第7話
サイバー・スクワッド本部。ゲーム犯罪課指令室。
俺と真珠と桃愛は部屋中央にあるテーブル前の椅子に腰掛けて、亜砂花さんが来るのを待っていた。
遅いな、亜砂花さん。集合時間30分は過ぎてるぞ。まぁ、あの人が時間にルーズなのは昔からだから別にいいのだけど。大人としてはどうなのだろうか。これを指摘したら、色々とされそうだから何も言わないけど。
ドアが開き、亜砂花と古道新一(こどうしんいち)さんが司令室に入って来た。
古道さんは俺達の上司で、亜砂花さんの後輩である。とても優しく穏やかな人で色々と相談に乗ってくれたりする。どっちかと言うと古道さんの方が亜砂花さんより精神年齢は上のような気がする。
二人のコンビネーションはいいらしくゲーム犯罪課一の検挙数を誇るらしい。
「遅くなってごめん。色々と手続きしてて」
亜砂花さんはモニターの前に行き、俺達に謝罪した。
「手続き?」
「アンダー・シティーに行く為の手続きだよ」
古道さんが答えた。
「え?私達、アンダー・シティーに行けるの?」
桃愛は興奮気味に訊ねた。
「いや、一人だけだよ」
「えー1人だけか。じゃあ、私じゃないや」
「ごめんね。18歳になれば行けるようになれるから」
「あと一年頑張る所存です」
桃愛は古道さんに敬礼した。
「よろしい」
古道さんも桃愛に敬礼を返す。
俺達が普段行っているノーマル・シティーと違って、アンダー・シティーには年齢制限がある。許可がない限り18歳以下は入る事を許されていない。
「それじゃ、誰なんですか?」
真珠は古道さんに訊ねた。
「……秋葉君だ」
「は、はい。分かりました」
お、俺か。まぁ、選ばれたなら仕方が無いな。頑張ろう。
「な、なんでですか?」
「この中で一番適任だからだよ」
「納得できません」
真珠が食いかかる。普段ならこんな事しないのに。あれか。自分が選ばれずに俺が選ばれた事に腹を立てているのか。
「じゃあ、納得する理由を言えばいいのかな?」
「はい。お願いします」
「君より秋葉君の方が実力が上だ。それも圧倒的に。格が違うんだよ」
古道さん。優しい顔してえげつない事を言うな。俺が申し訳ない気持ちになるじゃないか。
「そ、それは……でも、私の方がゲーム大会での優勝実績はあります」
「知ってるよ。けど、君が秋葉君にゲームで一度でも勝った事があるかい」
「……それは……ないです」
真珠は俯いた。古道さん。もう真珠に何も言わないであげて。
「それにね。君は有名すぎる。アンダー・シティーに行けば標的にされやすい。だから、
普段は表に出ない秋葉君の方が自由に移動できるって言う利点もあるんだよ」
「……はい」
「この決定はね。君が今まで築き上げた実績とこれからの未来を守る為なんだ。分かってもらえるかな」
「……分かりました。そんな事まで加味して選んでくれたのが分かって納得しました」
真珠はニコッと笑って言った。でも、どこか悲しそうだ。幼馴染だから分かる。きっと、
無理やり負に落としたのだろう。
「じゃあ、早速だけど秋葉君。僕について来てくれるかな」
「分かりました」
俺は椅子から立ち上がって、古道さんのもとへ向かう。
「真珠ちゃんと桃愛ちゃんは私と一緒にブラック・ダイヤモンドについて調べてもらうわよ」
「了です」
「分かりました」
古道さんと俺は司令室を後にした。
アンダー・シティーか。捜査とは言え、行くのは楽しみだ。18歳になっていないのに行けるなんて。悪い事はしてないのにちょっと悪くなったような気がする。……駄目だ。こんな心構えじゃ。これは捜査だ。気合をしっかり入れないと。
ロクスの中央広場に聳え立つエレベーターが見えてきた。
エレベーターの前にはセキュリティーゲートが設置されており、警備員が二人立っている。セキュリティーは厳重だ。
俺と古道さんはセキュリティーゲート前に居る警備員のもとへ向かう。
「エリシャの御搭乗されますか」」
警備員の1人が訊ねて来た。
《エリシャ》エレベーターの名前。このエリシャでアンダー・シティーに行く事が出来る。
俺と古道さんは頷く。
「へヴン・シティーに行かれますか?それとも、アンダー・シティーに行かれますか?」
ヘヴン・シティー。エレベーターで上がれば行ける空中に浮いている街。世界中のゲーマー達が集まるスタジアムやカジノなどがある娯楽の街。こちらも18歳以上じゃないと入る事ができない。
「アンダー・シティーで」
「そちらの方も同じですか?」
「はい。一緒です」
