第27話 過去の秘密

俺たちは、急なトラブルをなんとか乗り越え、無事に次のライブに間に合わせることができた。凛の助けがなければ、今日のステージは中止になっていただろう。会場の準備が整い、開演までまだ少し時間がある。その間、ハルヒと他のメンバーは各自リハーサルの準備を進めていたが、俺はふと、助けてくれた凛が気になり、彼女がいる控え室に向かうことにした。


控え室に入ると、凛は窓の外を見つめながら、何かを考え込んでいるようだった。表情は穏やかだが、その眼差しにはどこか物思いにふける様子が感じられた。


「よぉ、凛さん。さっきは本当に助かったよ。あんたがいなかったら、どうなってたことか。」

俺が声をかけると、凛は驚いたように振り向き、少し微笑んだ。


「いえ、そんな…当然のことをしただけです。それに、ステージに立つ皆さんを見ていると、私も少しでもお役に立ちたいと思いましたから。」


「それにしても、あんたの対応力には驚いたよ。あんなトラブル、普通ならパニックになりそうなもんだ。」

俺は、凛がまるで長年ライブに携わってきたような冷静さを見せたことに感心しつつ、彼女に座るよう促した。


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「昔、アイドルを目指していたって言ってたよな?それがどうして今はスタッフの仕事を?」

俺は軽く尋ねたつもりだったが、凛の表情が少し曇った。


「そうですね…あまり話すつもりはなかったんですけど…」

彼女は少しの間黙り込み、ふと窓の外に視線を戻した。


「私は、かつて本気でアイドルを目指していました。小さい頃からずっと憧れていて、自分の夢だと思ってたんです。でも…現実はそんなに甘くなかった。厳しいトレーニング、メンタルの消耗、そして…挫折。」


彼女の声には、どこか遠くを見つめるような寂しさが含まれていた。俺は彼女の気持ちに寄り添うように、黙って耳を傾けた。


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「オーディションに何度も落ちて、ようやくチャンスを掴んだと思ったら、周りの期待に応えられなくて。気づけば、自分が本当にやりたいことがわからなくなっていて、ステージに立つことが怖くなってしまったんです。」


彼女は静かに言葉を続けたが、その声には苦しさが滲んでいた。


「それで、私はステージを降りて、今度は裏方としてアイドルをサポートする側に回ることにしたんです。もう、自分が表舞台に立つことはないだろうって思ってました。でも…今日、皆さんがステージに立つ姿を見ていると、少しだけ…あの頃の自分を思い出してしまいました。」


凛の言葉を聞きながら、俺は彼女が背負ってきた挫折の重さを感じていた。彼女は夢に向かって走り続けたが、その夢が自分を押しつぶす形になってしまったのだ。


「それでも、今の仕事にはやりがいを感じているんです。ステージを支えるのも、また別の意味で素晴らしいことですから。」

そう言って彼女は笑顔を見せたが、その笑顔にはどこか切なさが残っていた。


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俺は、ふと横にいるハルヒのことを思い出した。あいつも常に全力で夢に向かって突っ走っている。今は勢いに乗っているが、もしも挫折に直面したらどうなるのだろうか。そう考えると、凛の話がより一層心に響いた。


「なぁ、凛。お前、今の自分に満足してるか?」

俺は率直に尋ねた。


「満足…そうですね。今は表舞台に立つことがなくても、自分なりに精一杯やれていると思っています。でも…正直なところ、まだ未練が残っているかもしれません。自分の夢を叶えられなかったことへの後悔が、心のどこかに。」


彼女は少し微笑みながら答えたが、その瞳には未だに消えない炎のようなものが宿っているように見えた。


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そのとき、ハルヒが勢いよく控え室に入ってきた。


「キョン!次のリハーサルが始まるわよ!それに凛、あなたも来なさい!もっと私たちを手伝ってもらうわ!」

いつものハルヒの勢いだ。凛は少し驚いた様子だったが、すぐに表情を変えて立ち上がった。


「えっ、私もですか?でも…」


「何言ってるの!さっきあれだけ助けてくれたんだから、もっと手伝ってもらわなきゃ困るのよ!あなたは今やSOSスターズの大事な仲間なんだから!」

ハルヒは強引に凛を引っ張り、俺たちもリハーサルに向かうことになった。


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ハルヒの言葉を聞いた凛の顔には、少しだけ迷いが見えた。しかし、次の瞬間には、その迷いを吹き飛ばすように笑顔を浮かべた。


「わかりました。私もお手伝いさせていただきます。」

凛は力強く頷き、俺たちと共にステージへと向かっていった。


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控え室を出るとき、俺はふと凛の背中を見つめた。彼女の夢は一度壊れてしまったが、それでも今はまた新しい道を歩もうとしている。もしかしたら、ハルヒたちとの出会いが、彼女に再び希望を与えるかもしれない。


俺はそんな期待を胸に、次のステージに向かうための一歩を踏み出した。

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