5話 ヤンキーは一周回って可愛い

「新入りさんも含めてみんな仲良くしようね」


 その後、彼女は俺の後ろでまだ怯えるコイツを優しく見つめる。遠回しに謝れと言っているのだ。俺はトントンと背中を押してやる。


「その……ごめんなさい。調子に乗っちゃいました。私は鳶崎とびざき あかねです。この部活に入れてもらえると嬉しいです」


「俺からも、お願いします」


 彼女に続いて軽く頭を下げる。


「ワタシからもー!」


 クラスメイトであるアイラも加わって結衣先輩の答えを待つ形になる。


「あーもう……分かってる、分かってる。私もちょっと言いすぎた。申し訳ない。入部に関しちゃ、この部室に入った時点で決定してるから好きにしろ」


 ヘアゴムを外して、髪と共にひるがえる。後頭部を掻く姿は少し男らしくて、カッコいい。


「えーっと、みんな初めましてだし、私も自己紹介していいかな? 私は鴨川かもがわ つばき。そこでゲームやってる子が私の妹ですみれっていうからよろしくね」


 姉妹もいたりするんだ……。ゲームやるほどに仲良いとか羨ましい。別に兄弟いないんだけど。


 昨日部室にいた人の名前が全員わかったので、俺のヒロイン候補を頭の中で整理する。


 3年生は、部長であり丸メガネで巨乳の結衣先輩。狐の仮面を被った自称美少女こと麻耶先輩。姉妹ってことを考えると、ポワポワ少女のつばき先輩、ってとこだろう。


 2年生は、我らが花魁こと莉里先輩に、ポワポワ妹のすみれ先輩。


 1年生は、有名配信者のアレに、美人ハーフのアイラ。最後は控えめガールの咲希さん。


 計8人……2日で俺の交友関係広がりすぎだろ。一発で覚えれる人いるのかな……。


「これで全員なの?」


 有名配信者のアレが部室を見渡してつばき先輩に聞く。


「先輩には敬語使えとか言いながら、お前は使わないのな」


「うるっさいわねー。骨にするわよ」


「俺にあたり強すぎだから」


 俺たちが睨み合うのを抑えながら、つばき先輩は質問に答える。


「本当は後2人いるよ……まあ、そのうち片方は一回しか来たことないんだけど」


 実質1人ってことですね。名前覚えなくていいんでありがたいです。


「そう言えば、今日火曜やから誰か行かなあかんねぇ。ウチは先々週行ったからパスや」


「私もパス」


 莉里先輩のパスを結衣先輩がダイレクトでパスする。勝手にサッカー始まってる?


「じゃあ私行くよ。奏くんと咲希ちゃんも着いてきてね」


 何も分からないがつばき先輩がパスを受け取ったらしい。俺と咲希さんもついていくのか。ルールを教えて欲しい。俺はなにしたらいいの?


「えっ? そのっ、あの…………どこに行くんですか?」


 ルールがわからない俺の代わりに咲希さんが質問してくれる。


「毎週火曜日は不登校のヤンキーの家に誰かが犠牲になりにいくんよ。嫌やわぁ。気をつけなぁ」


 怖いもの知らずそうな莉里先輩の説明に咲希さんはゾッと肩を振るわせる。


「ヤンキーってバイク乗る人だよネ? 怖いヨ」


「馬鹿じゃない? 不登校なんだから所詮髪染めてるぐらいよ」


 1年組が各々の予想を膨らませながら、俺と咲希さんはつばき先輩に連れられていく。ヤンキー先輩の家に寄った後はそのまま解散になるらしい。


 わざわざ駅まで乗り継いで行くのだとかで、学校から4駅を跨いで降りる。


「君たち2人を連れてきたのは理由があるんだけどわかる?」


 俺たちの少し先を歩きながら話題を振ってくる。この人、コミュ力高いな。どんな人たちの中にいても輪に入れるタイプだ。


「わからないです」


「私も…………分からない、です」


「他の1年生と違って君たち2人はヤリ部に入った理由がわかんなかったんだよねー」


 つばき先輩は空を仰ぐ。俺はともかくとして、確かに咲希さんはどう考えたってヤリ部でそういった行為求めるタイプじゃない。


「咲希ちゃんはどうして?」


「私は…………ごめん、なさい。言いたくなくて……」


「そっか。私も聞いちゃってごめんね。奏くんも性行為したいって感じじゃないでしょ?」


 咲希さんの答えに不穏な空気を感じたのかすぐさまターゲットが俺に変わる。


「俺は……そういった下心がないわけじゃないですけど、あまり家にいたくなかったんです。DVとかされてるわけじゃなくて、ちょっと寂しいじゃないですか」


「わかるー、賑やかな家庭だとね。みんなで喋りながら帰って、お別れした後に来る孤独感みたいなのない?」


「あります、あります! あの孤独感どこからくるんでしょうね」


 そのあとは暗い空気も無くなって、たまに咲希さんがクスリと笑うぐらいには暖かい雰囲気になった。


 そうして目的地に着くと、つばき先輩はインターホンを押す。家は少し大きめの一軒家。見惚れていると、スウェットを着た金髪ロングの女性が出てきた。


「チッ……毎週、毎週、いい加減にしろや」


 どうやら俺たちは虎の尻尾を踏んでしまったらしい。

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