第15話

ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になっていく。

 ……ここは「ブネルスター」か。どうやら、《アナーキーシティー・ガトリング》の世界から戻って来れたらしいな。

 俺は周りを見渡して、「俺を待つ方」を探す。だ、誰も居ないじゃないか。

「おい。誰も居ないじゃないか」

「そう褪せるな。勇者よ」

 後方から男性の声が聞こえる。

 俺は振り向いた。そこには禍々しい黒い鎧を身に纏い、瞳は赤く、髪色は銀色、頭から2本の角が生えた顔立ちがはっきりしたイケメン男性が立っていた。

「だ、誰だ」

 勇者だと。それにこの話し方、もしかして。

「この前も名乗ったのに忘れたか。余の名は魔王ボルボ。《ノワール・ネージュ・イリュジオン》の世界を支配する魔王なり」

「ま、魔王ボルボだと。それに今、《ノワール・ネージュ・イリュジオン》って言ったか」

 おい。ちょっと待て。《ノワール・ネージュ・イリュジオン》って響野祥雲が製作したゲームだよな。最近タイトルだけが発見されたゲームだ。

「あぁ。お前は見所がある。だが、まだ我々の世界へ招く招待状は渡せない」

「招待状?どう言う事だ?」

「資格だよ。我々に挑む為の」

「そ、それはどうすれば手に入る?」

「……自分で考えろ。勇者よ」

 そこは教えてくれないのかよ。見所があるって言ったくせに。

「わ、わかった。自分で考える。でも、教えてほしい事がある」

「なんだ?」

「この事件もお前が仕組んだものなのか?」

「あぁ。その通りだ。ブネル社の社員を洗脳してな」

「なぜ、そんな事をする」

「より強い勇者を見つける為だ」

「お前は魔王だろ。勇者を見つける必要がどこにある」

 魔王がわざわざ勇者を探すなんて聞いた事がないぞ。

「前にも言っただろう。ある人の為だ。その人の為に我々のゲームをクリアしてほしいのだ」

「……ある人の為に?」

「それは誰なんだ?」

「教えられない。その代わりにこれをやろう」

 魔王は掌に魔法陣を出現させた。そして、その魔法陣から説明書みたいなものが出て来た。

 魔王はその説明書らしきものを俺の前に投げ捨てた。

 俺はその説明書らしきものに視線を向ける。

「……説明書?」

「その通りだ」

 魔王が投げ捨てたものは《ノワール・ネージュ・イリュジオン》の説明書だった。

 俺は《ノワール・ネージュ・イリュジオン》の説明書を拾った。

「なぜ、これを俺に」

「言っただろう。見込みがあるからだ」

「……そっか」

「それでは失礼させてもらう」

「ちょっと待って」

「なんだ?」

「お前が洗脳した人達とプレーヤーから奪った所持金やアイテムは元に戻してくれるんだろうな」

「当たり前だ。お前がこのゲームをクリアしたからな。少し経てば全て元に戻る」

「お、おう」

「ではさらばだ。勇者よ」

 魔王ボルボは一瞬にして、姿を消した。

 この前のブラック・ダイヤモンド事件。そして、今回の所持金とアイテムを奪われる事件は繋がっていた。

「……ゆ、遊ちゃん。聞こえる」

 亜砂花さんの声が直接耳に届いてきた。

「聞こえるよ」

「よかった。何者かに連絡手段が遮断されて連絡ができなかったから」

「じゃあ、今の会話は聞いてなかったの?」

「今の会話?何があったの?」

 魔王ボルボが連絡を遮断したのだろう。

「今回の事件の犯人と話したんだ」

「……犯人と?」

 亜砂花さんの驚いた声が聞こえてくる。

「うん。逃げられたけどね」

「その犯人は誰なの?」

「……魔王ボルボ」

「魔王ボルボ?ブラック・ダイモンド事件の主犯よね」

「そうだよ。今回の事件もそいつが引き起こした事件なんだ」

「……そう。奪われた所持金やアイテムは?」

「全て取り返せたはずだよ。それにブネル社の人達の洗脳も解けたはず」

「ブネル社の人達の洗脳?」

「うん。このゲームは魔王ボルボがブネル社の人達を洗脳して作らせたゲームなんだ」

「……そうなの。わかったわ。あとの話は現実世界で聞くわ」

「わかった。新たな手掛かりも手に入れたから」

 事件が進み始めた。それはどんどん危険度が増していくと言う事。今回の事件でもかなり危険だった。けど、これ以上になるのは確実。ちょっと不安になってきた。もっと、気を張らないといけない。今まで負けた事が無いなんて何の意味もないのかもしれない。

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