第6話
放課後。
ロクスのワークスペースで製作中の《デビル・イーター》のデーターを開く。すると、グランテ城が出現した。
ロクスのワークスペースは現実と違い、何もデータを開かなかったら何もない部屋。しかし、ゲームデータを開くと、その世界を出現させてくれる。
俺はグランテ城に入り、階段を上って、魔王の間があるフロアに向かう。
「うーん。どうしたものか」
魔王の間までの廊下に置く石像をどうしようか。禍々しい石像を置くべきだよな。でもな。俺達が持っている美術品データにはそんな禍々しい石像のデーターはないし。それに壺とか絵画とかも必要だよな。
……買うしかないか。自分達で作るより違う分野のクリエイターの物を買った方がいいな。あ、あとBGMも契約しないと。でも、それはまた今度でいいか。
俺は《デビル・イーター》のデータを閉じた。
ワークスペースは一瞬にして、殺風景な何もない白い部屋になった。
俺はワークスペースから出て、メルカマルクに向かう。
メルカマルクに着くまでにも色々な店が建っている。ゲーム関連のものから食品関連の店やゲーム以外の娯楽施設など種類は豊富。
路地裏に行けばバトルスペースがある。バトルスペースでは色々なゲームで対戦できる。
15歳以上なら賭けバトルもOK。
バトルスペースで小銭稼ぎしているやつも結構居るはず。俺はゲーム作って稼ぎたい派だからしないが。
メルカマルクに着いた。いつもと同じように大勢の人達で賑わっている。
俺は美術品データーなどが購入できる店「ダゲール」に向かう。
ダゲールには世界中の美術デザイナーが作った美術データーが売られている。その美術データを購入する事でゲームの製作時に使用許可が認められる。
美術品データは購入後、色などを変更する事も許されている。
ふと、ゲーム雑誌専門ショップ「ケイプン書店」の前で立ち止まってしまった。
ケイプン書店の店先に置かれている雑誌の表紙には「響野祥雲の作品。新たに三作品タイトルだけ見つかる」と書かれている。
俺はその雑誌を手に取り、響野祥雲のゲームについて書かれているページを開く。そのページには《ノワール・ネージュ・イリュジオン》、《パラダイス・クエスト》、《クロック・
スタート》と言うタイトルが書かれている。
どの作品も面白そうだな。プレイしてみたいな。いつゲームが発見されるのだろう。こうタイトルだけでどんな内容か想像するのも楽しいな。なんで、響野祥雲はこんなに俺達
の心を揺さぶるのだろうか。俺もこんなふうに人の心を揺さぶる作品を作らないと。
雑誌を置いていた場所に戻す。そして、ダゲールに向かう為に歩き始めた。
メルカマルクを歩いていると、アイデアが色々と沸いてくる。それはきっと様々なものが目に入ってくるからだ。目で得た情報が今まで得て来た情報と結合して新たなアイデアを生み出す。昔はアイデアは天から降りてくるものだと思っていた。しかし、最近は今まで見てきた映画や漫画や小説や遊んできたゲームや人生で経験したものから生み出すものなんだと気づいた。
ダゲールの前に着いた。店先のディスプレイには様々なデーターが数秒間隔で表示されている。
俺はダゲールの店内に入った。
店内には美術品のデータが載っているサンプルブックが種類別に棚に陳列されている。
まずは石像だ。
ダークファンタジー・石像と背表紙に書かれているサンプルブックを棚から手に取り、開く。
サンプルブックにはダークファンタジーで使える美術品データーが載っている。
ガーゴイルの石像、堕天使の石像、大魔王の石像。……凄いな。1000種類以上あるな。デザイン性と価格を見て選ばないと。
2時間程が経った。サンプルブックを見すぎてしまった。あれは時間を決めないと永遠に見れてしまう。それ程、美術デザイナーが作った作品が素晴らしい。
メルカマルクを出た。そして自分達のワークスペースに向かって歩いていた。
使えそうな美術データは買えたし、ワークスペースに帰って作業するだけだ。
「誰か助けてくれ」
路地裏から男性の悲鳴が聞こえた。
なんだ。何かあったのか。
俺はいてもたってもいられなくなり、路地裏に入り、奥へ向かう。
ここの奥はたしかバトルスペースだったよな。何か揉め事か。……賭けバトルか。いや、それだったとしたら互いの合意があって出来るもの。無理やり相手に強要する事はできない。じゃあ、なんだ。何が起こっているんだ。
