第2話
意識が鮮明になっていく。
ロクスコクーンの黒色の蓋が見える。どうやら、意識が身体に戻ったのだろう。
ロクスコクーンは仮想世界ロクスに意識を送る為の機械。酸素カプセルと同じ形をしている。使用方法はロクスコクーンの中に入り、蓋を閉める。すると、コクーン内に睡眠ガスが充満する。その後、機械が寝た事を確認した後、意識をロクスに送ってくれる。
俺は横の壁に設置されている開閉ボタンを押す。ロクスコクーンの蓋が開く。
俺は身体を起こして、ロクスコクーンから出る。
ここはワークスペース。俺達が通うエルシスタ学園と提携しているゲーム
視線の先には上下赤色のジャージを着ている桃愛がコンピューター前の椅子に腰掛けて、
《ヴィレロ》でゲームをしている。
「おい、こら。桃愛」
「あ、お帰り」
反省の色が見えない。お前のせいで色々と面倒だったのに。
「あ、お帰りじゃないぞ。お前がゲームに集中している間に死にかけたんだぞ」
「大丈夫、大丈夫。ロクス内で死ぬ事はないよ。痛みを感じる事はあるけどさ」
その通りだけど。あの痛みはたまったもんじゃない。攻撃によるダメージを修正しないと。色々とやらないといけない事が山積みだ。
「あのな……」
「小さい事は気にしない。気にしない」
「はいはい。分かったよ」
怒る気がなくなった。怒ったところでこいつが言う事聞く訳ないし。
「よろしい。さすが遊ちゃん。優しい」
「うるさい。それで何のゲームしてるんだ?」
俺の事を忘れて熱中していたゲームだ。どんなゲームか知りたい。
「シンデレラ・ハーレム。」
「シンデレラ・ハーレム?」
「知らないの?響野祥雲(ひびのしょううん)の作品だよ。12人のシンデレラを口説く恋愛ゲーム」
「へぇ。あの響野祥雲の作品か。今度貸してくれよ」
響野祥雲。100年前に亡くなった天才ゲームクリエイター。俺達がゲーム製作時に使うゲーム製作プログラム《ドリーム・クラウド》を生み出した人だ。作り上げた作品はゆうに1000作品を超える。攻略本のデーターだけしか見つかってない作品やタイトルだけが見つかった作品や全く何も解明されていない作品などと言った未発表作品もたくさんある。その作品達はロクスのどこかに隠されていると言われている。俺達、ゲームクリエイターが目指す人。
「貸してあげるけど。これクソゲーだよ」
「本当に?」
「うん。だって、恋愛ゲームなのに必殺ゲージがあって。その必殺ゲージが満タンになると、必殺口説き文句「俺の女になれよ」が使えるの。その「俺の女になれよ」を使うと、信頼度とかフラグとか全く関係なく口説く事ができるの」
「やばいな。それ」
響野祥雲の作品は名作も多いが迷作も多数存在する。この作品は迷作の方だろ。
「それにね。このゲーム12人のシンデレラを口説くゲームなのに。11人しか出てないの」
「……どう言う事?」
「12人目のお姫様はパスワード入力で現れるらしいんだけど、発売から150年も経った今でもそのパスワードが発見されてないんだ」
「……それって攻略不可って事か?」
「そう言う事」
「なんだよ。それ。それじゃ、貸りない」
「でしょ。本当にこれクソゲー」
「でも、ちょっと待った。そんなゲームに集中して、仕事をしなかったんだよな」
俺は桃愛を睨みつける。名作ゲームならいい。桃愛を熱中させる程のゲームとして、勉強になる。しかし、クソゲーに熱中していたとは。これは怒りが復活してきた。
「え、それは」
「それは?」
「……ごめんなさい」
「よろしい。あ、それで真珠は?」
「もうすぐ来るはずだけど」
「まだ来ていないのかよ。あいつは」
「多忙だからね。天才ゲーマーで売れっ子読書モデルで私達のゲームクリエイター集団ルベウスの広報・企画・グッズ製作担当だから仕方ないよ」
