第8話来客
やって来たのはドルスとこう名乗る女性だった。
「お初にお目にかかります。12聖魔導士が1人カレン・ラセンダムです。」
レッズはその優雅な礼に慌てる。「俺はレッズ・ガイア。キーナの親代わりみたいなもんです。」
と言うとその女性カレンは頬を緩ませ、「キーナちゃんからあなたのお話をよく聞いていましたわ。」
「キーナは何て?」
『とても頼れる戦士だって。同時に感謝もしている。』と。」
「そうですか。」レッズは少しむず痒くなった。すごく評価してくれてるんだなあと。
「どうぞ中に入ってください。」とレッズは2人を手招いた。
「要件は何でしょう?」レッズは不思議そうに尋ねる。
「はい。私たちがここに来たのはレッズさんのお耳に入れておきたいことがあったからなのです。」カレンは真剣な顔でそう訴えた。
「というと?」赤髪の剣士は見当もつかない様子でそう聞く。
「実は魔人王につながる4つの秘宝が1つ黄の秘宝が魔人族の手にあることがわかりました。」とカレンの顔から深刻さが滲み出ている。
「本当ですか!?」レッズもこれには驚いている。
「そこで1つお願いがあって参りました。私たちと秘宝の奪還についてきてもらえませんか?無論ただでとは言いません。報酬はお支払いします。」
「なるほど...わかりました。どの道いずれは行くことになっていたでしょう。力をお貸しします。」とレッズは二つ返事で返した。
「ホッとしました。一緒に来てくださるのですね。」と女魔導士は安堵した表情を見せる。
「ええ。それで場所と持ち主には心当たりがあるんですか?」
「はい。」とここでドルスが口を開く。
「キースターに潜伏していると思われる魔人ゲーチスです。」ドルスは答える。
「そうか。キースターに。あそこには少しばかり苦い思い出もあります。ハハ。いいえ、何でもありません。いつ頃向かうのでしょうか。」レッズはいつもとは違う珍しく丁寧な口調で尋ねる。
「急ぎですので、3日後にここを出発してもらいます。問題ないでしょうか?」とドルスは火急の用であることを訴えた。
「わかりました。それまでに出発の準備をしましょう。」こうしてレッズは再び秘宝集めの旅に出かけるのであった。
「キーナ。というわけで俺はカレンさん達とキースターまで行ってくる。」レッズはキーナにそう報告した。
「私もご一緒したいところですが。アンナさんがいるなら心強いですね。ドルスさんも私と戦った時は本調子じゃなかったようですし。」キーナも少しむくれているが仕方ない。なぜなら学校がもうすぐ始まるのだ。せっかくだから卒業しておきたい。
そう言っている間にカレン達がレッズの家まで迎えの馬車を寄越した。
「じゃあ。行ってくる。」
「今回もお気をつけて。」
レッズは二人の魔導士と共に家を発った。
「レッズさん。キーナちゃんとは変わりありませんか?」カレンはそう尋ねる。
「ええ。どうかしました?」
「あの子レッズさんの役に立ちたくてとても頑張ってるんですが、無理をして倒れないか心配で。レッズさんもよく見ていてあげてくださいね。」
「ええ、肝に銘じます。」とレッズは申し訳なさそうに返した。
「レッズさんが気に病むことはありません。私達も責任を持ってキーナちゃんの面倒を見させてもらいます。」そう言うとカレンはとても優しい表情を見せた。
レッズはそれを見て少しドキッとしたが、すぐに我に帰った。
アンナさんはとても優しい人なんだなとレッズは心の内でそう思ったのだった。
「それと。レッズさん。これは良い知らせではないのですが五大魔人の存在はご存知ですよね?」
「ええもちろん。魔人には人より詳しいつもりです。」レッズはさも当然のように応える。
「その五大魔人の1人厄災の魔人ミネスが復活したと思われます。それだけではありません。恐らく嘆きの魔人グランも同時に。二人の大魔神が同時期に復活するなんておかしいとは思いませんか?」カレンはレッズに問うた。
「ええ。確かに。」レッズは疑問を覚えた。魔人は邪悪な魔力を糧に復活する。しかも、五大魔人となると魔人の中でも群を抜いて、強大な力を持っている。しかし、それ故簡単には復活しない。考えられるとすれば、
「魔人族に組する人間がどこかにいる?そして、魔人族復活のための何らかの手助けをした?」
「ええ。私もそう思います。」
レッズは得心がいった。半永久的に封印された魔人王の復活を目論む存在が現れたと聞いた時にもそうだった。敵は魔人族だけではないということを。
そう話している間にキースターの領土に入っていた。検問は12聖魔導士の二人がいるので簡単であった。
そして、3人はグレスと落ち合った。
「グレス。どうやら秘宝の一つが魔人族の手にあるらしい。」
「ああ。こちらも12聖魔導士と連携して動くことが決まったばかりだ。」
「なら話は早いな。」
「グレス。キースターのどこに潜伏してるのか見当はついているのか?」とレッズは黒髪の現王国戦士長に尋ねる。
「こちらで掴んでいる情報はこんな噂だ。王都から北東にあるカスローという街で新興宗教が出来てな。それも魔人族の叡智を崇めるもののようだ。そこがきな臭いな。」
「では。北東に向かうのが無難ですね。」カレンはそう判断した。
「ああ。もとより君たちには調査に向かってもらうつもりだった。遅かれ早かれな。だが今夜は王都に泊まっていくがいい。旅の疲れを癒してから臨んでくれ。」
グレスは不愛想だが一応気の利く男だ。女性人気が高いのもうなづける。一行はグレスの言葉に甘え、高い宿を使わせてもらうこととなった。
夜分にレッズの部屋にカレンがやってきた。カレンはどこか酔った表情でレッズになんと迫ってきたのだ。
レッズは気が動転していた。女性と夜に一つ屋根の下なんていつぶりだったか。
カレンはこう言う。「私実はレッズさんが王国戦士長だったころからファンなんです。レッズさんのその謙虚だけど強くて、周囲に愛されていたあなたをその....私お慕いしていました。」
意外な言葉だった。何者かにより失墜したレッズは人間不信になったこともあった。そんな自分を今になっても認めてくれるそんな存在を今確かに見つけたのだった。
そして、レッズはさらに意外な選択をする。迫ってきたカレンを受け入れたのだ。幼いころに亡くした家族、友人達を失った寂しさを埋めようとせんばかりに。
翌朝、レッズは目が覚めた。初歩的な魔法なら使えるレッズは水魔法で顔を洗い、外に出た。なんとなくカレンとぎこくちなくなったのをドルスはどこか悟ったようにしかし、それを見せるそぶりなく、
「お二人とも出発の時間です。」と冷静に呼びかけた。本当はめちゃくちゃレッズに詮索したい気持ちをドルスは抑えるのだった。
三人は再び馬車に乗り、北東へ向かう。
レッズとカレンの関係が動いたことをロワネイアの都市ラビリントの自宅にいるキーナはこの時知る由もなかった。
そして、カスローとは一体どんな街なのか。
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