください」

 どこからか機械の声が聞こえる。

「了解っと」

 俺は機械の声の指示通りに銃と×100と表記された弾帯を手に取った。

 両方全然重くないな。こう言う所はゲームっぽさを出しているのかな。昔のゲームを体験できる施設でやったゲーセンのゾンビを撃つシューティングゲームの銃は結構重かったけど。

 俺は弾帯を上半身に巻いた。

「それではゲームスタートです。街中央の噴水にたどり着けばゲームクリアです。ご武運を祈っております」

 機械の声はゲームスタートを宣言した。

「おいおい。ちょっと待った。チュートリアルは?」

 チュートリアルがないなんて聞いた事ないぞ。それに、この銃に弾丸を補充する方法とか知らないぞ。

「ありません。戦いながら学んでください」

「そんな殺生な。じゃあ、このゲームの難易度だけ教えてくれ」

「難易度設定はアナーキーです」

「アナーキーだと。それってどれくらい難しいんだ」

 機械の声から返答がない。

「噓だろ。おい。なんて不親切なゲームだ。これで負けて、所持金とアイテムを奪われるなんて理不尽すぎるぞ」

 機械の声は何も言わない。

 今までこのゲームを体験プレイしたプレーヤー達が不憫だ。ルールを知らないままゲームをプレイして、知らないうちにゲームオーバー。それで所持金とアイテムが奪われるなんて。