「それでは身分証データを見せてください」
古道さんは身分証データーを身体の前に表示した。
「確認しました。それではそちらの方も提示してください」
「彼の分はこれでお願いします」
古道さんは許可証を提示した。
「は、はい。たしかに確認しました」
警備員は驚いたような表情をしながらも許可書を見て、アンダー・シティーに行く事を
承認してくれた。
「ありがとうございます」
「それではお二人共ゲートを通り、エリシャに搭乗してください」
俺と古道さんは警備員の指示通りにゲートを通り、エリシャの前に行く。
エリシャのドアが自動で開く。中には美人なエレベーターガールが1人乗っている。
俺と古道さんはエリシャに乗り込んだ。
エリシャのドアが自動で閉まっていく。
「アンダー・シティー行きでお間違いないですね」
エレベーターガールが訊ねて来る。
「はい。間違いないです」
古道さんが答えてくれた。
「レベルは何レベルになされますか?」
アンダー・シティーは0レベルからマイナス100レベルまでの階層に分けられている。レベルが低くなればなる程危険度が増す。
「マイナス2レベルで」
「かしまりました。マイナス2レベルですね。お連れさせていただきます」
エレベーターガールが壁面に設置されているパネルを押す。すると、エレベーターは下降していく。
「大丈夫かい?」
古道さんが訊ねてくる。
「は、はい。全然大丈夫ですよ」
急に緊張してきた。行った事がない場所に近づくと何で不安になるんだろう。知らない事が恐怖を駆り立てるのだろうか。理由は分からない。
「それなら安心だね」
「任せてください」
強がってしまった。でも、言ってしまったから頑張るしかない。
「あぁ。頼りにしてるよ」
エレベーターが止まった。
「アンダー・シティーマイナス2レベルに到着しました。ドアを開けさせていただきます」
エレベーターガールはパネルを押した。
ドアが開く。
「ありがとうございます」
「どうもです」
俺と古道さんはエレベーターから降りた。
視界には今まで無い光景が広がる。通行人は男女問わず悪人のように見える。建物の外壁はどこか破損しており、鉄柵を付けているものもある。
天井は黒く塗られており、照明は暗い。このフロア全体に危険な雰囲気が漂っている。
後方ではエレベーターのドアが閉まった音が聞こえる。
「びびってしまったかい」
「……大丈夫です」
なんだろう。逆に緊張が解けてきた。危険だと分かったからだろうか。理由は分からないけど。気合が入ったからいいや。
「そうかい。じゃあ、情報を集めようか」
「はい。そうですね」
俺と古道さんはセキュリティーゲートを通り、広場に出た。
通行人の視線が俺達に向いている。まるで異物を見るかのようだ。まぁ、出で立ちも雰囲気も違うから仕方ないな。
俺達は広場にある掲示板へ向かい、大会情報を確かめる。
「色々と大会があるね」
「ですね。でも、コントラクト・ヒーローに絞ればすぐですよ」
金髪の男が教えてくれた情報はそうだった。だから、コントラクト・ヒーローの大会情報だけを見ればすぐに見つかるはず。
「そうだったね」
俺と古道さんは掲示板に載っているコントラクト・ヒーローの大会の情報を見る。
「こ、これじゃないですかね」
俺は「コントラクト・ヒーロー大会。優勝賞金は100万円。商品は誰でも最強になれるアイテムだ」と書かれている情報を指差した。
「きっと、そうだね。他の大会の商品はちゃんと何をくれるか記載されてるし」
「じゃあ、ここで決まりですね」
「だね。それじゃ、行こうか。場所はサウスエリア・ヘルドームに」
「はい。道案内お願いします」
「任して」
俺と古道さんはサウスエリアにあるヘルドームに向かい始める。
歩いていると、桃愛が好きそうな18禁のBLや百合の同人誌が店先のディスプレイに並べられている。
桃愛がここに居たら1時間は動かないだろうな。と言うか桃愛の作品があるかもしれない。あいつは全年齢対象が楽しめる作品から18歳以上の大人が楽しむ作品まで何でも描く漫画家でもあるし。それにしても、どうやって、描き分けてるんだろう。まぁ、聞いてもあいつは感覚でしか答えないから理解できないんだけど。いわゆる、天才だから。
その天才がチームに居てくれるのはとてもありがたい。でも、執筆中にジャージを脱ぎだす癖だけは辞めてほしいが。
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