こう聞くとたしかに多忙だな。まぁ、あいつにゲームでは一度も負けた事がないから天才ゲーマーと言われている事だけは気に食わないけど。
「……おう」
廊下からうるさい足音が聞こえる。
「……あ、噂をすればだね」
「だな。でも、これは機嫌が悪い時のやつだ」
この足音は真珠のもので違いない。それも機嫌が悪いやつの時のものだ。普段は足音を立てないように歩く癖に腹が立っている時は誰にでも分かる程の足音を立てる。
「頑張ってね。私はクソゲーにいそしむから」
桃愛はヘッドホンを耳につけて、《ヴィレロ》で《シンデレラ・ハーレム》の続きを始めた。
「お、おい」
足音が俺達の居る部屋の前で止まった。そして、ドアが開き、真珠が入って来た。
真珠は機嫌の悪い顔をしている。思ったとおりだ。普通にしていたら美人なのに。
青色のショートヘアー。スレンダーなスタイル。可愛いと言うより美人な顔。その美貌で読者モデルをしている。学校内外にファンクラブがあるほどだ。まぁ、性格は良くはない。俺以外の人達には優しく愛らしい笑顔を振りまく癖に俺に対してはそんな表情を10年程見せた事がない。
「遊喜(ゆうき)、話があるんだけど」
「なんだよ」
いきなり喧嘩腰なんだよ。いっつもそうだな。もう少し、俺の前でも可愛いくしろよ。それなら、俺も喧嘩は買わねぇよ。
「なんで、PV製作にまだ手をつけてないなの」
真珠は俺を睨みつける。
「まだゲームの内容が全然出来てないだろうがよ」
「それでもよ。作らないとプロモーションできないでしょ」
「……PVと正規品が全然違ったら購入者から反感を買うだろ」
「PVの右下に「この映像は製作途中のものです」と表記すればでしょ」
「……まぁ、そうかもしれないけど」
「そうなのよ」
真珠の言っている事は一理あるが言い方が悪いから聞き入れたくない。本当に可愛いく
ないやつだ。
ドアが突然開いた。廊下からグレーのスーツを着た冴木亜砂花(さえきあすか)さんが入って来た。
亜砂花さんは俺の12個上の姉貴の幼馴染で親友。俺の事を小さい頃から知っている。
ブラウンのロングヘアー。巨乳でナイスバディ。性格は姉御肌。
「みんな仕事よ。外に行く準備をしなさい」
「了解です」
桃愛はヘッドホンを外して、言った。おい。亜砂花さんの声が聞こえているって事は音楽を鳴らしてなかったな。
「わ、分かりました」
真珠は真剣な表情に変わった。そして、外に出る準備を始めた。
「え、今ちょっとお取り込み中なんだけど」
「口答えする気かな。遊ちゃん。女装させるわよ」
「……すみません。用意します。用意させていただきますので。女装だけは許してください。お願いします。亜砂花さん」
亜砂花さんは隙あれば俺を女装させようとする。女装が全く似合っていない男の女装姿を見るのが好きなのだ。変な性癖って言えばいいのか。姉ちゃんと一緒に居れば二人がかりで俺を女装させようとする。
「よろしい。でも、この女装の提案書だけは見て」
亜砂花さんはズボンのポケットからスマホを取り出した。なんで、今の時代にスマホを使うんだよ。アルケーウォッチがあるだろう。まぁ、スマホの方が他人に画面を見られる心配はないかもしれないけど。
「嫌です」
「そんな事言わないの」
亜砂花さんはヘッドロックしてきた。む、胸が当たってる。色んな意味で苦しい。
「わ、分かったから。見るから」
俺は亜砂花さんの腕をタップした。
「よ、よろしい」
亜砂花さんはヘッドロックを解き、スマホの画面を見せてきた。スマホの画面にはロリーターの服が表示されている。
「こ、これを俺にさせようとしてるの?」
「うん。その通り」
亜砂花さんは満面の笑みを浮かべて答えた。
「……は、はい」
あーどうしよう。これはガチでこの服を俺に着させる気だ。
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