第13話
10月28日。
今日はいつも使っているワークスペースがあるゲーム
あー捗らない。やっぱり、ワークスペースじゃないと集中できない。自分の部屋にはゲームやアニメや漫画などの誘惑が多すぎる。
あと3割で完成なのに。あー集中しろ。俺に集中力を与えてくれ。
右腕に付けているアルケーウォッチが突然鳴り出した。
俺はアルケーウォッチの画面をタッチする。すると、空中に画面が現れる。画面には亜砂花さんの名前と下には電話に出るか出ないかの選択肢が現れた。
これはもしかして、また事件か。魔王ボルボか。それとも、意識誘拐事件か。どっちだ。
それとも全く違う事件なのか。
空気中に出現している画面をタッチして電話に出る。
「もしもし、遊ちゃん」
「はい。なんですか?」
「事件よ。サイバー・スクワッドに来てほしいの」
亜砂花さんは焦っているようだ。事件だから仕方が無いか。
「わ、分かりました」
「今、どこに居るの?ワークスペースには見えないけど」
「今日はガラリアが定期清掃日で男子寮の自分の部屋に居ます」
「そう。じゃあ、二人もワークスペース以外にいるのね」
桃愛は女子寮の部屋で漫画か何か書いているだろう。真珠は分からない。打ち合わせかもしれないし、他の用事で出かけているかもしれない。
「はい。そうです」
「分かったわ。遊ちゃんは男子寮の前で待っていて。古道君に迎えに行かせるから」
「了解です。他の二人に連絡した方がいいですか?」
「しなくていいわ。私がするから」
「分かりました」
「じゃあね。また後で」
「はい。また後で」
通話が終わり、空気中に現れていた画面は消えた。
俺は椅子から立ち上がり、サイバー・スクワッドに行く準備を始める。
早くしないと。寝巻きのままだ。
サイバー・スクワッド本部の廊下。
俺達三人と古道さんはゲーム犯罪課司令室に向かっている。
桃愛は想像通り女子寮の部屋に居た。真珠も驚く事に桃愛と同じように部屋に居た。思った以上に早く全員集まってよかった。
ゲーム犯罪課司令室の前に着いた。
ドアが自動で開く。
俺達三人と古道さんはゲーム犯罪課司令室に入る。
ゲーム犯罪課司令室のモニターの前で亜砂花さんが待っていた。
「来たわね。三人は椅子に座って」
俺達三人は頷いて、部屋中央のテーブル前の椅子に腰掛ける。古道さんは亜砂花さんの隣に行った。
「亜砂花さん。事件内容は?」
「ロクス内で所持金やアイテムを全て奪われる事件が多発してるの」
「魔王ボルボが起こしたブラック・ダイヤモンド事件に意識誘拐事件。それに今回の事件。事件が起こりすぎだろ」
今までこんなに事件が立て続けに起こる事なんてなかったぞ。
「えぇ。その通りよ。私達も驚きを隠せないでいるわ」
「今回の事件は手掛かりか何かあるんですか?」
真珠は亜砂花さんに訊ねた。
「今回はあるわ。奪われた人々全員がブネル社が製作したゲーム《アナーキーシティー・
ガトリング》の体験版をプレイした。そして、全員ゲームオーバーになったの」
「そうですか」
「それじゃ、そのブネル社に行ったらいいんじゃないっすか」
桃愛は脳天気に言った。
「おい。それはさすがに無理だろ」
アポイントもなしに会社へ行くなんて無礼だし。まず中に入れてくれないんじゃ。でも、待てよ。俺達はサイバー・スクワッドだったよな。
「無理かー」
「無理じゃないわ。そうしようと思って、礼状を取っているから」
「な、何の礼状」
どう言う理由の礼状なんだ。教えてくれ。そうじゃないと怖くて仕方が無い。
「それはね。今はノーコメントよ」
「だ、大丈夫なんですか?それは」
「えぇ。大丈夫よ。さぁ、みんな行くわよ」
「え、ちょっと。説明してくださいよ」
日本国民には知る権利があるんだ。だから、教えてください。
「遊ちゃん。私の言う事を聞くのよ。さもないと、二人に数年前撮った貴方の女装写真を見せるわよ」
