第11話
王宮にてアリス王女殿下救出による褒賞を受け取った日の夜のこと。
去り際に彼女の放った突撃宣言にビックリした俺だったが、流石に一国の王女が王都の宿舎とはいえやってくるわけがない。ましてや男の泊まってる部屋なんて。しかも夜に。ナイナイ、絶対にナイ。
そう高を括っていたのだが―――――
「今朝ぶりですわね?アルフレッド様」
―――――件の王女様が、侍女を連れて本当に宿舎にやって来た。
「………正気ですか?アリス王女殿下」
「あらあらあら…私、アルフレッド様を相手に嘘を吐いた覚えはないのですけれど」
いやいやいやいやいや…。王女様が夜更けに男の宿にやってくるって、どんな精神してるんだ…。そしてそれを許可してしまう王様と軍人たちは何をしてるんだ。と思ったが宿舎の外にそれらしい気配がいくつかあった。流石にいるよな、良かった。
というかアリスはもう前世の事を隠す気がないな?確かに彼女と知り合ってから最後に会ったときまで彼女に嘘をつかれたことは一度もなかったけども。
「はぁ…とりあえず入ってください、話はそれからにしましょう。クラウディアさんもどうぞ」
「はい、失礼しますわ」
「ありがとうございます、アルフレッド様」
いつまでも女性―――しかも王女様―――を部屋の外に立たせるわけにも行かず、かといって宿舎の集会所なんて使えるわけもないため、クラウディアとともに部屋に招き入れる。
にしてもアリスってこんなに強かだったっけ?強引さが増したのは悪いことではないがもう少し控えめでもいいんだぞ?
そんなこんなで部屋にアリスとクラウディアさんを入れたところで、先程感じたものとは違う嫌な気配をいくつも感じ取った。
「…全く、プライベートのプの字もないんですね。王女殿下?」
「ええ、困ったもので…ですので、少し場所を変えましょう」
「場所を変える?」
洒落にならない追手の数に頬を引き攣らせながらアリスに問うと、そんな提案が返ってきた。
はて。確かにここで深い話をするわけにはいかないだろうが、かといって今の時間から行ける場所などあるのだろうか。個室付きの酒場って言ったって俺も彼女も未成年だから入れるわけもなし、一体どこへ行こうというのか。
「はい。クラウディア、お願いしますね」
「畏まりました。アルフレッド様、どうか気を失わぬよう………行きます」
「行く?行くってどこ―――――に…?」
アリスの頼みにクラウディアが応えたかと思えば、宿舎に居たはずの俺たち4人は知らない部屋に身を移していた。
「い、今のは………?」
「クラウディアの転移魔法になります。一方通行にはなりますが、私の離宮に飛ぶことができます」
「はぁ、転移魔法………ちょっと待ってください、アリス様の離宮と仰いましたか?」
「はい、私専用の離宮になります」
…王族ってすごいな。確かに資金ならあるだろうから個人邸も建てることができるだろうけど、未成年に与えるか?
って思ったけど、前は専用の離宮なんて持っていなかったことを思い出す。………なんのために建てたのやら。クラウディアの転移魔法も凄いはずなのに、インパクトは完全に離宮に持っていかれてしまった。
そんな事を考えていると、アリスがこつ、こつと部屋を歩き、こちらに振り返って口を開いた。
「ここならば、誰に何を聞かれるか心配する必要はこざいませんよ?ですので………」
語りかけるように、一度そこで言葉を区切ったアリス。
そんな彼女の顔を見ると、眉は少し垂れ、目元は確かに潤んでいるのがわかって。
「………そろそろ、いいんじゃありませんの?」
そんなふうに請われたら、こちらも我慢なんて出来るわけがなかった。
―――――あぁ、本当に、彼女もそうなんだな。
「―――そう、だな。うん…久しぶり、アリス」
「っ………!アルフレッド様……………!!」
意を決してわざとらしい敬語を崩して応えれば、彼女は俺の胸元に抱きついてきた。
バランスを崩して倒れることのないように俺からも彼女を抱きしめると、なんとも言えぬ懐かしさが込み上げてきた。
…最後に彼女とこうしたのはいつだっただろうか。あれは確か戦争のために王都を立つ直前だったか。見送りに来てくれた彼女と抱き合った記憶がある。
あの頃とは年齢が違うから抱きしめたときの感覚も違うけれど、彼女なのには変わりない。
「本当に…お久しぶりでございます、アルフレッド様………」
「うん…あれから…12年くらいか。本当に………久しぶりだ…」
「っふふ…ごめんなさい、なみだが、とまらなくて………」
それから暫くの間、彼女の涙が止まることはなかった。
その間俺は、彼女をずっと抱きしめていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アリスが泣き止むまで待った後、いつまでも立ちっぱなしではおちおち話も出来ないということで俺たちは椅子へ座った。ドロシーとクラウディアは後ろで待機しようとしていたが、この場で侍女としての働きを優先する必要はないと思い、2人も座らせる。
そうして、十数年ぶりに会話をする俺とアリス。新しい生を受けてからどのような生活をしてきたかという話題から始まり、現時点までの情報共有を行った。
「そうですか。エミリア様も、私と同じように………」
「ああ。元々幼馴染という関係だったから4人の中で一番早くに再会することになったけど、エミリアは会ってすぐに俺のことがわかったらしい」
「そうでしょうね。彼女は視ることが出来る人でしたから………その様子ですと、彼女の魔法も体験したのでは?」
「ああ。魂を精神世界に引きずり込む…とか言ってたっけな。どういう理屈だよって思ったけど、まあアイツだしな」
「ふふっ、違いありませんわね」
夜更けという普段なら起床していない時間にも拘わらず、俺とアリスの会話が途切れることはなかった。
それは、アリスの個人邸という俗世離れした空間にいるからか。それとも、お互いに話したいことが積もりに積もっていたからか。
恐らくそれもあるだろうが………一番は、純粋に彼女と話すのが楽しいからだろう。
彼女とこうして顔を合わせて話すのは10数年ぶりになる。そりゃあ、今までこうすることのできなかった鬱憤が爆発するのも頷ける。
そして、それは恐らく、彼女もなのだろう。
実際、こうして話し始めてから彼女の笑顔は純粋さが増した―――――昔はよく見せてくれた―――――素の彼女の笑顔だったのだから。
そんなこんなで話を続けていた俺とアリスだが、会話が一瞬途切れたとともに彼女の顔がこれまで浮かべていた笑みから真剣みを帯びたものに変化した。
「―――――さて、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか」
「本題?これまでの情報共有が、それじゃなかったのか?」
「もちろんそちらも本題の一つではありますわ。ですが、本日はもう一つの本題がありまして………貴方様にお伝えしておきたい内容がございますの」
「………聞かせてくれ」
これまでとは打って変わって真剣な表情のアリスを見て、何を告げられるのかと俺にも緊張が走る。
そんなに大事な内容とは一体なんなのか。
果たして、今の俺が受け止めていい内容なのか。
だが、彼女が俺を信じて話してくれるというのなら、俺はそれを受け止めるだけだ。
その後、意を決した彼女から告げられた内容は、まさしく青天の霹靂だった。
どのくらいの衝撃度だったかと言うと、クラウディアですら正気を疑う表情で自身の表の主であるアリスを見つめるレベルだった。というかそこは事前に話しておけよ…。まあ、そういうところもアリスらしいんだけどさ。
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