第23話キーナの暴走

 キーナは理性を失い始めていた。大切な存在のピンチに動揺を隠せない。


 キーナは大魔法の準備を始める。


 「天よ。冥府よ。煉獄よ。今その力を集約し、彼の者を撃ち滅ぼさんとせよ。グランドフレア・オブ・アース!!」


 それは、悠久の時を生きる魔人達もこれまでに見ることが出来なかった。


 そんな次元が違うと言える魔法陣が完成する。


 アレンは狼狽えながらも戦士の誇りを何とか保ち、冷静さを欠くことはない。


 しかし、キーナの魔法の前ではそれも無意味だった。


 圧倒的な理不尽とも言える力でキーナはアレンをねじ伏せる。


 「何だ。これは。この世界にレーネスト様以外にこんなバカげた魔法を使う者がいるわけな...!!」


 アレンの主張は最後まで聞き届けられず、断末魔さえ聞こえることはなかった。


 周りの皆は唖然としていた。


 「こりゃあとんでもないことになりやしたね。今の魔法のレベルは恐らく創造神クラス。伝説級魔法でしょう。」クレイツはそう分析した。


 そう精霊の森は半壊していたのだ。


 キーナは魔法を発動し終えると気を失ってしまう。


 そして、キーナは同時に精霊を敵に回してしまうのだった。







 キーナが起きてからが大変だった。


 レッズは目を覚ましたもののかなり不甲斐ないと感じている様子に見える。


 そして、精霊達はキーナに詰め寄る。


 「どう言うつもりだい?今回のことで精霊王様もかなりお怒りみたいだよ。」


 キーナは唖然としていた。辺りの風景を見回すとそこは木々の残骸から煙が立ち込めるばかりだった。


 精霊カディはさすがに怒りを抑えられず、キーナに詰め寄っていた。


 「どうしてくれるのさ。森を守るどころか自ら壊すなんて目も当てられないよ。」


 カディは呆れるようにそう言った。


 しかし、レッズも目を覚ましていたのだ。すかさず、救済に入る。


 「待てカディ。確かに森は壊れた。だが、俺たちがこうして息をしていられるのは誰のお陰だ?」


 「グッ。レッズがそういうなら...でも精霊王様のお怒りはどうするのさ?」


 「俺が掛け合ってみる。なんとかしないとな。」


 こうして、レッズ達は精霊王のいる精霊の神殿まで赴くことになった。


 その神殿は森の奥深くにある。







 「貴様がかの伝説級魔法を放った者か?」


 「はい。そのようです。あの時は無我夢中で回りが見れていませんでした。このようなことになってしまい、申し訳ありません。」


 「ふむ。では貴様の免罪に一つ条件を出す。」


 「何でしょうか?」


 「少し前までこの地に住んでいた魔人族第一王子レイドの身柄を要求する。その身柄を引き渡し、我々は魔人族の不干渉を得たいと考えている。」


 「さすればこの森から出ることを許可しよう。もちろん出入りも自由にする。難しいとは思うがそのくらいのことをしてもらわなければ割りに合わん。無論レイドの身の安全に関しても掛け合うつもりだ。」


 「レッズさん...」


 おそらくレッズの身内だと考えられる人物だ。


 レッズはキーナに意思表示する。


 「その条件呑むよ。精霊王様。」


 「すまぬな。私たちはこうやって生き抜くつもりなのだ。」


 よって、レッズ達はレイドを探すために人員を決めることになった。


 レイド捜索メンバーはキーナ、グレスだ。


 他のメンバーは魔人族との対決に備えなければならない。


 つまりレッズとキーナ達は一旦お別れということになる。

 

 レッズはキーナを心配していなかったわけではない。


 伝説級と謳われる魔法を扱ったわけだが、どうもキーナは仲間の死を恐れ過ぎるように見えていたのだ。


 だがレッズはうまい言葉が思いつかなかった。


 しかし、キーナは気負い過ぎているどうしたらいい?


 などと考えていると、カレンは言った。


 「キーナちゃん。レッズさんを憂う気持ちは確かにわかるわ。でもね。もっと仲間の強さを信じるべきよ。」


 キーナはハッとした。そうだ。自分が強くなったなら、伝説級の魔法を扱ったなら、確かにそれは評価されることかもしれない。


 しかし、もっと大事な事がある。それは強力な仲間とともにまだ見ぬ敵を打ち滅ぼす。それが大事ではないか。

 

 金髪の少女は素直になる。


 「カレンさん。あなたの言う通りでした。私は少し慢心していたのかもしれません。」


 ここでようやくレッズが口を開く。


 「キーナ。俺が助かったのはお前のおかげだ。誇りに思うよ。」


 それを聞いた途端、キーナは溢れんばかりの涙が込み上げてきたのだった。


 そう彼らはお互いを思い、守り合うことを誓ったのである。


 そして、一行は二手に別れ精霊の森を出た。


 キーナ達はレイドを探し始める。


 一方でレッズ達は魔人族の侵攻を迎え撃つ準備を始めているのだった。








 魔人族は次の動きを決めようとしていた。


 アレン達が亡き今、戦力は大幅に削られたように思えたかもしれない。


 しかし、魔人族は魔族と結託した。


 これにより、人間族は凶暴な魔族と戦うことを余儀なくされていることは違いない。


 しかし、五大魔人と元五大魔人を失ったことにより魔人族サイドに圧がかかっていた。


 「ハクやゲントまでもやられただと。」


 ヴァンはレッズ達を侮っていたことに気づく。


 そして、魔人王とヴァンの意見は一致することになる。


 「こちらの最強戦力で赤髪を討つ。いいな?ヴァン。」


 「は。仰せのままに。私も僭越ながらそれが最善かと思われます。」


 レッズ達に一体どんな敵が立ち塞がるのか?








 その頃、ミネスはレックスを連れてはいながらも計画を進めていた。


 地図を集めながら、レックスには心中を悟られまいとしているつもりだ。


 そして、ミネスにヴァンから念話が入る。


 「あら。どうしたの?」


 「アレン。ハク。ゲントがやられた。よってこちらも最強戦力で臨むつもりだ。」


 「そうだったのね。人間族もかなり侮れないわね。でもちょっと今厄介な状況なのよ。」


 そう。今ミネスは実質六英雄斧のレックスに監視されてるに近い状況だ。無駄な戦闘は避けたい。


 「そうか。なら別の任務だ。どうやら。精霊王はレイド様の身柄をこちらに引き渡したいらしい。」


 「そうなのね。で、何をすればいいの?」


 「お前にレイド様の捜索を頼みたい。」


 「仕方ないわね。ヴァンあなたが赤髪とやるつもりでしょう?なら一つアドバイスよ。赤髪は心に脆い部分があるわ。人質を何とかして取りなさい。」


 「ああ、助言感謝する。それではな。」


 そして、ミネスは新たな任務に就くことになるのだった。







 キーナ達は、北大陸のクレン自治区というところを目指すことになった。


 最後にレイドが北大陸に行くと精霊に告げていたからだ。


 金髪の少女と聖剣使いという異色のコンビを組むことになったが、キーナはどこまでも前を向いていた。


 必然的にグレスはそれを見て頼もしく感じていた。


 北大陸にはレッズの故郷もある。是非一度見ておきたい。

 

 そして、キーナ達は足早に北へと向かっていく。

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赤髪の剣士レッズ〜魔導士キーナと旅をします〜 kasim @lnd659

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