「遊ちゃん。難易度アナーキーは普通の難しいより2段階上の難しさ。一度でも相手の攻撃を喰らえばゲームオーバーよ」

 亜砂花さんの声が耳に届く。

「え、マジ?」

「マジよ。見つけた資料に書いてあるわ」

「初プレーだよ。まだ敵を撃ったこともないんだよ。いわば、この世界では赤子だよ」

「大丈夫。貴方ならよちよち歩きでもクリアできるわ」

「よちよち歩きに移行する前にゲームオーバーになりそう気がします」

 人生初の敗北になる可能性は99%だ。クリアできるイメージが湧かない。この世界に来るまでの自信はどこかえ消えて行った。

「貴方しかいないの。頼んだわ」

「……はい」

 たしかにその通りだ。俺しか居ない。でもな。……あーもういい。無になれ。こんちくしょう。

「くそったれ。街に着くまでに操作になれてやる」

 俺は銃を構えて、近くに落ちている巨大な動物の骨を撃つ。

 弾丸は巨大な動物の骨に命中した。

 思っていた箇所に当たった。普通に撃つ動作は確認OK。次は連射が何回できるかだ。

 俺はまた拳銃を構える。そして、引き金を引く。

 弾丸が動物の骨に向かって飛んで行く。

 俺は引き金を押し続けた状態にする。すると、弾丸が何発か銃口から放たれる。

 ……連射できた回数は10回。全て自分の思い通りの箇所に当たった。

 引き金を引くがカチャカチャとしか言わない。弾丸がもうないって事だな。でも、どうやって、弾丸を装填するんだ。弾丸を入れれそうな場所は見当たらないし。

 なんとなく銃を振ってみた。すると、弾帯の×100の数字が89になった。

「もしかして、これが補充方法」

 俺は上半身に巻いている弾帯を脱いで、弾丸の数を確認する。

 た、たしかに弾丸の数が11個減っている。こ、これだ。この銃を振るのが弾丸の装填方法なのか。

「これで進める」

 俺は弾帯を上半身に再び巻く。その後、街へ向かって歩く。

 街の方からフルフェイス姿の者達がバイクに乗り、日本刀を地面に当てながらこちらに向かって来ている。

 あ、あれは確実に敵だ。でも、なんで日本刀なんだよ。なんかハンマーとかそっち系だと思っていたのに。まぁ、アナーキーシティーだから仕方がないか。

 俺は深呼吸をする。そして、こちらに向かって来ているフルフェイスの集団に銃を構える。

 日本刀を投げてくる素振りはない。だったら、落ち着いて撃っていけばどうにかなる。

 俺はフルフェイス姿の奴らの心臓を1人1人撃ち抜いていく。

 心臓を打ち抜かれたフルフェイスの奴らはバイクから落ちて、消えて行く。

「これで最後だ」

 最後の1人の心臓を打ち抜いた。心臓を打ち抜かれたやつはバイクから落ちて、消えて行く。これで残り弾数は80。

「アイテムを付与します」

 機械の声が聞こえてくる。

 俺の目の前に新品の黒いバイクと×100と表記された弾帯が現れた。

「無免許だけど、ゲームの世界だからいいか」

 俺は弾帯を手に取り、上半身に巻く。そして、黒いバイクに乗る。

「これで時間短縮だ」

 俺は黒いバイクを運転して、街へ向かう。


 街に入った。黒いバイクのおかげでかなりの時間短縮できている。

 街の前に敵が大勢居たが何の苦労もなくクリアした。アイテムも色々と手に入れた。あとは街中央にある噴水に向かうだけ。

「お前を殺してやる」

 突然、目の前にゴブリンが現れた。

 なんだよ。これなら簡単に命中できるじゃん。これが本当に一番難しいレベルなのか。

「お前らも戦え」

 ゴブリンは言った。

「お前ら?」

 周りにモンスター達が現れ、逃げ場がなくなった。

 くそ。ちょっと気を抜いてしまったのが駄目だった。考えろ。考えるんだ。人間が作ったものには必ず逃げ道がある。

「かかれ」

 ゴブリンがモンスター達に命令を出す。モンスター達は俺に向かって、飛び掛ってくる。

 どうする。何をすればいい?……そうだ。

 俺はハンドルを右手で握り、もう片方の左手で拳銃を使って、ゴブリンを撃つ。

 ゴブリンは跡形もなく消えた。これで道は出来た。しかし、このままバイクで突き抜けても背後を取られる可能性がある。

 俺は急ブレーキーをして、バイクをむりやり止める。そして、俺に向かって来るモンスター達を撃ちまくる。

 弾丸がなくなれば、銃を振って、装填。装填が完了すればまた打つ。それを何度も繰り返した。

 ――視界に映るモンスターはいなくなった。

 かなりの数だった。軽く300くらいは居たはずだ。

 ……弾数は残り1発。モンスターを倒しても、弾帯は入手できなかった。

 これでクリアできるのか。いや、しないといけない。

「遊喜。後ろ」

 真珠の声が直接耳に入って来た。

 俺は真珠の声を聞いた瞬間、後ろに向かって、拳銃の引き金を引いた。

 モンスターの悲鳴が後方から聞こえる。

 俺は振り返る。そこにはモンスターが倒れて、消えて行く。

「サンキュー。真珠」

 た、助かった。これでゲームオーバーだったかもしれない。けど、弾数はゼロになった。攻撃手段はもうない。

「もうちょっとでクリアなんだから集中しなさいよ」

「すんません」

「こんな事でゲームオーバーになるなんて許さないから」

 真珠は怒りながら言った。

「はい。気をつけます」

「それじゃ、早くクリア」

「了解」

 俺は両頬を手で叩いて、気合を入れた。

 バイクを運転して、街中央に向かう。ここからはどんな敵が来ても攻撃が出来ないから

避けるしかない。

 モンスター達が視界を遮るように大量に溢れ出して来る。

 俺は必死に避けながら、前に進んでいく。

 バックミラーで背後を確認する。大量のモンスターが俺を追いかけてきている。

 恐ろしい追いかけっこだ。休む暇もない。

 ようやく、噴水が見えてきた。あそこに辿り着いたらゲームクリアだ。

 俺はバイクのアクセルを回して、スピードを上げる。

 あと100メートルぐらいだ。もうクリアだ。

 上空から隕石が大量に降って来た。

 おいおい。何でもありすぎるだろ。そんなに隕石が降れば、噴水が潰れるだろう。どんな事考えて作ったんだよ。このゲーム。

 俺は隕石を避けて、前に進む。

 残り30メートル。

「う、うそーん」

 目の前の道がどんどん陥没していく。走れる場所がどんどん狭くなってきている。一瞬でも、ハンドル操作を間違えれば穴に落ちてしまう。

 これ、攻略させる気ゼロじゃん。体験プレイだよね。こんな体験版だったら、みんな絶対買わないよ。

 残り3メートル。

 目の前の道が全部陥没した。もう飛ぶしか方法が残ってない。

 俺はバイクのアクセルを回して、最高速度を出して、噴水に目掛けて飛んだ。しかし、バイクはどんどん落ちていく。このままじゃ穴に落ちてしまう。

 俺はサドルに両足を乗せて、中腰の体勢になって、飛ぶタイミングを伺う。

 ……3、2、1。今だ。

 俺は噴水に目掛けて、ダイブする。

 届くか。届かないか。いや、届いてくれ。

「た、助かった」

 噴水の前の地面に身体全身激突しながらも着陸できた。

 あー死ぬかと思った。ゲームだから死ぬ事はないんだけど。気持ち的に死にそうだった。

「こ、これでクリアだよな」

「はい。おめでとうございます。ゲームクリアです。今までのプレーヤーから拝借した所持金とアイテム返します」

 機械の声が聞こえてくる。

「おう。当たり前だ」

「それではブネルスターにお戻しさせていただきます。貴方を待つ方がいます」

「お、俺を待つ方だと?」

 視界が突然真っ暗になった。俺を待つ方とは誰なんだ。てか、ゲームクリアしたんだからちょっとは休ませてくれ。

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