第2話

 アルフレッドが6才を迎える日。


 この日、俺は幼馴染となる少女と初めて顔を合わせることとなる。




 エミリア・リースフレア―――幼馴染にして最初の恋人。

 家名に「リース」の文字が使われていることから分かるかもしれないが、リースヘッグ家とは非常に縁の深い家系である。

 と言っても血縁というわけではなく、どうやら互いの祖先同士が非常に仲が良かったとのことで、それぞれが独立することになった際に家名に同じ単語を使おうということでつけられた名前らしい。


 そんなわけで並みの幼馴染というレベルですらない繋がりを持つ両家なのだが、同年に子供が産まれるというのは長い歴史の中でも実は初めてらしい。


 そのためか、俺とエミリアは両親同士の熱いアピールもあり、仲を深めることとなる。


 当時は特に気にするようなことは何もなかったし、俺自身初めて同年代の子供と会ったこともあり非常に嬉しく思ったのを思い出す。

 なによりこの出会いにより彼女の人となりを知ることができ、前世では恋人同士になるまで関係性を深めることが出来たのだから、互いの親には感謝してもしきれない。


 まあ出会いはエミリアだけで終わることはなかったんだが…それはまた別の機会でいいだろう。


 そんなわけで今日はアルフレッドが6才を迎える日。


 この世界に来て初めてエミリアと会うことになる―――訳なのだが。




 (…ずっと胃が痛いんだが………大丈夫か……………?)




 俺は朝から胃痛に悩まされることとなっていた。


 なにせ前世のことが脳裏を過って離れないからだ。

 彼女には―――もちろん他の3人の彼女にも―――申し訳ないことをしたという自覚があるだけに、どの面下げて彼女に会えばいいかがわからなくなっている。

 もちろんこの世界のエミリアと前の世界のエミリアは別人だというのは分かっている。理解はしている。しかし俺にはどうしても前の世界のエミリアがチラついてしまう。


 (こんなんじゃ、2人のエミリアに対して失礼なんだけどな………)


 なんとか朝から切り離して考えようとはしたのだが、時間というのは待ってくれるわけもなく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「皆の者、今日はアルのために来てくれてありがとう。今日という日を―――」


 (あ~~~~~、誰か助けてくれ本当に………)


 夜になり、俺の誕生日パーティーは恙なく開催される運びとなった。

 特に異変が起きるわけでもなくパーティーが開かれたのは良かったものの、結局この時間を迎えるまでずっとエミリアのことを考えてしまっていた。


 (大丈夫、大丈夫。この世界のエミリアは別のエミリア、この世界のエミリアは別のエミリア………)


 「アル、今大丈夫か?」


 「………………」


 「アル?」


 「…っ!?は、はい!申し訳ございません!!」


 どうやら考え込んでしまったようで、父の呼び声に対する返事が遅れてしまった。

 何事かと思っていると目の前に見知った人物が三人。




 ―――――エミリアの両親と、エミリアの姿がそこにはあった。




 「大丈夫か?気分が優れないなら裏に戻っても大丈夫だが…」


 「い、いえ。体調は問題ないです。申し訳ございません」


 「そうか?それならばいいが…ああ、すまない。待たせたな」


 父に気を使わせてしまった申し訳なさに苛まれながら、目の前のリースフレア一家に視線を合わせる。


 「アル。こちらはリースフレア家の当主のヴィルキスとフレージア夫人、ご息女のエミリア嬢だ」


 「アルフレッドくん、初めまして。ヴィルキス・リースフレアだ。よろしく頼む」


 「アルフレッド・リースヘッグです。よろしくお願いします、ヴィルキスさん」


 本来貴族同士の顔合わせとなるともっと色々と複雑な挨拶やら形式ばったものがあるのだが、そこはこの両家。平時と比べると非常にラフな感じに済ましてもらえるのはありがたい。


 (貴族生活も結局慣れることはなかったからな~…学園卒業と同時に王国軍に入隊するから成人の貴族として表舞台に出る機会がほとんどなかったし)


 「フレージア・リースフレアよ。よろしくね、アルフレッドくん」


 「よろしくお願いします。フレージアさん」


 エミリアの両親との挨拶を終え、ついにエミリア本人との挨拶になる………のだが


 「………………」


 「エミリア?」


 「………………」


 「エ、エミリア?大丈夫かい?」


 「っ!?し、失礼しました。お父様」


 (…なんだ?どうして君は………?)


 なにかこの世のものとは思えないものを見たような顔をしているエミリアを不思議に思っていると、彼女が前に進んできた。


 「…初めまして、エミリア・リースフレアと申します。よろしくお願いしますわ、アルフレッド様」


 「は、初めまして。アルフレッドで構いませんよ、エミリアさん」


 「いえ、貴方のような素敵な殿方を呼び捨てなどそんな…」


 (…あれ、前の時はそんな反応しなかったような…?)


 どこか引っかかりを覚えつつも無事に両家の挨拶が済み、パーティーも順調に進んでいった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺の誕生日パーティーも無事に終わり、ほとんどの参加者が家に帰られた頃―――






 「………………」


 「………………」




 ―――俺とエミリアは、中庭に二人で佇んでいた。


 (いや気まず………)


 パーティーが終わり、リースフレア家の三人も帰ることになると思っていたのだが、エミリアが


 『少し、アルフレッド様とお話しさせていただけますか?』


 と言ったことで二人きりにされてしまった。


 まあ親同士は親同士で積もる話もあるだろうから二人きりにされるのは別に構わないんだが、話したいと言った当のエミリアがずっと黙ったままなのが気になって仕方ない。


 「あの、エミリアさん………?」


 「は、はいっ!」


 流石に耐えかねてこちらから声をかけると、ビクッと体を震わせる彼女。


 一体、何をそんなに身構えているのだろうか。


 「大丈夫ですか?気分が優れないようでしたら―」


 「い、いえ、そういうわけではないのです。ええ。決してそういうわけでは…」


 そう否定するもどこか浮かない表情の彼女。

 うーん…これといった原因がわからないからどうしようもないか?


 と色々頭を悩ませていると、なんかしらの決心がついたのか、彼女の方から改めて声がかかってきた。


 「…アルフレッド様。お手を拝借してもよろしいですか?」


 「え?ええ、どうぞ」


 一体なんのために握手を…?と思いつつも彼女が差し出した手に自分の手を合わせる―――――






 「うわっ!?」




 瞬間、合わせた手から光が溢れだし、あまりの眩しさに空いていた手で目を覆う。


 光が収まり手を離した時には、俺とエミリアは見知らぬ空間にいた。




 しかし、衝撃はそれだけに収まらなかった。




 「えっ……………?」






 ―――なぜ?






 ―――どうして?






 ―――なぜここに?





















 「―――――久しぶりね、アル」






 姿のだから。











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 初めまして、某名無しと申します。

 ここまでご覧いただきありがとうございます。

 近況ノートにて今後についてと軽い後語りを書かせていただいてるので、良ければご覧ください。


 今後ともこの作品をよろしくお願いします。

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