第5話 薬のおかげ
「ん……? ここは――あ、師匠!?」
リエナは意識を取り戻すと、慌てて身体を起こした。
「急に起きるな、安静にしていろ」
そう声を掛けてきたのは、一人の女性だった。
リエナは彼女を見て、すぐに気付く。
「! さ、先ほど助けてくださった方ですよね……?」
「……ああ」
少し間を置いて、女性はリエナの言葉に返事をする。
――あの後、すぐに意識を失ったために状況は分からないが、こうして無事ということは、目の前の女性が助けてくれたに違いない。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」
「……」
リエナの言葉に、女性は特に返事をしない――だが、そんなところに、リエナはかっこよさを感じていた。
(す、すごいクールな人……でも、わたしを助けてくれて……)
リエナは頬を赤く染めて、女性の方をまともに見れなくなっていた。
だが、やがて自身のいる場所に気付くと、
「……え、ここって……わたしの家!? というか、師匠が寝ていたベッド……!?」
そう、自身が寝かされている場所が――ルヴェンが寝たきりで使っていたベッドだということに気付いたのだ。
「あ、あの、ここにいた人を知りませんか……!? わたしの師匠なんですが……」
すぐに、リエナは女性に問いかける。
女性は、わずかに視線を逸らして、
「いや、私が来た時にはもういなかったが」
「そ、そんな……」
リエナは愕然とする。
もう動ける身体ではなかったはずだ――下手に無理をすれば、それこそ命を縮めることになる。
リエナはすぐにベッドから起き上がった。
「どこへ行くつもりだ?」
「……師匠を捜しに行きます」
「安静にしろ、と言ったはずだが」
「師匠は、わたしの唯一の家族のような人なんですっ! もしも、一人で出歩いているなら、放っておくことはできませんっ」
リエナはふらつきながらも、何とか立ち上がって部屋を出て行こうとする。
それを、女性は止めた。
「待て」
「……助けてくださったことには感謝しています。でも、止めないでください」
「そうじゃない。お前の捜している人物ならここにいる」
「……? 何を言って……?」
リエナは怪訝そうな表情を浮かべて、女性を見た。
髪色、瞳の色――いずれも、ルヴェンと同じ。
けれど、似ても似つかないほどに若々しく、凛々しい。
当然、目の前の女性以外の方に視線を送ることになるが、
「私だ――私がお前の捜しているルヴェンだ」
「…………は?」
リエナは目を丸くした。
女性が自ら、ルヴェンを名乗ったのだから驚くのも無理はない。
「いや、いやいや……師匠はもう、ベッドから起き上がれないくらいの老婆で……」
「お前の持ってきた薬のおかげだな。随分と若返ってしまったが」
「え――ええええええええ!?」
――森の中に響くほどの、リエナは驚きの声を上げた。
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