7話 ボーイッシュこそ至高

 ヤンキーゆう先輩の家に行った翌日、今日も今日とて部室に入る。初めて入った日からたった2日しか立っていないのに、賑やかさは格段に変わった。


 そして、その賑やかさに拍車をかけている人物が1人。


「あっ! 君がそうくんか」


 ひひっと白い歯を見せて笑う女性。ベリーショートの髪型にキリッとしたまつ毛、スカートじゃなければ男性と見間違えるほどだ。


 少し背は高いが、ボディラインは華奢。握手を求めてくるので、快く返す。


「僕は烏真からすま あおい。好きな食べ物はスイーツ、嫌いな食べ物は辛い系、どうぞよろしく」


「俺の好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物はゴーヤ。どうぞよろしくお願いします」


 ボーイッシュ僕っ子、葵先輩。この人とは仲良くできそうだ。クセがなくて絡みやすい。どこかのヤンキーとは大違い。


「よし、今日は麻耶まやゆう以外はいるからな。親睦を深めるためにもグループを入れ替えて互いのことを知ろう」


 特に決まった活動が無いヤリ部だが、そういったイベントは存在するらしい。結衣ゆい先輩の命令のもと、仲を深めるグループが決まった。


 俺の組は結衣先輩と、まだ話したことのないすみれ先輩。そして僕っ子、葵先輩となった。


「初めまして、奏っていいます。よろしくお願いします」


「うん、よろしく。私はすみれ、劣化版お姉ちゃんだと思って」


「劣化版お姉ちゃんって…………」


 苦笑しながら彼女の姿を瞳に写す。ショート程の長さの髪は小さく後ろで括られている。小柄な体なのに、どこか迫力があるように思えた。


 俺とすみれ先輩の自己紹介がひと段落すると、結衣先輩が話し始めた。


「そうだな、まずは趣味でも話そうか。私の趣味は読書とサーフィン。どちらかと言えばインドア派だ。肌を焼くのがあまり好きじゃなくてね。それでもサーフィンは風と波が気持ちいいから夏はよく行くよ」


 カッコいい。そして結衣先輩の水着はものすごく見てみたい。なぜかって? そこにメロンが二つもあるからだ。


「いいですね。すごく似合ってます」


「そうか? そう言う奏くんはどんな趣味があるんだ?」


「俺はお菓子作りとかですかね。料理も割と得意な方だと思います」


 言い切ると「意外だー」とすみれ先輩が驚いてくれる。そう、俺はギャップ萌えの男なのだ。


「いいじゃないか。近頃は料理できる男子はモテるからな。葵は出来ないだろ?」


「僕は食べる専門ですよ。カップラーメンが限界です。僕の趣味は……特にないです」


 ちょっと何か言おうか口を開いて、辞めた。その行動に口を挟んだのはすみれ先輩。


「いやいや、葵はあるでしょ。ヘビーで蛇なやつ」


「あれはほら……女の子向けじゃないって言うか……引かれるもん」


「なによ、前は男子でこれが嫌いな子はいないんだーって言ってたのに」


 2人のやりとりに葵先輩は2年生なのかなーとあたりをつける。先ほど結衣先輩には敬語だったし。それにしてもヘビーで蛇な趣味はものすごく気になる。


「どんな趣味なんですか?」


「うーん……まぁ奏くんならいいか。僕、爬虫類飼ってるんだ。蛇とかコウモリとかトカゲとか。コウモリは哺乳類だけど」


「これまた意外ですね。カッコいいですけど」


「野生のコウモリは捕まえちゃダメだからな。犯罪になる」


 結衣先輩の豆知識と忠告を聞きながら、今度はすみれさんに視線を向ける。


「私ねー、趣味って言える趣味あったかな? 動画はよく見るけど。茜ちゃんはだいぶ前から知ってたし。あと……音楽もたまに聞くぐらい? 最後私だとオチつかないじゃん!」


「ふっ……そうカッカするな、サーフィン、料理、爬虫類と来てオチをつけれる趣味はそうない」


 結衣先輩の言う通りだ。むしろ普通でありがたいみたいなところある。話に読点がついたので、俺からも知りたいことを質問してみる。


「みなさんって、この部活で初めて会ったんですか?」


 どことどこが仲良しなのかイマイチ掴めていない。さっきのやりとりを見た感じ、すみれ先輩と葵先輩は竹馬の友に思える。


「私とお姉ちゃんは葵と中学一緒だよね」


「うん。つばきさんは高校で初めて会ったけどね」


 やはり俺の目に狂いは無かったらしい。


「私はつばきと小学校からの仲だがな」


「なんかマウント取られたんですけど」


「私は生まれた時からの仲ですけどねっ!」


「ははっ……それは敵わんな」


 まだ彼女と話して一日目の俺に参加権はないほどのアピール合戦。つばき先輩は愛されキャラらしい。この部活の潤滑油と言っても過言じゃないのだろう。


「私とすみれも早い段階で知り合ってるかな。すみれが覚えてるかは知らんが」


「えっ、そうなんですか? すいません……お姉ちゃん友達多くて……」


「気にしなくていい。家に行ったのも片手で数えられるぐらいだからな」


 そう思うと割と2、3年は仲良しが集まってるんだろうか。孤独を生きるヤンキーの優先輩や、お色気満点の莉里先輩は置いといて。


 その後も高校生らしい話をしながら部活を終えた。今日は麻耶先輩が休みなので、咲希さんと2人で帰るのかな。なんて考えていると解散となった。


「ねえ、奏くん」


「どうしたんですか?」


 中性的な声に振り返ると、葵先輩がニコニコと笑っている。


「今から一緒にカフェにでも行かない?」


「「えっ!?」」


 俺と咲希さんの驚きの声が重なる。もしかしたら咲希さんも一緒に帰ることを楽しみにしてくれていたのかも。


「ダメかな?」


「いえいえ、いいんですけど……」


「積もる話もあるでしょ?」


「あります?」


 俺の反応に葵先輩はクスクスと笑う。出会って三時間程度で何が積もるのか。


「いいじゃん、いいじゃん。奢っちゃうよ?」


「ぜひ行きましょう」


 なんか色々、積もってきた気がする。


「あのっ…………私も行っていいですか?」


「……うん、いいよ。行こっ」


 俺と葵先輩と咲希さん。三つ巴の修羅場が開幕する!

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