2話 ハーフの子はみんな可愛い

「ハイ! ワタシ、この部活に入りたいヨ!」


「あっ…………心の準備が……」


 前に立つのは少し銀色の入った黒髪パーマの少女。その後ろには猫背でボブの女の子。おそらく同じ一年生達だろう。ヤリ部に入りたい女子とか頭は正常に動いているのだろうか。


「見学初日やからよう来るねぇ。こっちおいで」


 我らが花魁こと莉里りり先輩が明るそうな子の手を取ってこのグループに入れる。どうやら過度なスキンシップは男子のみらしい。


「ワタシ、アイラっていいますっ! よろしくネ!」


「私は麻耶まや。よろしくね」


 狐のお面を被った自称美少女が挨拶をかわす。俺もこの流れでしてしまおう。


「初めまして。俺はそう、よろしく」


「よろしくネー、ソウは同い年カナ?」


「うん、同じ一年」


「イェーイ!」


 同い年ってだけでアイラはハイタッチを求めてくる。俺もハイテンションで彼女と手を合わせた。


 身長も高く、俺のちょっと下ぐらい。顔立ちはびっくりするぐらい整っていて、高い鼻だちはどこかの国のセレブみたい。


「アイラちゃんはどこの子?」


「ワタシはイギリスと日本人のハーフですっ! ずっとイギリスに住んでて、一年前にコッチに引っ越してきました!」


「日本語すっごく上手いよ」


 トントンとロッカーを叩いて麻耶先輩はアイラを隣に座らせる。見ててホッコリする。振り返るといまだに猫背の女の子は扉の前でモジモジしていた。


「……とりあえず入ったら?」


 話しかけるとコクリと頷く。が、何も言わずに黙ったまま。対応に困っていると後ろから足音が聞こえてくる。


「ありがとう、奏くん。気が合いそうだから私が世話するよ」


 そう後ろから声をかけてきたのは、この部活の部長らしい結衣ゆい先輩。立ち姿は初めてみたが、やっぱり胸に視線が吸い込まれる。


「そうですか……」


 こういう感じの子結構好きなんだけどな……。なんて思いながら元の席に戻る。いや、断じて、断じて繋がりたいなんて思ってる。うん、思ってる。と、自分に素直になりながらアイラたちの話に耳を傾ける。


「ウチはピュアな子が好きやなぁ。奏くんとか大好きや」


「スゴイ! ソウ、モテてるヨ!」


「分かった、分かった」


 完全に揶揄からかってるだけの莉里先輩と、アヒャヒャーなんて明るく笑うアイラ。恋バナでもしてるのだろう。


「奏くんの恋バナも聞きたいわぁ、教えてくれへん?」


「会って1日目で恋バナってマジっすか」


「その通りだよ。あんまり馴れ馴れしくしちゃダメなんだから」


 麻耶先輩が止めてくれる。このグループじゃ唯一の真面目枠なんじゃないだろうか。狐の仮面は置いといて。


「ワタシは背が高い人がカッコいいと思うヨ。ソウはあんまり高くないカナ」


「うっ……」


 確かに俺は人権ないよ。あと5センチぐらいあればもうちょっとはモテたのかもしれない。


「いいやん、背は低い方が可愛いわぁ」


「それはちょっと分かるなー。だから奏くん、諦めちゃダメだよ!」


 あっ、誰も低いことは否定してくれないのね。まあ数値として出てるのを否定するってのもバカな話だが。


「摩耶先輩はどんな人がタイプなんですか?」


「あれれー? さっき初日で恋バナはおかしいみたいなこと言ってなかったー?」


 僅かに見える瞳がニヤリと笑う。ほら、やっぱり気になるじゃん。参考にもなるし……。


「そうですけど……」


「興味があるなら答えてあげよう。私はそうだねー。大人しくて地味な子が好きかな」


「以外やねぇ。狼とか好きそうやけど」


「どうして人外!?」


 狐と同じイヌ科なのがちょっと面白い。小さく笑うと彼女はまた頬を膨らませる。


「ソウはどんな女の子がタイプなの?」


 次のターゲットは俺らしい。自分だけ答えないのも嫌なやつだしな。躊躇うことなく答える。


「俺は……人間らしい人、ですかね」


「私への脈なしアピールかな?」


「違います、違います」


 慌てて訂正するとまたコロコロと笑う。麻耶先輩は狐のイメージが強過ぎて、人間らしいとは言い難いけど。俺が人間らしいと思う人、それは……


「自分の都合が悪ければ嘘も吐くけど、困ってる人がいたら助けたいなって思ったり、大切な人が泣いてたら悲しくなったり、笑ってたら一緒に幸せだなって感じたりする。そんな、人間らしい人が好きです」


 俺が説明しきると、少しの間沈黙が生まれた。何かやらかしたかもしれない。最初に口を開いたのは莉里先輩だった。


「ほんまにピュアやねぇ。今日、ウチ来る?」


「ストーップ! ダメだよ、奏くん。莉里ちゃんに人間らしさは微塵もないからね」


「それ先輩が言いますか……」


 笑い合っているとパタンと本を閉じる音がした。


「よーし、とりあえず見学しに来てくれた子がいるからこの部活の説明をしようと思う。聞いてくれ」


 立ち上がったのは結衣先輩。メガネの位置を調整し、淡々と話出す。


「まずこの部活だが、別にヤる部活ではない。ヤリたいやつは好きにしろ。知らない」


 初っ端からめちゃくちゃだ。吹奏楽部ぐらい詐欺だぞ、あれ運動部だし。因みに卓球部は文化部。


「次に活動内容だが、好きにしろ。それも知らない」


 何も知らないじゃん。堂々とかっこよく言ってるから様になってるが、結衣先輩じゃないと成り立たない。


「最後に活動日だが、平日は毎日この教室を開けておく。来たいやつは勝手に集合。休む報告とかは別にしなくていい」


 それはでかい。完全に自由なのは嬉しい。休みたい時に休めるし、やりたい時にやれる。性欲のほうじゃなくて。


「じゃあ、もうそろそろ解散時間だ! 好きに帰れ!」


 なんでも好きにできるじゃん。これが学校公認じゃないメリットか。明日も来るかどうか悩んでいると、肩がポンポンと叩かれる。振り返ると麻耶先輩だった。


「奏くんは電車登校?」


「はい、地下鉄ですけど」


 すると、麻耶先輩は首を傾げて、隠れた小さな頬にえくぼを作る。



「じゃ、一緒に帰ろっか」


「ぬぇっ!?」

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