バトルスペースに着いた。
バトルスペースでは気を失って倒れている黒髪の男とその男を見下している金髪の男が居た。
「な、何があったんですか?」
「……これの力を試しただけだ」
金髪の男は黒いダイヤモンドを見せてきた。
「そ、それは」
「……ブラック・ダイヤモンド。最高のアイテムだよ。これでどんなやつにだって勝てる。
ずっと勝ち続けられるんだ。楽しみだな。負けて悲しむやつの顔が」
こんな所でブラック・ダイヤモンドに出くわしてしまうとは。どうやって、手に入れたかを聞き出さないと。このチャンスを逃せば次のチャンスはいつ来るか分からない。
「それをどこで手に入れた」
「……俺に勝てば教えてやるよ。まぁ、俺が負けるはずがないんだけどな」
金髪の男は自信満々の表情で言った。
「……やらなきゃ分からないさ。そんな事」
「いや、分かるさ。絶対に俺が勝つ」
「人間が作ったものに絶対なんてないんだよ。それを俺が教えてやるよ。そして、俺が勝ったら、それをどこで手に入れたか教えてもらう」
人間が関与している事に絶対や完璧など存在しない。可能性が限りなくゼロに近いだけなんだ。
「馬鹿な奴め。いいだろ。コントラクト・ヒーローで勝負だ」
《コントラクト・ヒーロー》
武器とモンスターとエフェクトカード5枚を選択肢して戦うアクションゲーム。20年前から人気が続いている作品。
ブラック・ダイヤモンドの効力が顕著に出そうなゲームだ。HP1000をそれ以上にするのか、攻撃力や防御力を上げるのか、それともエフェクトカードの能力を書き換えるのか、使用枚数5枚の上限を消すのか、どれかだろう。もしくは全部かもしれない。
「……わかった」
戦いながらブラック・ダイヤモンドの効力を確かめよう。負ける気はしない。
「バトル・ステージ。コロッセオ」
金髪の男は大声を出した。
周りの風景は中世のコロッセオみたいになった。大勢の観客達が客席から声援や野次を飛ばしてくる。何とも言えない居心地の悪い場所だな。まぁ、観客全員AIだけど。
「……えーっと、モンスターと武器とエフェクトカードをセレクトっと」
自分の前にモニターが現れた。画面には数千種類のモンスターが表示されている。モニターの右下には「武器」と「エフェクトカード」の項目がある。
モンスターは「番長ピエロ」をセレクト。
武器の項目を押して、武器を表示する。
番長ピエロを選んだから「レインボーメリケンサック」をセレクトっと。
エフェクトカードの項目を押して、エフェクトカードを5枚選んでいく。
「根性のふんばり」、「プラハ」、「プラス1」、「サーチバード」、「連撃無効」をセレクト。すると、着ている服が学ランに変化していく。
このゲームは選択したモンスターで衣装が変化する。
金髪の男は白い胴着を着ている。だから、格闘系のモンスターを選択したのだろう。
「全て選び終わったようだな」
「あぁ。いつ始めてくれてもいいよ」
「じゃあ、バトル始めようぜ」
金髪の男は不敵な笑みを浮かべている。
「いいよ」
どんなゲームになるかな。まぁ、楽しくはないゲームになるな。だって、楽しむのが目的じゃない。勝つ事が目的だから。ただ本気で相手を叩きのめす。それだけだ。
「レディ・ファイト」
どこからか試合の始まりを伝える機械の声が聞こえてきた。
「見せてやるよ。ブラック・ダイヤモンドの力を」
金髪の男はブラック・ダイヤモンドを目の前に突き出す。
ブラック・ダイヤモンドから黒いオーラが現れて、金髪の男を包み込んでいく。
攻撃できる隙が出来た。しかし、あのオーラに触れたら何が起こるか分からない。だから、まだ攻撃すべきではないな。
金髪の男を包み込んでいたオーラが消えて行く。
男の白い胴着は黒く染まり、金髪は逆立っていて、目は赤く染まり、目つきが先程より悪くなっている。
明らかに雰囲気が変わっている。まるで別人だ。
「エフェクト・カード発動。サーチ・バード」
エフェクト・カード「サーチ・バード」の効果で相手のステータスを見る。
……さすがチートアイテムだな。HP、攻撃力、防御力、全てが限界突破して、9999と表示されている。
普通の攻撃を一撃喰らうだけでHPがゼロだ。
モンスターは阿修羅。武器はプラチナサック。モンスターと武器は何もいじられていないな。純粋にステータスを上げるアイテムみたいだ。
