第8話

 どうやってここまで来たのか、俺自身わかっていない。


 次またここに来いと言われても来ることは出来ない、そう確信できるくらいには、街のどの道を通ったかまるで覚えていない。


 だが、今はこの場所に来ることが出来てるから、それでいい。


 「な、なんだぁてめぇ!?」


 横たわる少女2人に群がる男ども―――その中の1が吠えてくる。


 「こ、ここは誰にもばれることがないって話だったんじゃねぇのかよ!?」


 「う、うるせぇ、俺に聞くな!!!」


 連中は俺の乱入に戸惑っているらしいが、そんなものはどうでもいい。


 今は、連中の無力化が最優先だろう。


 「俺が誰かなんて、どうでもいいだろう?お前らには関係のないことだ」


 そうやって煽りにすらならない煽りをするだけで、連中は顔を真っ赤にした。


 「てめぇ…ガキが一人で粋がってんじゃねぇぞ!」


 「お前らぁ!さっさとこいつをとっ捕まえろ!」


 「「「おう!」」」


 そういうと連中の中から3匹、武器を持って俺の方にやってきた。


 なるほど、2匹が頭で3匹が下っ端か。


 そんでもって、俺が3匹を相手する間に2人を人質にするか逃げるか、か。


 この手の輩はから、特段困ることはない。が、


 (今のこの体だと5匹まとめて始末は無理か………ならば)


 全身に魔力を巡らせ、ある魔法を行使する。


 それに気づかないようで、3匹の内一番早く来たやつが剣を大きく振りかぶる。


 「へっ、ビビって動けなくなったか?なら死ねやァ!」 


 残りの2匹もそれなりに近い距離………隙だらけで助かる!


 奴の剣が迫ってくるのと同時に地面を蹴り、奥に隠れている奴らに詰め寄る。


 「なっ!?」


 「コイツいつの間に………ぶべぇっ!?」


 詰め寄った勢いそのままに2匹の片割れを殴り飛ばす。


 殴り飛ばされた奴は建物の壁まで吹き飛び、その反動か建物が盛大に揺れる


 恐らくこれだけでも暫く動けないことだろう。


 「あとは…」


 「て、てめぇ………ただで済むと思うんじゃねぇぞ!」


 「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」


 「あ!おい待て貴様!!逃げるな!!!」


 どうやら下っ端の1匹が逃げてしまったらしい。


 本当は5匹全員の予定だったが、仕方ない。


 「…っ!?や、やめぶごぉ………!!!?」


 下っ端に気を取られていた隙に近づき、鳩尾に一発。


 これで頭の2匹を制圧。


 戦闘不能になったのを尻目に下っ端を睨みつけると、奴らは武器を手放して両手を上げていた。

 本来なら自分でのしてしまいたかったが、今の体だとそこまで体力ももたないのでありがたかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 降伏してきた下っ端2匹に気絶してる頭2匹を拘束させたあと、下っ端2匹を俺が拘束。建物の外に放り出し、俺は囚われの身になっていた少女2人の解放に向かった。


 (にしても、王都の中で誘拐するなんて、何がどうしたら考えるんだ?)


 訳が分からない現状に疑問符を浮かべながら少女たちに近づくと、何やら様子が変だということに気づいた。


 少女の片割れ―――服装的に侍女と思われる少女―――はこちらを見る目が恐怖で支配されているのが見え、対照的にもう1人の少女―――服装的にどこかのお嬢様―――は何やら熱い視線をこちらに向けている。


 恐怖心を抱かれるのは構わないが熱い視線を送ってくるのはどういうことだ………と思いながらその視線を向けてくる少女をちゃんと見た時、俺は愕然とした。


 部屋が薄暗かったこと、先に輩を制圧しようとしたため彼女らをキチンと見ていなかったことなどが原因ではあるが、今になって囚われていた少女の正体がわかったからだ。


 (なんで…なんで、こんなところにいるんだよ、アリス)


 彼女は、誘拐された少女の1人は、この国の王女であり、俺の恋人の1人であるアリス・グノーシア・マーチであったのだ。


 困惑が思考のほとんどを占めるが、今は彼女たちを自由にしなくては。


 まずアリスの体を起こし、手足の縄を切り、口に巻かれた布を解く。


 次に侍女の体を起こし、アリス同様手足の縄を切り、口に巻かれた布を解く。


 「ふぅ………大丈夫か、二人と…もっと」


 俺が立ち上がり一息ついたとき、アリスが胸元に飛び込んできた。


 「本当に…本当にありがとうございます、


 「いえ、これくらいは……………待ってください、なんで自分の名前を?」


 「うふふ…その件については、後ほどでよろしいでしょうか?」


 「え、ええ…そうだ、貴女は大丈夫ですか?」


 「は、はい、ありがとう、ございます」


 侍女の子は完全に恐怖に支配されているな…いや、それも仕方ないか。


 今回の一件に対するアフターフォローは必須だろう。


 「クラウディア…本当にごめんなさい。貴女まで巻き込んでしまって」


 「い、いえ!アリス様が謝られることではありません!」


 「だとしても、よ。貴女にあんな怖い思いをさせてしまって…本当にごめんなさい」


 「アリス様………」


 なるほど、恰好から侍女だとは思っていたが彼女―――クラウディアは本当にアリスの侍女らしい。


 …のときにいたか?まあ、後でアリスにでも聞いてみよう。


 その後、王国軍が救助に来るまで、アリスとクラウディアと共に建物の中で身を寄せ合っていたのだった。

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