第17話 突然のアイドル宣言
いつものように、俺たちはSOS団の部室に集まっていた。特にこれといった理由もなく、ただいつも通り、だ。ハルヒは机の上に両肘をつき、頬杖をついて退屈そうに窓の外を眺めている。長門は相変わらず本に没頭し、古泉は微笑みを浮かべながら何やら書類に目を通している。朝比奈さんは、静かにお茶の準備をしてくれている。
俺はというと、特にやることもなく、机に座ってぼんやりとしていた。何か面白いことが起こるのを、待っているだけだった。
しかし、その瞬間は突然やってきた。
「ねえ、みんな、決めたわ!」
ハルヒが急に立ち上がり、大きな声でそう叫んだ。彼女の顔にはいつものように自信に満ちた笑顔が浮かんでいる。俺はその声に驚いて顔を上げ、思わずつぶやいた。
「またかよ…」
「なんだ、ハルヒ。今度は何を決めたんだ?」俺は嫌な予感を抱きつつ、聞かざるを得なかった。
ハルヒは目をキラキラ輝かせながら俺を見て、堂々と宣言した。
「アイドルよ! 私、アイドルになるの!」
その言葉に、俺は一瞬、耳を疑った。アイドル? 俺はハルヒの言った言葉の意味を理解しようと頭を働かせたが、それにしても唐突すぎる。
「……は?」
「アイドルになるって言ったの! これ以上面白いことなんてないでしょ! 世界を変えるためには、まずは自分が目立たなきゃ始まらないわ!」
ハルヒは自信満々に語り、胸を張っている。まるで、アイドルになることが世界を変えるための第一歩だと言わんばかりだ。いや、もしかすると、本気でそう思っているのかもしれない。
「待て、ちょっと待てハルヒ。お前、アイドルって簡単に言うけど、そもそもどうやってなるつもりだ?」俺はツッコミを入れずにはいられなかった。
「簡単よ! 今からオーディションを受けて、すぐにデビューするわ! そして、あっという間にトップアイドルになって、世界を面白くするのよ!」
「いやいや、そんなにうまくいくわけないだろ。アイドルってのはそんな簡単なもんじゃないぞ。まずはレッスンだとか、事務所に入るだとか、色々準備が必要なんじゃないのか?」俺は現実的な問題を指摘するが、ハルヒは聞く耳を持たない。
「そんなこと、私がやればすぐに解決するわ! だって私は涼宮ハルヒなんだから! みんな、協力しなさい! キョン、あんたは私のマネージャーをやりなさい!」
「はあ!? なんで俺がマネージャーなんだよ!」
「当たり前でしょ。あんた以外に誰が私をサポートできるっていうの? それに、他のメンバーにもそれぞれ役割を与えるわ!」
ハルヒは勢いそのままに、他のメンバーにも次々と指示を出し始めた。
「長門、有希! あんたは作詞作曲担当ね! 天才的な頭脳を持つあんたなら、最高の曲を作れるはずよ!」
長門は本から目を離さずに小さく頷いただけだが、それを見たハルヒは「これで決まり!」と言わんばかりに頷き返した。
「古泉くん! あんたはプロモーション担当よ! あんたのスマートな見た目と交渉術で、私のデビューを大々的に宣伝してちょうだい!」
「ええ、もちろん喜んでお引き受けしますよ。」古泉はいつものようににこやかに微笑んで、軽く会釈をした。彼の返事は予想通りだが、それでも俺には信じられない。
そして、ハルヒは最後に朝比奈さんに目を向けた。「みくるちゃん! あんたは衣装デザイン担当! 私のステージ衣装を作るのよ!」
「えっ、わたしですか!? そ、そんな…私、そんなの作ったことないです…」
朝比奈さんは慌てて恐縮しているが、ハルヒは聞く耳を持たず、手を振りながら「大丈夫! みくるちゃんのセンスなら絶対に素敵な衣装ができるわ!」と断言した。
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こうして、ハルヒの突拍子もないアイドル計画が、まさにその場で決まってしまった。もちろん、俺たちが巻き込まれるのはいつものことだが、今回ばかりはさすがに無理があるんじゃないか? いや、それでも、ハルヒは本気でアイドルを目指す気だ。
「はあ、どうしてこうなるんだ…」
俺はまたしてもため息をつきながら、ハルヒの顔を見上げた。彼女の瞳はいつも以上に輝いていて、その勢いに逆らうのは無駄だということを、俺は改めて実感した。
「キョン、そんなに嫌そうな顔しないでよ! どうせまたあんたも協力してくれるんでしょ?」
「まったく、仕方ないな…お前がこうなった以上、俺が止められるわけがないだろ。」
「そうよ、わかってるじゃない!」ハルヒは満足そうに笑い、再び窓の外に目をやった。
そうして、涼宮ハルヒのアイドルプロジェクトが、今まさにスタートしたのだった。
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