豪雨に委ねて


 豪雨の中、傘も刺さずにぼーっと立つことほど、心地よいものはない。

 ザアザアと、雨粒が肌を打っては身体を伝っていく。耳のフチ、髪の隙間、鎖骨を通って胸をつうと降り、全てが指先や顎先、先端に集まると、たっぷりとした一滴、雨は地面へともどっていく。

 空は灰色がかって何も見えない。雲か、はたまた目の前に迫り来る幾つもの透明な粒が視界を歪ませているだけなのか。上を向けば目が打たれ、手で目を擦ろうにも腕の方が濡れている。衣服や髪がずっしりと重たくなり、水の行き場を探ってじとりと肌に張り付く。

 そうして、しばらく雨粒に曇る眼前を眺めていると、心の中に深く沈んだ、仄暗い何かに寄り添うことができる気がする。

 一種の自傷行為ともとれよう。文明や技術の進んだこの世界で、無意味に何にも遮られることなく、降り続ける水に身体を差し晒す。心の奥の濁りはは決して消えることはないが、少しだけ柔らかくなって、色が抜けていくような気がする。

 そんなことで、少しだけ救われる人生がいい。



 

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うつら綴 2 辺伊豆ありか @hase_uta

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