ヤリ部に入部したら男女比1:10のハーレムでした

赤目

1話 距離が近い女子っていいよね

「頼もう! 俺を入部させてくれ!」


 バコンッ! っと音を立てながら俺は[ヤリ部]と書かれた部室のドアを開ける。高校一年生とはいえ舐められるわけにはいかない。


 まあ、ヤリ部なのだから俺の息子は舐められる可能性があるわけだが……。


 なんてふざけながら部室の中を見渡す。目の前には会議机で本を読む女性が1人。その左側でゲームをする女性が2人。ロッカーに座る狐のお面をかけた女性が1人。そして……


「へぇー、新入部員ねぇ。いいやん、いいやん。この子、貰っていい?」


 どこからともなく現れ、俺の肩に腕を回す女性が1人。


「ちょっ!? 何処から来たんですか!」


 白く細い腕を潜り抜けて3歩下がる。長い黒髪に第二ボタンまで開いた胸元、花の香水に腰に巻かれたカーディガン。なんかもう……エッッっちぃ。


「あんまり驚かんといてぇな。ウチは2年の雀野すずめの 莉里りり、よろしゅう頼むわぁ」


 髪の毛を耳にかけながら左手で俺の手を握る。凄く柔らかい。いやいや、待て待て。スキンシップが激しい。距離が近い。最高。


「俺は鳥山とりやま そうです。よろしくお願いします」


 テンパってるのを隠しながら自己紹介をすると、雀野さんは俺の手を引いて読書をしている人に話しかけた。


「ねぇ結衣ゆい先輩、この子ウチらのグループ入れていいですか?」


「ああ、お好きに。私は3年のうぐいす 結衣、何かあったら何でも聞いてくれ」


 鶯さんは本から視線を離さずに冷たい声でそう言う。この人……デカいな。何がと聞かれれば、まあ、カップが。んで丸メガネが超似合う。


「あの……雀野先輩、」


 グループってなんですか? と聞こうとした瞬間、唇を抑えられる。だからこの人、近い、近い。DTの俺には刺激が強すぎる。


「ここの部活では全員下呼びってルールやから、申し訳ないけど莉里って呼んでなぁ」


 そっと指が離れる。敬称は流石に自由か……なら難しいことじゃない。


「莉里先輩、グループってなんですか?」


「そうやねぇ、この部活、人多いから部活の中でも仲良しが存在するんよ。最終的には好きなとこ入ればやけど、最初やと困るんとちゃう? てことで、ウチらが面倒見たるよ」


 クルンッと身を翻してコツコツと足音を鳴らす。確かにそこでゲームをしている2人組や、本を読んでいる結衣先輩とは空気感が違う。


「あのっ、男性が見当たらないんですが、男の人っているんですかね?」


 ヤリ部とか二つの意味でイッてる部活なのだから男性が大半だと思ったのだけど、見渡す限り全員がスカート。男が1人いるだけで気が楽なのだが。


「去年入ってくれた男の子はウチに喰われたからねぇー。今は1人だけやね」


 えっ? 喰われた? 喰われたって何?


 彼女の言葉に背すじが凍る。沈黙を破るように「冗談、冗談」と莉里先輩が笑う。結局俺1人なことに変わりはないのか。これは俗に言うハーレムと言うやつでは?


「好きに座ってくれていいよ」


 莉里先輩はそう言って椅子を差し出してくれる。結構いい人だ。俺がその椅子に座るとさも当たり前かのように隣に座ってくる。


「あの、近くないですか?」


「ダメやった?」


「いえいえ、大丈夫ですけど……」


 この人、みんなにそのノリなのだろうか。


「莉里ちゃんやめたって、奏くんだったよね? ほら、こっちに座り」


 声をかけてきたのは狐の仮面をつけた人。ロッカーに座りながら隣をトントンと叩いて勧めてくる。いや、女性との距離感は変わってないんですが……。


 セミロングほどの髪の長さで、口元だけ見えるタイプの仮面。少しスレンダーな体つきは全ての男を魅了するほど。


「あの……どちら様ですか?」


「私は雲雀ひばり 麻耶まや。高校3年生のだよ。奏くんもかわいいと思うでしょ?」


「仮面つけてるんでなんとも言えないっす」


「ははっ」


 麻耶先輩はコロコロと鈴の音のような声で笑う。多分巫女さんとかめっちゃ似合う。


 結衣先輩に莉里先輩に麻耶先輩。名前もだが、キャラが強すぎて既にキャパオーバーなんですが。


「でも、麻耶先輩は二つ名があってぇ……」


「ちょっと言わんといてよ! 知ってるの莉里ちゃんだけなのに」


 麻耶先輩が頬を膨らませる。膨らんでるかはわからないんだけど。


 というか二つ名って凄いな。この学校ではちょっとした有名人に、ダッサい渾名あだなが付くのだ。例えば、今の生徒会長は双璧そうへき右翼うよくと呼ばれてる。ほらね、ダサい。


「麻耶先輩も二つ名あるんですか?」


「麻耶先輩は置いとくよ。ウチにもあるし、二つ名」


 確かに莉里先輩は待ってそうだよな。童貞キラーみたいなの。


「どんなのなんですか?」


「我らの花魁おいらんって言われとったなぁ」


「ブッッ」


 ニアピンすぎて吹き出してしまう。我らの花魁はギャグセンスが高すぎる。失笑するに俺に、麻耶先輩は申し訳なさそうに口を開く。


「あの……奏くん、ごめんね、言いにくいんだけど……このヤリ部って学校から認められてないの。だから面接とか自己PRに書けないけど大丈夫?」


「面接で『高校生の頃はヤリ部に入ってました』とか言いませんって。大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 小さく笑いながら答えると、「それもそうか」なんて、またコロコロと笑う。


「それにぃ、この部活ってセックスやるわけじゃないんよ」


「えっ!?」


 ちょっと待った。それは話が変わってくる。迷惑とかじゃないのだけど、夢が壊れる。


「ウチらの中で経験者って実はめちゃくちゃ少ないよ」


 嘘……だろ……。まさか入部1日まで部活に入った理由の半分を失うとは。俺の童貞卒業はもう少し先なのか……。


「じゃあ普段は何をしてるんですか?」


「喋ってるだけやねぇ」


「ヤリ部のヤの字もないじゃないですか」


 そもそもヤリ部がおかしいんだけどね。その他もろもろを聞こうとした時だった。


コンコン––––


 俺の視界は扉に吸い寄せられる。開けられた扉の向こうには……


「ハイ! ワタシ、この部活に入りたいヨ!」


「あっ…………心の準備が……」


 女性が2人、教室にまた増えた。俺のハーレムはまだまだ始まったばかりらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る