第9話
アリスとクラウディアが軍に保護されたあと、俺は元々泊まる予定だった宿舎に戻っていた。
その帰り道、今日の出来事について色々と考える。
前回のときには起こらなかったはずの王女誘拐事件。
彼女に付いてた謎の侍女に、やけに時間がかかった軍の到着。
わからない。わからないことが多すぎる。
(前回と諸々一緒の世界だとは思っていなかったが、それにしては変化が起きすぎている)
そして、アリスも前回の記憶を引き継いでいる可能性が高いこと。
エミリアとアリスの2人がそうならば、残る2人も………果たしてそんなことがあるのだろうかと思う自分と、そうであったら嬉しいと思う自分が存在しているのを自覚した。
(いや、都合よく考え過ぎだろう…確認のしようもないわけだし)
そんなことを考えながら、すっかり暗くなった宿舎への道を歩き続けていた。
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「アル様………よくお戻りになられました」
宿舎に辿り着いた俺を待っていたのは、泣く寸前の表情のドロシーだった。
「戻ったよ、ドロシー…それとごめん、勝手に1人で行っちゃって」
「…その件については、後でお聞きします。まずは部屋に行きましょう」
宿主に軽く会釈をしたのち、俺はドロシーに連れられて自分の宿泊部屋に向かった。
部屋に入り、椅子に座ろうと数歩歩いたところで………背中に軽い衝撃を受ける。
「っ………ドロシー?」
「ごめん…なさい………わたし、ほんとうに、しんぱいで……………」
「…そっか。本当にごめん」
「いえ…謝らないで、ください………視えたんですよね?」
「っ…!?」
ドロシーが背中に抱きついてきたと思えば、信じられない言葉を発してきた。
後ろをチラッと見ると、そこには今にも泣きそうなドロシーはすでにいなかった。
「待って、ドロシー…一体何のことを言ってるの?」
「アル様は…アルフレッド様はあのとき、ビジョンが視えたはずです。アリス様と侍女………クラウディアが捕らえられているビジョンが」
「……………」
ドロシーに、あの時の状況を言い当てられ絶句するほかない。
確かに馬車から飛び出す直前にそのビジョンが視えたのは事実なのだが、何故それを彼女が知っているのか。
「…ドロシー。仮にそれを認めたとして、俺はどうなる?」
「………貴方様にどうこうしようというわけではありません。今はまだ、その時ではありませんので」
「その時ではない、か………」
色々と聞きたいことが増えてしまったが、今すぐに手を出されないのであれば放置して構わない…と判断したいが果たして可能だろうか。
俺は、腕を離し少し後ろに下がっていたドロシーに質問することにした。
彼女は、強張った顔をしていた。この先、どうなってしまうのかという不安がちらりと見えた…気がした。
「ドロシー、2つだけ質問してもいいかい」
「私に答えられるものでしたら」
「…ではまず1つ目。クラウディアの名前を知っているということは、彼女も君の仲間なのか?」
「はい。クラウディアは私の仲間であり、同じ主に仕える同志になります」
(同じ主…やはり裏に誰かが関係しているのは事実か)
「2つ目。君は………君たちは、俺たちの味方か?」
「はい。私たちは、命に代えてでも貴方がたをお守りするように命じられております。それが、主の意向となっております故」
「そっか………ありがとう、ドロシー」
「…私が言えることではないですが、信じるというのですか?このような突拍子もない話を」
ドロシーは、俺の行動がとても信じられないとでも言うかのような反応をしてきた。
本当に君が言えることではないぞ…と内心で苦笑しながらも、俺は答える。
「そりゃ、突拍子もない話だとは思うさ。だけど…君がこれまで支えてくれたことは事実だし、これからもその意志があるのなら、わざわざ拒む理由はないよ。なにより…」
「…なにより………?」
「………味方だと言ってくれた君の言葉を、疑いたくないから」
「………っ!」
そう、俺の本心としては最後に伝えたところにある。
確かに前回のときにいなかった人物ということで怪しかったところはあるが、もし敵対するところからの差し金だったらすでに命を奪われていてもおかしくない。いや、むしろ奪われていただろう。
けれどドロシーは俺の侍女になってからこの3年間、本当に献身的に働いてくれた。
そんな彼女のことを、疑うことはしたくなかった。
「今は、まだ深くは聞かないでおくよ。だから…これからもよろしくね、ドロシー」
「はい、はい………!こちらこそ、よろしくお願いしますね。アル様」
そういった彼女の顔には、綺麗な笑顔が浮かんでいた。
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翌日、参加予定だったパーティー―――ちゃんと生誕祭という名前があったらしい―――の中止の報せが宿舎に届いた。
それもそうだろう。なにせ王女誘拐とかいう特大級の事件が発生したのだから、お祝い事をやるムードではない。
しかし事を表沙汰にしたくなかったのか、報せには中止の原因として「国王の体調不良」が書かれていた。
いや、下手したらそっちの方がヤバいのでは…?と思いもしたが、そのほうが隠れ蓑としては優秀なのだろう。
そんなわけで俺とドロシーは想定より早くリースヘッグ領に戻る………つもりでいたのだが。
「アルフレッド・リースヘッグ。そなたの勇気ある行動に感謝する」
「勿体なきお言葉、有難く頂戴します」
俺は今、国王と対面していた。
…素直に帰らせてくれ………
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