第7話精神世界で

 そこは精神世界と呼ばれる場所だった。レッズとキーナは自分自身と戦っている。これがこの神殿で課せられる試練であったのだ。


 レッズは幼少期まで記憶を遡ることになる。







 「おーいレッズー!」レッズの幼馴染のアンナだった。


 この時レッズは8歳だった。


 「なんだよアンナ。」


 「レッズってばまた親父さんを怒らせて懲りないわね。」


 「ちょっとハムを盗み食いしてだな。あんな怒ることないのに。」


 「この村で冬を越すための備蓄に手を出したんだもん。そりゃ怒られるよ。」


 レッズの故郷はキースターの北にある海の更に北にある北大陸のラズ村だった。


 レッズはどこにでもいる普通の少年だった。そんな普通の少年がキースターの歴代最強と謳われる戦士になるのはまだ先の話だった。


 そして、ついに転機が訪れる。最悪のだが。


 その日は快晴といってもいいくらい良い天気だった。しかし、急に辺りが暗くなり、雲に覆われる。


 「なんだ。急に天気が悪くなったな。今日は釣りにでも出かけようと思ったのに。」とレッズはしょんぼりしていた。


 「ほんとねー。天気の神様が怒っているのかしら。」とアンナも首を傾げている。


 それは、唐突にやってきた。


 「どうも人間の皆さんごきげんよう。私はゼネスと申します。突然ですがこの村の皆さんは魔人王様の供物となっていただきます。死んでいただけますか?」と言うと、その魔人は村に突如として現れたと思ったら急に村を焼き払い、殺戮を始めたのだ。


 レッズとアンナは少し村外れにいたため助かった。しかし、レッズたちも気づかないわけではない。


 「アンナ!村の方から煙が立ち込めているぞ!すぐ戻ろう!」


 「ええ!何よあれ!お父さんとお母さんが!!」


 二人は急いで村の方まで戻っていった。


 そして、とてつもない惨状を目の当たりにする。


 「なんなのこれ。村が無茶苦茶じゃない!!」


 レッズは唖然としていた。「俺の家...父ちゃんと母ちゃんは!!!!」


 家に戻ると信じられないものを見る。それは、動かなくなった父と今にも生き絶えそうになっている母の姿だった。母は腹部を大きく切り裂かれていた。


 「そ...んな...」


 「レ、レッズ戻ってきてはダメ!直ぐに逃げなさい。レッズ....強く生きるのよ。お父さんとお母さんの分まで。さあ行きなさい!!!!!」


 母マイアはとても優しい女性だった。周囲からもその愛想の良さと気配りが出来ることからマイアおばさんと呼ばれ、アンナも懐いていた。


 こんな理不尽あっていいはずがない。


 「母ちゃん!何言ってるんだ!絶対助けてやるからな!!」レッズの目は大粒の涙を含んでいる。


 「レッズ。母さんの言うことを聞かないの。ダメな子ね。」と最後に優しい表情を見せ、事切れたのだった。


 後から、魔人ゼネスと名乗った者が去っていく様をレッズは見ていた。


 この日レッズは魔人ゼネスへの復讐を誓ったのだった。











 キーナは知っての通り転生者である。何不自由なく比較的裕福な家庭で育ったキーナも悲しい転機を迎える。


 最愛の母の訃報だった。それ以来キーナは塞ぎ込み、家から出なくなる。


 学校にも行けなくなり、ぼーっと過ごす日々。


 そしてさらなる転機が訪れる。


 久しぶりの外出で夜道を帰路についていると、怪しい人影を見かけた。


 怖くなり、交差点まで逃げ出すと信号は赤だった。


 キーナは車に轢かれ、帰らぬ人となったのだ。


 そして、目覚めると異世界。何もかもがキーナの常識とは違う世界。


 貴族として生まれ変わり、さらに何不自由なく過ごしていた。


 しかし、戦争が起き、今度は全てを失った。


 奴隷にまで堕ち、だがそれでも救いはあった。


 それがレッズだった。レッズはキーナを奴隷としてではなく家族のように大切に扱ってくれた。


 そんなレッズに報いたい。そう思ったキーナはレッズの隣に立つため、必死に勉強した。少しでも強くなるために。


 そして、ついにレッズに力を認められ、旅への同行の許可を得られたのだ。


 







 レッズは苦しんでいた。ゼネスが憎くてしょうがなかった。「俺があの時もっと早く対応できていれば....」


 元王国最強の男にはそんな苦悩があった。憎しみと闇に飲まれそうになるが、思い出す。


 「レッズさん!」


 「もうレッズさんったら。」


 「見てください!こんな魔法を習得したんですよ!」


 そう俺にはもう守らなきゃいけないものがあるじゃないか。レッズは正気を取り戻した。


 「レッズさん!レッズさん!」

 

 目を覚ますと頭はキーナの膝の上だった。


 「すごくうなされてて心配だったんですよ。」キーナが涙目でしかし、それでも安心したような表情を見せた。


 「ああ悪い。また助けられたな。」


 「いいんですよ。何度だってこうして見せますから。」


 二人は試練を突破した。


 そして、さっきの老人が現れた。「ほう二人して乗り越えたか。これも運命の導きか。約束の品じゃ。」


 とレッズは黒い大きなカギを受け取った。


 ついに鍵の一つであるブラックキーを手に入れたのだった。







 「ゼネス。失態だな。」グランは失望を隠せない声音で言う。


 「誠に申し訳ございません。」


 「お前には最後にもう一度だけチャンスをやる。今度こそあの赤髪を仕留めてこい。」


 「はは。この命に代えましても。」


 「あらあら。ゼネス。失敗したのね。」謎の女がゼネスに問うた。


 「は。不覚ながら。ミネス様。」


 「ゼネスこれを持っていきなさい。」


 「これは....よろしいのですか?」


 「ええ。その代わり必ず殺しなさい。」


 「かしこまりました。命を必ずや全うして見せます。」


 「ええ。」ミネスと呼ばれた女魔人は邪悪な笑みを浮かべていた。





 レッズ達はロワネイアまで帰ってきた。グレスに結果報告だ。


 「ほう。これがブラックキーか。よくやったと言うべきか。」


 「まあな。だが、道中で魔人ゼネスに遭遇し、戦闘になった。」レッズは苦々しい表情で伝える。


 「何!本当か。だが、我々の動きに感づかれても不思議ではない。魔人は人の世界に潜伏している。その情報網は侮れんからな。」


 「だな。」とまた苦々しい顔をレッズはした。


 そして、「これが今回の報奨金だ。」


 またレッズは小包を受け取る。


 「確かに。」今回も破格だ。ロワネイア大金貨35枚。増えている。


 「お前はこのごろどうしてるんだ?」とレッズは世間話程度に聞いてみる。


 「ああここ最近は魔人対策に追われている。国王もそれ以外の用は少なくするよう配慮されているからな。」


 「あの王様も以外にまともなんだなあ。」とレッズは意外そうに呟いていた。






 レッズはロワネイアにマイホームを建てていた。王国戦士長時代の貯金を使うまでもなく、グレスからの報奨金でそれなりの家を建てたのだ。


 無論キーナの部屋と自分の書斎兼寝室も備えている。


 休日に休んでいるとさっそく来客だ。ドルスだった。


 キーナに用があるのかもしれない。


 そう思い開けてみると、もう一人初めて見る連れがいたのだった。


 一体どんな要件なのか。

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