第16話 最後のズレの発見

ズレた時間軸の影響を受けた人々を元に戻すために、俺たちは再び学校や町中を巡り、異常を修正するための手がかりを探し始めた。だが、その過程で、俺たちはもっと根本的な問題に直面することになる。


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「これで何度目の調査だ?」俺は溜息混じりに呟いた。


ハルヒが「調査!」と称して俺たちを連れ回すのは、もう何度目になるのか、数えるのも億劫だった。だが、それでも今回ばかりは彼女に従わざるを得ない。町全体が何かに取り憑かれたような状態に陥っているのだから。


「キョン、諦めるんじゃないわよ!」ハルヒがいつもの調子で俺に叱咤する。


「わかってるさ…だが、これ以上何をすればいいんだ?」俺は思わず問いかけた。


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その日も放課後、俺たちは町中を歩き回り、変わった様子がないかを確認していた。住民たちの様子や、いつも見慣れた風景がどこかしっくりこない。あちこちで小さなズレを感じながら、俺たちは歩き続けた。


「これ以上続けても、何かが見つかる気がしないんだが…」俺は疲れを隠せない。


「でも、何かを見つけないと、元の世界には戻れないわ!」ハルヒは絶対に諦めないという強い意志を見せていた。


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その時だった。突然、長門が足を止め、静かに言葉を発した。「この場所…何かが違います。」


「何だって?」俺は驚いて彼女の言葉に耳を傾けた。


長門が指差したのは、町の中心にある小さな広場だった。普段は何もない普通の広場だが、今は何かが違うように感じた。周囲の風景が微妙に歪んで見える。


「この広場がどうかしたのか?」ハルヒも興味を示して近づく。


「ここに、ズレの原因となる最後の手がかりがあるかもしれません。」長門は静かに言った。


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俺たちはその広場に向かい、辺りを調べ始めた。だが、最初は何も異常が見つからなかった。広場の中央には、古い記念碑が立っているだけで、特に怪しいものは見当たらない。


「本当にここで何かが起こったのか?」俺は疑問を口にした。


「何かがあったのは確かよ!」ハルヒは強く主張した。


「でも、それが何なのかが問題だ。」古泉も困惑している様子だった。


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その時、突然の閃きが俺の頭をよぎった。そうだ、この広場は、過去に何度もハルヒと一緒に訪れた場所だ。特に、中学時代に何度もこの広場で彼女と話をしたことが思い出された。


「ハルヒ、お前、ここで何か大事なことを決めたことがあったか?」俺はその記憶に基づいて問いかけた。


「ここで?」ハルヒはしばらく考え込んでいたが、やがて目を見開いた。「そうだ…ここで、私は一つの決意をしたのよ。」


「決意?」俺はさらに興味を引かれた。


「そう、中学の時に…私はここで、世界がもっと面白くなるように願ったのよ!」ハルヒはその言葉を強調するかのように言った。


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その瞬間、俺の中で全てが繋がった。ハルヒがその広場で抱いた強い願望が、このズレた世界を生み出したのではないか?彼女が「もっと面白い世界を」と願ったことで、現実が微妙に歪み、俺たちが今いるこのズレた時間軸が生まれたのかもしれない。


「お前のその願いが…」俺は驚きつつも、その可能性に確信を持ち始めた。


「私の願いが…?」ハルヒは驚き、そして困惑した表情を見せた。


「そうだ、お前の願望が、この世界を作り変えたのかもしれない。それが、このズレた世界の原因だとしたら…」俺は言葉を選びながら続けた。


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「でも、それならどうすればいいの?」ハルヒは不安そうに尋ねた。


「その願望を抑えることで、元の世界に戻ることができるかもしれない。」長門が冷静に提案した。


「抑える…?」ハルヒはその言葉を繰り返した。


「そうです。あなたの強い願望が現実を変えてしまったのだとすれば、それを正すためには、その力を抑え、元の状態に戻す必要があります。」長門の言葉には確信があった。


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ハルヒはしばらく黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。「もし私が、その願望を抑えたら…本当に元の世界に戻れるの?」


「可能性は高いです。ただし、それにはあなたの強い意志が必要です。」長門は真剣な表情で答えた。


「でも、私は…」ハルヒは迷いを見せた。


「お前がその願望を抑えれば、全てが元に戻るはずだ。俺たちはお前を信じている。」俺はハルヒに力強く訴えかけた。


「キョン…」ハルヒは俺を見つめ、やがて小さく頷いた。「わかったわ。やってみる。」


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その瞬間、広場の空気がピリリと張り詰めた。ハルヒがその決断を下したことで、何かが動き出すのを俺たちは感じた。


「それじゃあ、どうすればいいの?」ハルヒが長門に尋ねる。


「ここで、再びあなたがその願望を強く思い描き、それを自ら否定することで、時間軸を元に戻すことができます。」長門は簡潔に説明した。


「つまり…」ハルヒは少し戸惑いながらも、覚悟を決めた表情を見せた。


「そう、今ここで、もう一度願望を抱いて、それを打ち消すんだ。」俺は彼女に同調しながら言った。


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ハルヒは深呼吸をし、広場の中央に立った。彼女は目を閉じ、何かを強く思い描いている様子だった。その表情には決意と緊張が入り混じっていた。


「世界が…もっと面白くなればいいって…私は…」ハルヒの声が静かに響いた。


だが、その言葉は次第に力を失い、彼女は目を開けて続けた。「でも、それだけじゃダメなのよ…」


その瞬間、広場全体が光に包まれた。俺たちはその眩しさに目を細めながら、ハルヒの力が解放され、そして消えていくのを感じた。


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光が消えた後、俺たちは再び周囲を見回した。広場は何も変わっていないように見えたが、確かに何かが違った。空気が澄んでいて、以前の不安感や違和感が完全に消えていたのだ。


「成功した…のか?」俺は信じられない気持ちで呟いた。


「ええ、成功したわ!」ハルヒは明るい笑顔を見せ、再び元の元気な姿に戻っていた。


「やったな、ハルヒ。」俺は彼女の肩を軽く叩いた。


「みんなのおかげよ。」ハルヒは少し照れくさそうに答えた。


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こうして、俺たちは最後のズレを修正し、元の世界に戻ることができた。すべてが元通りになり、ズレた時間軸の影響は完全に消え去った。俺たちは再び平穏な日常に戻り、今度こそ安心して暮らすことができるようになった。


「さあ、これからどうする?」ハルヒが元気に問いかけた。


「とりあえず、今日はもう休もうぜ。」俺は冗談交じりに答えたが、その言葉には安堵の気持ちが込められていた。


「そうね。でも、また何か面白いことが起こるかもしれないわよ!」ハルヒはそう言って笑いながら歩き出した。


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こうして、俺たちの冒険は一旦の終わりを迎えた。しかし、それは新たな始まりに過ぎない。SOS団の物語は、これからも続いていくのだ。

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