第10話

 ―――王都、グノーシア宮殿


 生誕祭中止の報せを受けリースヘッグ領に帰還しようとしていた俺は、王国軍に囲まれながら王宮に来ていた。


 要件は間違いなく、昨日の誘拐事件についてだろう。


 (にしても、王宮か………)


 ここはあまりにも、から、来たくはなかったんだけどな。


 そんな俺の思いなど露知らず、王宮内をどんどん進んでいく。


 もし誘拐事件の犯人に仕立て上げられた場合、反証材料が余りにも乏しいのが問題だ。アリスの証言にどこまでの有効性があるかは知らないが、多分なかったことにされる。仮にも王女の発言を、と思うかもしれないが、それくらい国王は腐ってる。

 一応、あの建物の外にゴロツキ4匹を転がしたから大丈夫だとは思っているが…これは軍がどこまで噛んでいるか次第か。


 (本当に、ここには来たくなかったし奴には会いたくなかったんだがな)


 それでも、アリスを助けた以上避けては通れないのも理解はしていた。


 そんなこんなを考えている内に、デカデカとした扉の前まで来ていた。


 「この先に、陛下がいらっしゃいます」


 「わかりました。ここまで連れてきていただきありがとうございます」


 「いえ、これが仕事ですので。では、扉を開けます」


 ここまで俺を連れてきた兵士はそういうと、扉の先にいる国王に来客の報せを届ける。

 すると、誰が押すでもなく扉が開かれていく。


 「どうぞ、中にお入りください」


 扉が開ききったあと、兵士に促され部屋に入る。


 間違いなく謁見の間であろうこの場所には、国王と王妃、王女にして今回の件の被害者であるアリス、そして爺さんが2人いた。

 爺さんの片割れは軍の総指揮かなにかの役職に就いてるであろうことはわかるが、もう1人はわからないな…。


 部屋の中央辺りに来たタイミングで、片膝立ちに切り替え頭を垂れる。

 あまりこういう場での作法は覚えていないんだが、大丈夫か?


 「そなたが、アルフレッド・リースヘッグで間違いないな」


 「はい」


 「そうか…面を上げよ」


 許可が下り、顔を上げる。


 …うん、相変わらずの面晒してんな国王さんは。


 「先日の件では、そなたの尽力により我が娘アリスは無事救出された。そなたの勇気ある行動に感謝する」


 「勿体なきお言葉にございます」


 「ほっほ、何を言うか。国軍が必死に捜索しても見つけられなかった娘をあっさりと見つけ、救出したのだぞ。本当に感謝しておる」


 本当かよ、目線はめっちゃ厳しいのが飛んできてるんだが?


 「まあ、良い。どちらにせよ娘が無事だったのは事実じゃ。褒美を幾ばくかくれてやる」


 「ありがたき幸せでございます」


 そういうと目の前に運び込まれてきた金の山。


 …金額は数えたくないな。


 「目の前に用意したものを褒賞とする。構わないな?」


 「はっ」


 「では、此度の件に関しては以上で終わりとする。持ち帰る用意を今からさせる故、暫し隣室にて待たれよ」


 そう告げると、王は臣下を残してさっさと退室してしまった。

 そんなに急ぐ必要あるのか?と思いながら、俺も兵士に促されて退室した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 隣室には、ドロシーとクラウディアがいた。


 「よくお戻りになられました、アル様」


 「うん、戻ったよドロシー。君は…昨日の子だね?」


 「クラウディアと申します。昨日は助けていただき、本当にありがとうございました」


 クラウディアが優雅なカーテシーを披露したと同時に、扉が開く音が聞こえた。


 「あら、少々間が悪かったでしょうか?」


 「い、いえ、そんなことは」


 クラウディアが部屋に居たことから若干予想できたが、来客は―――




 「1日ぶりですわね、アルフレッド様」



 ―――アリス・グノーシア・マーチ、その人だった。


 「はい、昨日ぶりでございます、アリス王女殿下」


 昨日とは違い身分が明らかになっているため挨拶が仰々しくなったが、彼女はそれに不満を示してきた。


 「あら、態度が仰々しくありませんか?」


 「仕方ないではありませんか。このような場所では聞いてるかわからないのですから」


 「確かにそうですわね…失礼しました、アルフレッド様」


 「いえ、王女殿下が謝られることではありませんので、お気になさらないでください」


 「ふふっ、お気遣い痛み入りますわ」


 昨日はそこまで彼女と話すことが出来なかったため感じなかったが、やはり彼女は彼女だと実感する。

 …この場所でなければ、色々と話を聞きたかったんだがなぁ。


 「クラウディアも、アルフレッド様のお陰で後遺症などはなかったようですので、本当に感謝しております」


 「はい。アルフレッド様、改めて感謝申し上げます」


 「それなら良かったです。あの場を制圧する際にお二人の事を意識できなかったので、大丈夫かなと心配していたので」


 …もどかしい。当たり障りのない話しかできないせいで非常にむず痒い。


 そんな感じで非常に気まずい雰囲気が流れていたところ、扉の奥から声がかかった。


 「アルフレッド様。褒賞をお渡しするご用意が出来ましたので、こちらにお越しください」


 「あ、はい。ありがとうございます。それではアリス様、早いですが私はこれで」


 「ええ。あ、1つだけ、よろしいでしょうか」


 そういうとアリスが体を寄せてきて、耳元で爆弾を投下してきた。





















 「






 「っ!?」


 その後、俺がどうやって宿舎に戻ったのか覚えていない。

 部屋に戻ったあと、彼女の発言は何かの冗談だろうと思っていたのだが………











 「今朝ぶりですわね、アルフレッド様?」






 「え゛っ!?」


 ………彼女の行動力を侮っていたと痛感するのは、そう遅くなかった。

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