第22話苦戦

 人間時代のアレンは名のある武人だった。


 とある高名な者に仕え、その武勇は多くの者に語り継がれている。


 しかし、人間であることをやめることになるきっかけがあった。


 それは、大昔の対魔人戦争である。


 アレンは出会ってしまったのだ。グランという凶悪な魔人に。


 そして、最も大切な戦友を失うことになる。


 その悔しさにアレンは頭が狂いそうになるのを我慢する。


 グランはそこに漬け込む。


 そして、決め手となったのは心から慕っていた主を目の前で殺されたことだった。


 「人間よ。これは天からの災いなどではない。貴様の力不足が招いた結果だ。大切な者を守る強さが欲しくはないか?」


 気づけば五大魔人アレンが誕生していた。


 アレンは魔人として大陸で暗躍する。


 心の中で自分でも気づかない後悔を叫びながら。


 





 レッズは容赦なく獣のような姿になった魔人に攻撃を浴びせる。

 

 キーナの「スーパーレイズ」はかなり光っていた。


 それにより、アレンはやや劣勢になる。


 そして、レッズの剣がアレンを真っ二つにした。


 「やったか?」


 キーナは安堵の表情を浮かべた。


 だが、その刹那にレッズの胸が切り裂かれ、血が吹き出す。


 金髪の魔導士は絶望の表情を浮かべる。


 「ハハハハハ!!!」どこかの悪逆皇帝のようにアレンは高笑いを浮かべた。


 「どうして、レッズさんの剣は確かに届いたはず...」少女はいまだに理解が追いついていない。


 しかし、その呆気に取られた時間が嘘のようにそれは怒りに変わった。


 「よくも。レッズさんを...」


 レッズは深手を負い、地面に倒れ伏している。


 そして、キーナが暴走を始めた。








 グレスは焦りを感じていないと言うと嘘になる。


 だが、仲間のために一歩も引くことはできない。


 そして、失敗も許されない。


 ハクはまるでそんなグレスの心情を見透かすような卑怯とも言い、騎士道に反するともいうような攻めをした。


 ハクは何度も隙をついてカレンを狙った。


 しかし、グレスはそれを許さなかった。


 カレンは根性でなんとか援護魔法を飛ばす。


 そんな中、勝負は動いていく。


 ハクは思っていた。あのカレンとかいう魔導士はもうとっくに限界のはず。


 なのになぜ。


 なぜ屈しない。


 ハクはその人間のしぶとさに苛立つ。


 これはハクの人間時代の名残だろうか。







 ハクは自信家であり、武勇にも知にも強かった。


 だが、アレンと同じく対魔人戦争でその自信を喪失することになる。


 ハクは、とある砦の守護を任されていた。


 押し寄せる魔人をその武と知で乗り越えたと思われた。


 魔人は踵を返し、元来た方へ戻っていった。


 そして、ハクはマリーという戦友であり、恋仲でもある信頼できる女性と安全の確認のため調査に乗り出る。


 しかし、それが不味かった。


 まんまと魔人の罠に嵌り、マリーは致命傷を負う。


 そして、こんな言葉を残した。


 「あなたと幸せになるはずだったのに。こんな結末あんまりよ。」


 ハクは壊れる。


 大切な存在を失い、途方に暮れた。


 自慢の自信さえ失って。


 魔人は嗤う。


 「貴様ら人間はしぶといものだ。だがどうだ?本当の絶望の味は?その苦しさから逃れたくば力を貸してやろう。」


 そして、幻影のハクが爆誕する。


 





 ハクは苛立ちが募るばかりだった。


 どうして挫けない?


 どうして諦めない?


 どうして絶望しない?


 どうして立ち止まらない?


 どうしたら歩みを続けられるというのか?


 「気に食わん。虫唾が走る!!私は魔人にまでなって代償を支払って!!なのになぜ貴様らは立っていられるのだ!?」


 そうハクが怒鳴り散らかすと、グレスは笑った。


 「確かに。その気持ちはわからなくもない。かつて私は大切な戦友を失い、悲しみに暮れた。」グレスはそう振り返った。


 「だったらなぜ!?」ハクはまるで理解をしたくないようだった。


 「その友の残した言葉だ。『苦しくても闇のトンネルにも終わりがある。』」グレスはまた笑う。


 「そいつは最期に笑いながらそう言ったのだ。それ以来私は部下達に窮地に陥った時その言葉を投げかけている。」


 ハクは戦意を喪失する。


 「私の闇も終わりを告げるというのか?」


 グレスは笑ってそう返した。


 ハクは笑う。


 「ありがとう人間よ。これで私も心が梳いた。」


 ハクはまるで幻影のように散り散りになって消えていった。


 「グレスさん。助かりました。」カレンは笑顔で感謝を述べる。


 「これはあの赤髪が言いそうで癪だが、仲間のためだ。当然だ。」


 カレンはそんなグレスの内面の強さに気づかない内に少し惹かれ始めるのだった。





 クレイツはゲントの闇を光で切り伏せることに成功していた。


 「おや。私の秘技をこんなに簡単に見破るとは。さては心に迷いがありませんんね?」


 そう。覚醒したクレイツはとにかく強かった。信じられないほどに。


 ドルスもその強さを頼もしく感じていたが、同時に疑問を浮かべる。


 どうしてテルシエルは彼を選んだのかということだ。


 ドルスは一つの仮説を浮かべるが、今は戦いに集中しなくてはならない。


 クレイツは強いが、同時にゾーンに入ったゲントの勢いは増していく。


 ゲントは一定のリズムで攻撃をしたり、変則的な攻撃をしたり、二人は正直かなり手を焼いている。


 そして、ゲントは動きを変える。


 「では、現在世界屈指であろう貴方に私の奥義を見せましょう!!」


 「ザ・フィナーレ」


 すると、まるで重厚なオーケストラを聴いているような気分に二人はなる。


 今度こそゲントの術中に嵌ったのだ。


 ゲントは二人の首を刎ねた。


 ゲントは勝ち誇る。


 「フハハハヒヒヒ!!」ゲントは地面に転がる。


 「楽勝でしたよ。ほんとに。ジ・エンドを見破るとなるとこれはどうかと若干焦りはありましたあがね!!?はいっ!!お終い!!」


 ゲントという魔人は勝負あったと思った。


 そして、遺体と思われる者に背中を向けようとした時。


 クレイツ達だったものが消えた。


 「え?」ゲントは硬直した。


 「一体どういうことだ?確かにフィナーレは完遂したはず?」


 「その慢心が仇となりやしたね?」


 「天駆ける刃!!」


 ゲントは大きく腹を切り裂かれた。


 「一体どうやって?」


 種明かしはこうだ。


 結論から言うと、ドルスとクレイツの合同魔法だ。


 ドルスは天使の幻惑術をクレイツの力を借り、成し終えた。


 その名も「ファントム・オブ・エンジェル」


 ゲントは魅惑の5分音楽を聴いたような気になった。


 「魔人となり心まで枯れ果てた私が天使の加護を目の当たりにできるなんて...こんな最期も悪くはないのかもしれませんね。」


 ゲントは何故か後悔がないように見えた。そして、朽ち果てるのであった。


 残るはレッズ達だ。


 



 

 キーナの怒りは凄まじく、正気を失っているようだった。


 その魔力量はというと。


 「何だこの女。レーネスト様の魔力量を越えているだと!?」


 アレンは腹を括っていた。


 そして、グレスに介抱されるレッズをどこか遠い目でクレイツは見つめる。

 

 そして、キーナのかつて誰も見なかったほどの大魔法が炸裂するのであった。

 

 


 

 


 

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