第23話

4月20日、読売ガゼルーズ戦にスタメンで呼ばれた。7番、ショートである。

久しぶりのスタメンなので、少し不安になった。

相手ピッチャーは、ストレート155kmもあるピッチャーである。

3回表、0アウト、ランナー無しで、僕の打席が回ってきた。

みんな、ストレートの155kmに手が出なくて、三振している。

僕は右打席に立って、構える。

守備は定位置

ピッチャーが第一球を投げる。

外のスライダーに手を出して、流し打ちをした。ゆらゆらと上がった

打球は、セカンドとライトの間に落ちてポテンヒットとなった。

久しぶりのヒットにがうれしくなり、ガッツポーズをする。


しかし、その後の4打席は凡退に終わって、

5打数1安打となった。


3,4試合スタメンで出たが、3本しかヒットが出ず。

5試合目で、スタメンから外された。


4月の28日、スタメンが外された翌日、バンティング練習をしていると

打撃コーチの川田さんがやってきた。

「テイクバックの時の手の位置、もう少し下にしたらどうだ。

すこし力んでいるように見える」

「こうですか」

「そうだ、うってみろ」

なにか変わったような感触はないがバッティングしてみる

すると、ボールのインパクトの時に、力が伝わったのか打球は、外野の深い位置まで、

伸びていった。

「柊、バッティングセンスはあるんだから、気楽に構えろ。

打てないときは、どこかが、間違っているから。そこを探せ」

「はい、ありがとうございます」と僕は言った。

それから、バッティング練習を続けると、前より、打球は飛ぶようになった。


埼玉西部ジャッカルズとの試合が始まって、

僕は、ベンチで見守っていた。

7回表に代打が言い渡された.。

僕は、打席に入るまえに、2回素振りをした。

右打席に入り、今の状況を確認する、

7回の表、3対2の2アウト2塁 

ここで、1点はいれば、相手を引きはがせる。

相手は、長身のピッチャーである。

1球目、高めのストレートに僕はタイミングを合わせて振る。

きれいに当たった打球はセンター前に落ちて、

2塁ランナーはいっきにホームに向かう。

センターは打球を取って、バックホームをした。

キャッチャーがセンターからの送球を取り、2塁ランナーにタッチをしようとするが、

2塁ランナーはよけて、ホームベースをタッチした。

審判がセーフと言った、。

横浜ゴールデンウルフズに1点が入る。

僕は、2塁ベースまですすんで、プロテクターを外す。

さっきのいい感触が手に残っている。

この試合は、4対2で、勝利した。


ホテルに戻り、食堂につくと、向かい側から安藤がやってきて、

僕の向かい席に座る。

「今日のヒットよかったよ」と安藤が言った。

「ああ、感触はよかった。」と僕は言う。

「昨日、監督から、1軍行きを言い渡されて、明日、1軍に合流するよ」

「おお、先を越されたな」

「1軍で待ってるから、上がってこいよ」と安藤は微笑んだ。

「ああ、2軍で成績を残して、1軍に上がるから、待ってろよ」と僕は言った。

安藤は、ここまで、86打数28安打ホームラン5本 打点 18点

打率325 と活躍していた。

いつ呼ばれてもおかしくない場面で、

外野の控え選手関村が練習中に、けがをして

安藤に声がかかった。

ドラフト1位選手でもあり、期待が大きいだろうが。

安藤なら、プレッシャーも跳ね返すだろうと思った。



Side 安藤

やっと、目標にしていた1軍に行けることに興奮していた。

1軍で活躍することが目標だったが、2軍で実績を積むことを目標としていた。

2軍では、3割台を打って、うまいこと相手ピッチャーの球に合わせることができた。

10試合ぐらい2軍でプレーしたとき、安藤は2軍で通用すると思った。

同期の中では飛びぬけているだろうと思っている。

1軍レベルになると、打率は下がるだろうが。くらいついていきたいと思う。

1軍に帯同して、最初の練習に入る。

4月の30日である。

「おお、1軍に上がってきたか、おめでとう」と園田さんが言った。

園田さんはユーティリティープレイヤーで今は、外野手をしている

「はい、2軍で経験積めました」

「それはよかったね」

「プロはすごいです」と安藤は言った。

「1軍からが本番だから頑張って」

園田さんとわかれてから

バッティング練習をした。

右に左に打ち分けて、今日の状態をかくにんする。

いつも通りであった。

打撃練習が終わると、

集合がかかり、スターティングメンバーが発表される。

自分は呼ばれなかった。



4月30日、中日キャットファイアーズの試合が始まった。

試合は、投手がそれぞれ打者を抑えて、

7回になった。

代打、安藤と呼ばれて、安藤はヘルメットをかぶって左打席に立つ。

相手ピッチャーは、148kmのストレートに、5個の変化球を持っている。

初めての1軍デビューに緊張しながらも入っていった。

観客席からは、応援歌が聞こえる。

ほぼ、満員のスタジアムにやっとプロ野球選手になった気がした。

子供の頃、いつも観客席で応援していた側の人間が、大人になって、

観客に応援される側になっていた。

小さいころは、いつか僕もプロ野球選手になると夢を抱いていた。

今は、すでにその夢を叶えて、打席に立っている。


7回、0アウトランナー2,3塁の場面。

観客席からは、チャンステーマ-が流れる。

点差は、2点。3対5である。

ここで、打てば同点に追いつくかもしれない場面。

1球目、インコースのストレートが投げられた。

タイミングを合わせて引っ張った。打球はファウルになり、観客席に飛んでいく。

掲示板には、ストレート148kmと出ている。

やっぱりプロの球は速いと安藤は思った。

安藤は、どの球が来ても打てるように、構える。

2球目、ピッチャーがアウトコースにスライダーを投げる。

安藤は、打てないと思い見逃して、2ストライク。

ここで、野球漫画だったら主人公は、追い込まれたら逆転ホームランを打って、

はなはだしいデビューをかざるのだろうな。

と安藤は思い、タイムを掛けて、打席を外して素振りをする。

左打席の入り、ピッチャーを見る。

ピッチャーは2ストライクと追い込んでいて、顔に少し余裕の表情が見える。

なにか、いつもより周りが見えているなとおもった。

ピッチャーが投球動作に入る。テイクバックした腕が振り下ろされる。

ボールがベースに向かって放たれた。

それがスローモーションのように見えた。

ボールの軌道に合わせてスイングする。インパクトの瞬間に力をいれてを回した。

バットに当たった打球が、高々と舞い上がり、横浜の上空に飛んでいった。

ライト方向にあがった打球は、放物線を描くように、ライトスタンドに入っていった。

安藤は、打球を打った瞬間、行った。と思った。

打球を見ながら、1塁に向かった。

ボールがライトスタンドに入った瞬間、球場全体が歓声で揺れ動いた。

あまりの歓声に、体が震えた。

2塁ベースを回ったとき、うれしさがこみ上げた。

ホームベースにつくと、待っていたランナーの味方選手とハイタッチをした。

1塁側の客席を見ると、余韻に浸っているようで、観客同士ハイタッチをしていた。

ベンチに行き、横浜ゴールデンウルフズの監督と選手にハイタッチをした。

これ、よくテレビで見るやつだと思いながら、ハイタッチをしていった。

これで横浜ゴールデンウルフズの一員になれたとそう思った。


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