第26話 機材トラブル発生

全国ツアー初日の成功から一夜明け、次のライブ会場へ向かうために俺たちは早朝から移動を開始した。バスの中では、ハルヒが次のステージについてのアイデアを休むことなく話し続けている。彼女の頭の中では、すでに次のライブが完璧に進行しているようだった。


「キョン、次の会場でも今度はもっとインパクトのある演出を取り入れるわよ!例えば、ステージの中央に巨大なスクリーンを設置して、映像効果を…」

ハルヒのプランは相変わらず派手で、しかも無茶だ。


「おいおい、スクリーンなんて急に用意できるわけないだろ。そんなこと言い出してどうするんだよ?」

俺が反論しても、ハルヒはまったく気にしない。


「大丈夫よ、なんとかなるわ。そうでしょ、古泉くん?」

ハルヒはいつものように古泉に同意を求める。古泉はいつもの微笑みを浮かべて頷いた。


「もちろん、涼宮さんのプランには賛成です。何事も挑戦が大切ですからね。」

あっさりと同意を得たハルヒは、ますます自信を深めた様子で次々と新しいアイデアを出し始める。


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しかし、その余裕も長くは続かなかった。バスが次の会場に向かって進んでいる最中、突如として無線が入り、運転手が俺たちに振り返った。


「すみません、SOSスターズの皆さん、機材トラックが故障してしまったとの連絡がありました。今、現場で修理を試みているようですが、時間がかかりそうです。」


「…は?」

一瞬で場の空気が凍りついた。ハルヒもその言葉に驚き、さっきまでの勢いがぴたりと止まった。


「機材が…故障?どういうこと!?なんでこんなタイミングで!」

ハルヒは慌てて立ち上がり、無線を持った運転手に詰め寄った。


「詳細はまだわかりませんが、トラックが立ち往生していて、機材が搬入できない状態です。」


「嘘でしょ!ステージが台無しになるじゃないの!」

ハルヒは一気にパニックになり、その場をぐるぐる歩き回りながら考え込んでいた。


「落ち着け、ハルヒ。慌てたってどうにもならないだろ。」

俺が冷静に言ったが、ハルヒの焦りは収まらない。


「どうにもならないって、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!このままじゃ、次のライブが中止になっちゃうかもしれないのよ!そんなの絶対に嫌!」

ハルヒは声を荒げながら言ったが、その裏には不安と焦りが見え隠れしていた。


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俺たちは急遽、トラックが止まっている場所に向かうことにした。現場に到着すると、そこには修理を試みているスタッフたちが集まっていた。トラックのエンジンは完全にダメになっており、機材を運ぶことができない状態だった。


「これじゃ、どうしようもないわね…」

ハルヒがつぶやき、頭を抱えた瞬間、ふと近くのライブハウスの入口から一人の女性がこちらに向かってきた。


「こんにちは、何か困っているみたいですね?お手伝いできることがあれば言ってください。」

彼女は作業着を着ており、どうやら近くのライブハウスで働いているスタッフのようだ。その穏やかな声にハルヒも反応し、彼女を見上げた。


「機材トラックが故障して、ステージ機材が運べないの!ライブが中止になっちゃうかもしれないのよ!」

ハルヒが怒り混じりに説明すると、彼女は冷静に状況を見つめ、すぐに答えた。


「それなら、近くのライブハウスで代わりの機材を貸し出すことができますよ。もしよければ、そちらを使ってステージの準備を進めてはいかがですか?」

その提案に、ハルヒは目を見開いた。


「本当に!?それなら、どうにかなるかもしれない…」

ハルヒは少し落ち着きを取り戻し、その女性に感謝の意を示した。


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その後、彼女の手配で近くのライブハウスから必要な機材が借りられ、SOSスターズは次のステージに間に合わせることができた。ハルヒは「助かった!」と嬉しそうにしていたが、俺はその女性に話しかけることにした。


「ありがとう、本当に助かったよ。君、名前は?」

「私は桐谷凛です。普段はここでスタッフとして働いていますが、かつては私もアイドルを目指していたんです。」

凛はそう言って微笑んだが、その笑顔の奥に、何か深いものを感じた。


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「へぇ、アイドルを目指していたんだ。今はなぜスタッフに?」

俺が尋ねると、凛は一瞬だけ視線を落としたが、すぐに顔を上げた。


「そうですね…アイドルとして成功するのは簡単なことじゃなかったんです。いろいろなことがあって、今は裏方の仕事をしています。でも、こうやってまたステージに関われることは、今でも嬉しいです。」

彼女の言葉に、俺は何も言えなかった。アイドル業界の厳しさを垣間見た気がしたからだ。


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ハルヒたちがステージの準備を進める中、俺は凛に感謝の気持ちを伝えつつ、彼女が持つ未練を感じていた。SOSスターズと関わることで、彼女の心に何か変化が生まれるのではないか、そんな気がしてならなかった。

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