「攻撃してこないなら俺から行くぜ」
金髪の男は一瞬で俺との距離を詰めて、右拳で殴ってきた。
速い。避けきれない。
「エフェクト・カード発動。根性のふんばり」
金髪の男の拳が当たる前に発動できた。しかし、攻撃は避けきれない。
金髪のパンチがお腹にクリーンヒットした。
身体が衝撃で壁まで吹き飛ばされる。そして、その場に倒れてしまった。
なんだ、この痛みは。本当に殴られたように痛い。身体に与えるダメージとかはここまでリアルに設定されていなかったはず。これもブラック・ダイヤモンドで設定を変更したのか。……そうか。あの人はこの攻撃を受けたから倒れていたのか。
俺は壁に手をついて立ち上がる。あのパンチをもう一発喰らったら、現実世界の身体にも影響が出るな。
「起き上がった。何かエフェクト・カードを使ったのか」
金髪の男が訊ねてくる。
「あぁ。根性のふんばりでHPを1だけ残したのさ」
エフェクト・カード「根性のふんばり」の効果。どんな攻撃を受けてもHPを1だけ残す。
「そうか。まぁ、いい。次の攻撃でお前は終わりだ」
「……もう次の攻撃はさせないよ」
このふざけた戦いを終わらせる。終わらせないといけない。
「なに?」
「このゲームの勝者は俺だ。エフェクト・カード「プラハ」発動。効果により、お前は俺と同じくHP1になる」
「……なんだと」
金髪の男のHPは俺と同じ1になった。
「そして、エフェクト・カードを「プラス1」を発動。相手に1だけダメージを与える。この効果はどのエフェクト・カードでも防ぐ事はできない」
「……お、俺の負けだと。噓だぁぁぁ」
金髪の男は絶叫して、膝から倒れ込んだ。
「そこまで。勝者、秋葉遊喜」
周りの光景がもとの場所に戻っていく。よし、これで一件落着だ。
「なんでだ。なんで、俺が負けた」
金髪の男はうな垂れている。
「……力だけに頼ったからだよ」
俺は金髪の男に歩み寄って言った。
「え?」
「このゲームはアクションが上手くても勝てない。頭を使わないと」
純粋なアクションゲームなら一撃で負けていた。でも、このアクションゲームは違う。アクションゲームでありながらカードゲームでもある。だから、二つの側面から考えて戦わないと勝てない。
「……力だけじゃ勝てないか」
「あぁ。だから、そんなアイテムに頼らずに自分なりに戦い方を模索した方が楽しくゲームが出来るよ。勝ち負けは分からないけどね。でも、勝てた時の喜びは格別だと思うけど」
「……俺は間違っていたんだな。勝つ事だけに執着しすぎた」
「勝つ事に執着するのは悪い事じゃないよ。みんな勝ちたいし。けどね。ルールを守って戦う事が一番重要だよ」
「……お前の言うとおりだ。あいつから奪ったものは全部返して謝る」
金髪の男は倒れている男に視線を送った。
「……うん。それがいいと思う。あ、そうだ。そのブラック・ダイヤモンド預からせてもらえないかな」
「なんで?」
「俺、こう見えてもサイバー・スクワッドなんだ」
黒戸さんには言わなかったけど、この人には言わないと。そうしないと、渡してくれそうにないし。
「……お前がサイバー・スクワッド?」
「そう。これを見てもらったら信じてもらえるよね」
俺は自分の前にサイバー・スクワッドの手帳のデータを表示させた。
金髪の男はサイバー・スクワッドの手帳を見ている。
「わかった。信じる。ブラック・ダイモンドを渡すよ」
「ありがとう」
「ほらよ」
金髪の男はブラック・ダイヤモンドを手渡してきた。
俺はブラック・ダイヤモンドを受け取った。
「たしかに受け取りました。それで、これをどこで手に入れたの?」
「……アンダー・シティーのマイナス2レベルのコントラクト・ヒーローの大会で優勝してもらった」
「……アンダー・シティー。マイナス2レベルの大会優勝商品か……分かりました」
アンダー・シティーか。困ったな。俺だけじゃ行けない。いや、俺は行けないかもしれない。
「あのよ。こんな事頼むのはおかしいと思うけどよ。また戦ってくれないか」
「いいですよ。また勝負しましょう」
「ありがとうな」
「はい。それじゃ失礼します」
俺はバトル・スペースから出て、大通りに向かう。
今日の《デビル・イーター》の製作は中止だ。亜砂花さんに連絡しないと。
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