亜砂花さんは俺の耳元で囁きながら脅してきた。
「わ、分かりました」
ずるい。大人ってずるい。その証拠を手に入れてやる。そして、法廷に持って行ってやる。それで裁判を起こして勝ってやる。
「よろしい」
亜砂花さんはにこりと笑った。怖い。怖すぎる。笑顔でも怖さを表現できるんだ。
俺達三人と亜砂花さんと古道さんは司令室をあとにした。
午後16時。空は少しずつオレンジ色に移行している。
ドラゴンや妖精などと言った架空の生き物が外壁に描かれている建物の前で、古道さんは車を停車させた。
「ここです」
「みんな降りて」
車のドアが自動で開く。俺達全員は車から降りる。
建物の入り口の壁には「ブネル社」と書かれた表札が張られている。
「あれ?なんだかおかしくない?」
桃愛はブネル社を見て、言った。
「何がおかしんだよ」
「だって、今日は営業日なんだよね?」
「そうよ。桃愛ちゃん」
亜砂花さんが答えた。
「それがどうしたんだよ」
「じゃあ、なんで電気が点いてないの?まだ定時にもなってないよね」
桃愛はブネル社を指差した。
「た、たしかにそうだ」
どの部屋も明かりが点いていない。そんな事は普通はありえないぞ。
「その通りね。古道君、先に私達が入るわよ」
「了解しました」
「俺達はどうすればいいですか?」
「私達が帰って来るまで待っていて」
「分かりました」
「じゃあ、行くわよ」
「はい。行きましょう」
亜砂花さんと古道さんは腰に巻いているホルスターから拳銃を取り出す。そして、その拳銃を構えながらブネル社に入っていた。
二人なら大丈夫だろ。もし、何かあったら応援を呼べばいい。
「でかしたな。桃愛」
「本当に凄いね」
「まぁね。天才だから」
桃愛は自慢げに言った。天才作家ではあるけど。その分野の天才ではないだろう。でも、
まぁ、誰よりも早く異変に気づいたのは桃愛だ。
「お、おう。今日はそれでいいよ」
「私も以下同文よ」
「えへへ。げへへ」
桃愛は独特な喜び方をした。桃愛は時々、今までしたことない仕草や感情表現をする事がある。今の喜び方はそれに該当する。
――10分程が経った。
銃声や叫び声などが聞こえてこないから二人の身は安全だろう。
ブネル社から亜砂花さんと古道さんが出て来た。拳銃は腰に巻いているホルスターに戻している。建物の中に危険な物はなかったって事か。
「どうでした?」
「……何もなかったわ」
「何もなかった?どう言う事?」
「見れば分かるわ。一緒に来なさい」
俺達三人は頷いた。そして、ブネル社に入って行く亜砂花さんと古道さんの後についていく。
ブネル社の中に入る。
エントランスには誰も居ない。電気も点いていない。
「暗くてよく見えないよね」
古道さんはそう言って、小型の懐中電灯を点けた。
「ありがとうございます」
俺達三人は古道さんに頭を下げた。
階段を上り、二階に上がる。二階もエントランス同様電気が点いていない。
俺達三人は亜砂花さんと古道さんのあとをついて行き、一番近い部屋に入る。
「な、何もない」
「もぬけの殻」
「夜逃げか何かしたわけ」
部屋には何もない。空きオフィスみたいにすっきりしている。ありえないぞ。だって、入り口にはブネル社と書かれた表札があったんだから。
「ここの部屋だけじゃない。他の部屋もよ」
「もうこれ自体が事件じゃん」
「そうよ。本部に一度帰りましょう」
「わ、わかったよ」
ここに居ても何も進展しないのには事実だ。
「遊ちゃん。本部に着いたら貴方にやってほしい事があるの」
「なに?」
「アナーキーシティー・ガトリングの体験版をプレイしてほしいの」
「……わかった」
それが一番手っ取り早く事件の解決への糸口になるはずだ。やらないと言う選択肢はない。それにゲームだ。俺が攻略できるないはずがない。
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