4話 女性配信者ってエロくない?
ヤリ部入部2日目。授業が終わり、廊下を歩いていると、部室の前に1人の女性がいることに気づく。
「はいはーい! 今回の企画はですねー! 『高校の闇!? ヤリ部に突入してみたー』ってことでね………なんか違うな……」
全部違うだろ。何やってんだこの人。
「んんっ、はいはーい! 実は私、見つけちゃったんですよ。私の通ってる高校、[ヤリ部]があるんです。と言うことで! 今回の企画は、ヤリ部突入してみたー! 早速行ってみようと思います!」
一度カメラを止めるとうんうんと頷く。茶髪のツインテールに黒マスク。ヘアピンは頭が悪そうなクマやらウサギやら。以下にもな感じ。
「あの……何してるの?」
「げっ!? アンタ誰よ!」
「俺のセリフ、俺のセリフ」
いかにもツンデレらしい言葉を吐きながら俺を指差す。俺のツンデレーダーがビンビン反応してるもん。
「もしかしてアンタってヤリ部の一員? 笑わせないで。アンタとヤるとか罰ゲームじゃない」
別に何も笑わせてないんだけど。彼女はケラケラと嘲笑いながら腹を抱える。そんな彼女に頭を抱える。
「そもそもヤリ部だけどヤるわけじゃないから。あとそこどいて、邪魔」
「ちょっと待ってよ! ヤらないの? じゃあ、取れ高はどうなるのよ?」
「知らんけど。そんなもんない」
「嘘でしょ……入部して新しいシリーズ始めようって思ってたのに……もう今月ネタ無いよ……」
脱げばいいだろ。嘘、ごめん、言い過ぎた。俺は泣き崩れる彼女を横目に部室のドアを開け、部屋に入った。
「こんちわー」
「ハロー! やっと来たヨ」
数メートルの距離なのにブンブンとアイラが手を振りながら挨拶してくる。
「なんの話してたんですか?」
昨日と同じ席に自分のカバンを置きながら、ネクタイを緩める。
「普段何してるか話し合ってたんよぉ」
「ワタシは日本のアニメ見るヨ。スゴく面白いネー」
「私はあんまり見ないけど……。動画はたまに見るかな。この子とか知ってる? 最近勢いある子なんだけど……」
「ウチもたまにオススメに流れてくるわぁ」
「カワイイー!」
チャンネル登録者数は10万人。この数ヶ月で異様な伸びを見せているらしい。あの人実は有名人だったのか……。
「ウチ、お花摘み行ってくるわぁ」
髪の毛を耳にかけながら莉里先輩が立ち上がる。今、外に出るのはまずくないか? まだアイツが部室の前にいるかもしれん。
ヤリ部のスタメンこと莉里先輩が出ていってしまったらあの配信者が取れ高とか言い出しかねない。
「ちょっと待ってください……俺も行きます」
「あのなぁ、お花摘みって別にお花を摘みに行くわけじゃないんよ?」
「知ってますよ! なんか嫌な予感するんですって!」
「やから、ついてきてくれんの? 奏くんって優しいわぁ」
莉里先輩は有無を言わさず俺の腕を引いて歩いて行く。違う、ちょっと待って、何も解決してない。
「待ってください! 違うんです!」
俺の要領を得ない反抗も虚しく、莉里先輩がドアを開ける。
「もうウチ我慢できへんのよ」
間の悪い言葉を聞いたのは俺と、まだ部室の前で立ち尽くしていたであろう彼女。
「えええっ!?」
「最っ悪だ……」
俺は「はぁ……」とため息も隠さない。
「アンタ、嘘ついたわね! ばっちこいよ!」
「意味わかんねぇよ」
「この子、配信者の子? こんな偶然あるんやねぇ」
莉里先輩は体をモジモジと悶えさせながら彼女の顔を見つめる。
「ヤるんじゃない! 取れ高確定演出ね。私、先輩のこと知ってますよ。我らが花魁ですよね」
「知ってくれとるん? 嬉しいわぁ、仲良くしよな」
ここにきて二つ名の伏線回収とかいらないんだけど……。それどころじゃない、本当に嫌な予感がする。
「顔隠すんで撮影させてもらってもいいですか? 恩は必ず返しますからどうか……」
「何を撮影する気だ!」
「もちろんアレよ」
左手で輪っかを作り、右手の人差し指を出し入れする。おい、分かる人には分かるやつやめろ。
「ハメ撮りやねぇ」
「やりませんよ!? ってか早くトイレ行ってください!」
莉里先輩の答え合わせを辞めさせ、トイレに向かわせる。
「で? アンタ誰?」
「俺は鳥山
「私は
フンッとツインテールを震わせる。この人に敬語使うのなんか嫌だなぁ……。
「分かり……分か、分かりました……。入る……ます?」
「そんなに敬語使いたくない? まっ、せいぜい楽しませてよ。入るわ」
茜先輩のあとに渋々ついて行く。結局こうなるのかよ。部室に入るとアイラが真っ先に声を上げる。
「あっ! アカネだ! アカネもこの部活入るの?」
「げっ!? なんでアンタがいるのよ」
アイラは茜先輩の言葉に耳を貸さず、飛びつく。どういった関係性なのか。
「アカネは同じクラスなの。休み時間は1人でネタ帳? を書いてたから仲良くしてる!」
俺の疑問にすぐ答えてくれる……が、同じクラス? おい、3年って嘘かよ。
「ちょっと、いらないこと言わないでよ」
「いやいや、ありがとうアイラ。コイツがどんなやつかよーく分かったよ」
「アンタね、先輩に向かってその態度って……」
「お前、1年だろ!」
俺のツッコミにアイラと麻耶先輩が小さく笑う。が、和気藹々とした空気が一瞬で覆った。
「どうして皆んなは君を歓迎してるんだ? 急に入ってくる、挨拶はしない、入部したいかどうかも分からない。端的に言おう。私は君という人間が好かん」
冷たい言葉を放つのは部長である
ここに連れてきたのは一応俺だ。恩を着せるって意味でもカバーしようと結衣先輩の前に立った。しかし、俺が入るより先に声が割り込む。
「まぁ、まぁ、そんなカリカリしないの。茜ちゃんも謝ったら結衣ちゃんは許してくれるし、悪い人じゃないから怖がらんといたって」
フワフワとした優しい声。ポワポワした空気感にふさふさの明るい髪の毛。これぞ大学生! みたいな女性がニコッとみんなに向けて笑う。
昨日はずっとゲームをしていた人だ。髪色は校則ギリギリまで染められていて、インナーは少し赤い。いかにもオシャレさんって感じです。
「新入りさんも含めてみんな仲良くしようね」
後ろにハートがつきそうなほど幸せオーラを漂わせる。
まだまだ俺のヒロインレースは始まったばかり。
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