第5話

10月12日。

 エルシスタ学園に向かう為に真珠と桃愛と一緒に通学路を歩いていた。通学路と言っても寮から一本道だけど。

 真珠と桃愛とは待ち合わせをしていない。けれど、歩いていると一緒になる。登校時間が一緒。不思議なくらいに。

 俺達と同じように学校に向かう生徒達は学校指定の制服を着て登校している。男子は紺のブレザーに紅色のネクタイ。パンツもブレザーと同じ紺色。靴は自由。スニーカーでも革靴でも何でもいい。

 女子生徒はセーラー服もスカートも紺色。靴は男子と同様自由。

 何の代わり映えもない日常だ。

「……どうしよう」

 真珠は溜息交じりで言った。

「なにが?」 

「あれ」

 真珠は歩きながらエルシスタ学園の校門前を指差す。

 校門前には「宝条真珠(ほうじょうしずく)ラブ」と印字された法被を羽織い、「宝条真珠親衛隊」と書かれた鉢巻をした男達が居た。

「朝から元気だな」

「あれはきついね」

 桃愛は真珠に同情しているようだ。

「相手しないといけないかな」

「……しなくてもいいだろ」

 イベントでも無いのに勝手に来ているあいつらが悪い。どれだけ有名人でもプライベートはある。真珠は相手をする義理はない。

「え?でも、相手しないと学校に入れそうにないし」

「しなくていいんだよ。嫌なもんは。ほれ、俺に任せとけ」

 俺は真珠の左腕を掴んだ。真珠に対して気に食わないことはたくさんあるが居てもらわないと困る存在だ。それに仲間が困っているなら助けるのがチームワークってやつだ。

「う、うん」

 真珠は驚いたような表情を浮かべている。

「遊ちゃん。男前だねぇ」

「もともとだよ。……ごめん。調子に乗った。普通にしてくれ」

 言って恥ずかしくなったから訂正してしまった。それがまた恥ずかしい。勢いでものを言うものじゃないな。

「締まらないな。でも、遊ちゃんのそう言うところいいよ」

 桃愛はサムズアップをした。

「ありがとう。じゃあ、二人とも走るぞ」

「……うん」

 真珠は顔を赤くして答えた。熱でもあるのか。腕も熱くなってきてるぞ。

「あいあいさ」

 俺達三人はエルシスタ学園の校門に向かって走り出した。

「お、おい。き、貴様は真珠ちゃんのなんだ」

「そうだ。独り占めは卑怯だぞ」

「まずは宝条真珠親衛隊に入れ」

 宝条真珠親衛隊の男達が校門前に立ち、俺達の行き先を塞いだ。

「あん?俺は真珠の仲間だけど何か?」

 俺は宝条真珠親衛隊を睨みつける。

 ちょっと腹が立ってしまった。これで学校に遅刻したらどうしてくれる。ただただ迷惑な奴らだ。それにこんな迷惑な奴らを真珠が好きになるわけがない。

「私もね。香取桃愛です」

 桃愛は脳天気に自己紹介をしている。なんて言うかぶれないな。そう言うところ嫌いではない。さすがだと思う。

「え、あのですね」

「そうですね。お仲間ですか」

「それでは失礼します」

 宝条真珠親衛隊はどこかへ消えて行った。情けない奴らだな。

「これで安心だな」

「……ありがとう」

 真珠は普段と違い素直に感謝の言葉を言った。なんだろう。なんか調子狂うな。

「ど、どう致しまして」

「ねぇ?私はいいんだけど。それ解かないとカップルに思われるよ。お二人さん」

 桃愛は真珠の左腕を掴んでいる俺の手を指差して言った。

「え、あ。それは。ごめん」

 俺は真珠の腕から手を離した。

「……うん。そ、そうだよね。カップルに思われるのは嫌だもんね」

「そ、そうだな」

「……そうなんだ」

 真珠はなんだか悲しいそうに呟いた。

「え、どうした?」

「なんでもない。馬鹿」

「馬鹿ってなんだよ。俺、こう見えて成績優秀なんだぞ」

 定期試験で学年10位以下になった事はない。

「それぐらい知ってるわよ。違う事で言ってるの。もう先に行くから」

 真珠は機嫌が悪くなったのか足音を立てて校門をくぐった。

「おい。ちょっと待ってよ」

 なんだか分からないけど追わないといけない気がして、真珠の後を追う。

「あー今の出来事記憶しておかないと。遊ちゃんと真珠ちゃんが居れば創作のネタに困らないなぁ。グフフ」

 後方から変なテンションの桃愛の声が聞こえる。こう言う時は何も言わないぞ。このテンションの桃愛は色々と面倒くさいから。


 三限目。ゲーム史の授業。

 エルシスタ学園は国語・数学・英語・社会・理科の五教科とゲームに関する授業がある。

昼からの授業はゲーム製作などに当てられている。

 ゲーム史の担当教諭の小里先生はタブレットを操作して、ホワイトボードに「RPG」と表示させた。

「ロールプレイングゲームのロールプレイングとは想像上のある役柄を演じる事であります。だから、ロールプレイングゲームのプレーヤーは主人公と言う役柄を演じて物語を楽しむのです」

 自分ではない誰かになるか。俳優みたいだな。でも、そう言えばそうだな。昔から当たり前のように慣れ親しんだ言葉だからちゃんと調べた事がなかった。

 ゲーム製作の時は今聞いた事を注意して作らないとな。

 小里先生はタブレットを操作して、ホワイトボードにまた何か表示させようとしている。次はどんな事を教えてくれるのだろうか。

 ゲーム系の座学ではこのゲーム史の授業が好きだ。自分の知らない知識や歴史を知れるから。

 ホワイトボードには「RPGの有名作。そして、その有名作で起こった出来事」と書かれている。

「現在ではロクスなどで簡単にゲームを買えます。しかし、150年以上昔はゲームソフトを買う為に発売日の前日からゲームショップの前に並んでいたそうです。その映像が残っているので見ましょう」

 小里先生はリモコンを操作して、教室の天井に備え付けられているプロジェクターを降ろして、動画を流し始めた。

 動画には本当に大勢の人達がゲームショップの前に並んでいる姿が映っている。

 凄い時代だな。今ではそんな事はありえない。でも、それだけ、そのゲームが欲しいと言う気持ちは伝わってくる。製作者からしたら嬉しいと思う。近所の人は迷惑かもしれないけど。 

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