私たちってどう見える?(前編)

 しぶきが跳ねて弾けるような水音と、女の子の響き渡るような声がアチコチから聞こえる。 

 過去最高と言われる猛暑の中で、ホントにみんな楽しそう。

 こんな中に居ると、私も楽しさのお裾分けをもらっちゃったみたいでワクワクする。

 そんな事をのんきに考えながら、運良く日陰の場所を見つけてビニールシートを敷いた私。 

 早速お弁当やバッグなどを置くと、シートに座って日焼け止めを顔や腕に塗っていると春子ちゃんの声が聞こえた。

 

「ゴメン、遅くなって!」


 そう言いながら駆け寄ってきた春子ちゃんは、周囲をキョロキョロ見回した。


「あ、まだ忠さん来てないんだね? オッケーオッケー。こんな息切らしてるはしたないとこ見られたくないもんね」


「大丈夫だよ。お兄ちゃんはそんな事気にしないから」


「私が気にするの。忠さんの前ではおしとやかなお嬢様キャラ、って決めてるんだからさ!」


「え? そ、そうなの……」


「そう。だから、あかりも協力してね……って言うか、何で服着てんの? 水着は? 道理で早いと思ったんだよ! いつのまにか居なくなってたからさ」


「ゴメンね、勝手に先行っちゃって。あの……私、今日は泳ぐのいいよ。ここで待ってる」


「ちょ……お馬鹿! どこの世界にプールに来て全く泳がない人がいるのさ!」


 春子の呆れたような言葉に私は肩をすくめた。

 春子の言うことはもっともだ。

 でも……私はプールの雰囲気は大好きだけど、プールや海で泳ぐのは大嫌い。

 なぜって……


「ごめん、待たせたね。春子ちゃん、あかり」


 春子の後ろから忠兄ちゃんと……神崎君。

 凄いな……お兄ちゃんは筋トレが趣味で、スタイル良いのは知ってたけど神崎君も凄く引きしまってる……

 サッカーって走ってばっかだから、脂肪も少なくなって締まってくるとは聞いてたけど……って、わわ! ジロジロ見ちゃった……


「ううん……全然です。あかりと色々お話ししてたから。でも……水着お似合いです。格好いいです」


「え? ホント! 有り難う。これあかりに選んでもらったんだ。僕、服のセンス全くないから」


「選んだって言っても、見せられた数枚から適当に指さしただけだよ」


「でも、僕も良い感じだと思った。だから気に入ってる」


「あ……あの、今度水着選ぶときは、私も……ご一緒してもいいですか?」


 春子が小首をかしげながらかなり練習したであろう微笑みを見せると、お兄ちゃんは住まなそうに言った。


「ゴメン、春子ちゃん。水着はもういいかな……」


「あ……」


 しょんぼりとした春子ちゃんを見て、お兄ちゃんは慌てて言った。


「その代わり、秋物のジャケットを買いに行こうと思ってるんだ。女の子の目があるといいな、って思ったんだけど……春子ちゃん、どうかな」


「は……はい! 喜んで」


 そう言って90度の角度でお辞儀をする春子ちゃんを見て、神崎君が茶化すように言った。

「春子、どうしたの? いつものお前見せろって。猫被ってたら楽しくないだろ」


「悠人君こそどうしたの? いつもの私じゃない?」


「んな訳無いだろ。いつもはもっと足も広げ……痛った!」


 いつの間にか近づいてた春子ちゃんが、神崎君の背中でもつねったのか急に痛がりだして、春子を睨んだ。

 いいな……私も……

 急に自分もああやって茶化してもらいたくなってしまう。

 でも……そんなキャラじゃないし……


「あ、根尾。どうしたの? 水着じゃ無いじゃん。調子でも悪い?」


 さっきまでとは打って変わって心配そうな顔で声をかけてくれた神崎君に、慌てた私はしどろもどろになっちゃって、顔を伏せながら答えた。


「……今日は……いい。泳ぐの、好きじゃないから」


「泳ぎなら教えるけど。ここ、かなり有名なプールだぜ。泳がないとつまんないだろ。それか、泳ぐ練習が怖いなら浮き輪でもいいと思うよ。こういう所は楽しんでナンボなんだからさ」


 神崎君の言葉に顔がフニャッとニヤけてしまう。

 相変わらず優しいな……

 でも、それでも……

 うん、泳ぐのは嫌いじゃ無い。

 でも、人前では……うん、正確には……


「あかり、お前まだ水着嫌がってるのか? 誰も気にしてないって言ってるだろ」


「お兄ちゃんは黙ってて」


「でも、今日は暑いから水に入った方が良いと思うぞ」


「日焼け止め塗ってるからいいもん。日陰だし」


「はいはい。俺は先に行くぞ。お前も早く来いよ」


 お兄ちゃんが苦笑いしながら言うと、突然春子ちゃんが私たちを見て言った。


「提案があります! 悠人君、あかりの事心配なんだよね? じゃあさ、二手に分かれない? 悠人君はあかりに着いてあげて。そうすればあかりも泳ぎやすいと思う。さっきもすごくあかりへのアプローチが上手だったし。で、2人のために私と忠さんは別行動、と言うことで……」


「僕はいいよ、それで。いつも有り難う、あかりの事気にかけてくれて。ただ、神崎君はそれでいいのかな? あかり、こう見えて結構面倒くさいけど……」


「だ、誰も面倒じゃ無いじゃん! おかしな事……言わないで!」


 私は慌てて、否定したけど神崎君が「俺も大丈夫です。忠さんと春子も楽しんできてください」と言ったので、2人は顔を見合わせるとニッコリと笑って歩いて行った。

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