11話 カッコいいお姉さんは女神

 公園のベンチで木漏れ日を浴びながら、隣の女性に口説かれる。


「聞かせてよ。何があったんだ?」


「聞いたって楽しい話じゃないですけど、いいですか?」


「いいさ。聞かせてくれ」


 大人びた雰囲気にあてられ口から閉ざしていたことが漏れる。母の命がもう長くはないこと、父が不倫していること、俺1人じゃどうにもならなくて寂しかったこと。一つ話して仕舞えば止まらなかった。


「……色々ありすぎて、前を見れてなかったんだと思います」


「そうか……難しい話だな。でも、自殺しようとしてたわけじゃなくてよかったよ」


「どうしてですか?」


 俺が自殺したいと思っていようたって、この人には関係ないはずだ。


「いや、深い意味はあまりない。ただ、人が死ぬのを嫌に思うってだけだ。気にするな」


「そうですか……いい人なんですね」


「いい人か。どうだろうな」


 コロコロと笑って、白い歯を見せる。どこか達観したような彼女。カッコよくて、ぜひお近づきになりたい。


「俺、奏っていいます。貴方は?」


「秘密だ」


「ええーっ……じゃあおいくつ何ですか?」


「女性に年齢を聞くとはなってないなぁ。言うわけないだろ。20歳だよ」


「言うんですね」


 これが大人の余裕というわけか。それにしても若く見える。高校生と言われても信じないことはない。


「あの、あだ名ぐらい欲しいです。なんて呼べばいいのか……」


「確かに不便だな。じゃあヒバリって呼んでくれ。ちょうどそこを飛んでる鳥がヒバリな」


「分かりました。ヒバリさんの悩みとかあれば聞きますよ。お礼です」


 別に、恩を作っていい関係になりたいわけじゃないんだからねっ!


「まぁ、待て、早まるな。君の助言すら終わってないから。と言ってもやることは決まってるわけだが。まず1、母親を後悔ないように見送れ。そして2、父親を力一杯殴れ。最後に3、己を生きろ」


 コツンっと俺の胸に小さい拳がぶつかる。彼女のいう通り、俺のしなければいけないことはそんなところ。


「私の悩みも聞いてくれると言うなら話そうか。少し重たいぞ?」


「いいですよ。俺も結構ヘビーだったんで」


「そうか。私はな……正直、この世界から消えたいと思ったことが何度か……結構……割とずっとそんな感じかも」


 そう言って、彼女は子供のように足をぷらぷらとさせる。死にたいや消えたいなんて、思ったことなかった。ヒバリさんの印象が幼なげな少女に変わる。


「どうしてですか?」


「自分で言うのもなんだがね、結構モテるんだよ。これ、ノーメイクだから」


「嘘でしょっ!? いや、ナチュラルですけど」


 もう一度彼女の方を見るが、やはりノーメイクで出していい顔面偏差値じゃない。そこらの女優でも稀なレベルじゃないか。


 驚く俺をよそに、彼女は理由を続ける。


「皆に見られて、おかしくなったんだろうな。怖いんだよ。自分を見られるのが、凄く」


「大学は……どうしてるんですか?」


「……行ってるけど、誰とも話してないな。どうだ? 少しは私でもか弱く見えるか?」


「どうでしょう。俺は…………人を助けられる人間を弱いとは思えません」


 そう言うと、「そうか、そうか」と声笑いながら頷く。


「そうだ、君も人助けしてみたらどうだ? やって悪いことじゃないしな」


 ベンチから立ち上がると、彼女は身を翻して俺を見る。


「例えばここで私が困ってるとする。そうだな…………生きるのしんどいな〜、消えちゃいたいよぉ〜……ほら、助けてみて」


「重い、重い、重い。人助けってそれもうカウンセリングレベルじゃないですか。もっと簡単なやつからにしてくださいよ」


 初手に生きる希望を与えるとこから始めるなんて俺にできるわけない。と言うか、誰にできるんだって話。


「ははっ、私の悩みは聞くけど助けてはくれないんだな」


「俺に出来ることなんてないでしょ」


「それもそうだ」


 真っ向から言われて心がズキリと痛む。そんな直球に言わなくても……。


「じゃあ……みっ、水をくれ……誰っ……かっ……水、水を……」


「すいません、水持ってないです」


「違うよ、ナンセンスだよ。持ってるふりをして、『はいどうぞ』って言うんだよ。実際ここには砂漠で迷って水を欲しがっている火星人なんていないからね」


「そんな設定だったんですか……」


 火星人て。人助けどこ行った。なかなかユーモアのある……言い換えれば頭のネジが無いヒバリさん。この破天荒なところは狐仮面の麻耶先輩に似ているところがある。


「さて、君が笑顔になったことだし、私はこれにてお役御免とさせてもらうよ」


「あのっ……連絡先だけでも……交換しませんか? 俺、とても助けられましたし……ほら、ヒバリさんの相談にも乗れるかもですし」


 正直、ヒバリさんの相談とかどうでもいい。俺は今日、この人に助けられた。命も、心も。だから、また会いたい。そんな気持ちが芽生えていただけ。もうこの人と会えないなんて嫌だった。


「安心しな、少年。私たちはまた会える。次会う時までにはその弱っちぃツラ治しときな。あばよっ!」


 コツコツと低い足音を鳴らしながら去ってゆく彼女。あの人が誰なのか。もう一度会うことはできるのか。


 日曜日の昼下がり、影は己の背よりまだ短い。




 初めまして、赤目です。まずは読んでくださりありがとうございます。今日まで(ほぼ)毎日投稿してきましたが、一旦ここで投稿ペース落ちます。すいません。三日に一回ぐらいになると思います。


 良ければレビュー、フォローもらえると嬉しいですっ! 因んで、次回は優先輩(ヤンキー先輩)との直接対決!?

 

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