第109話 完結・帰省
最後の戦いを終えてアンに戻った運達は、数日の休息を経て、遂にその日を迎えた。
「それじゃあ、ちょっくら帰省してくらぁ」
「なるべく早く帰って来るからねっ!」
運は久遠を連れて元の世界に戻ることを決めた。
「久遠殿の本当の身体を今もなお守り続けていらっしゃるお義父様……。久遠殿を連れて帰り、引き合わせる……お二人の目標が、遂に達成されるのですね」
「長かったようで、一気に駆け抜けたような気さえするな」
「色々あったもんねっ! お父さんに私達の関係をどう説明しよっか?」
「気が重い……まるで真のラスボスに挑みに行くようだ……」
「あははっ! 2人の愛で乗り越えようね! お兄ちゃん!」
「ぐぅ……」
運は頭を抱えて唸った。
「私達も、運殿について行けたら良かったのですが……」
五十鈴ほか、立ち並ぶ妻達やラグナ、モンスターズも同意とばかりに頷いた。
「すまないな。俺達の世界には、人間しかいないんだ……みんなを連れて帰ったらどんなことになるか解らない。……万が一お前達の身体が消えてしまう、そんなことになったら俺は悔やみ切れない」
「それは以前にも仰っていましたね」
「ああ……だが安心してくれ。俺達は絶対にまたここへ帰って来るから」
「運殿。今更そんなこと言わなくても、私達は誰一人としてあなたを疑ってなんかいませんよ? それに、もしお義父様さえよろしければ、こちらにお呼びになっては如何ですか? 私達だって、お義父様にお会いしてみたいのですから」
「そうだな……その件もちょっと考えてもらうことにするよ」
「うん! それがいい! それが良いよお兄ちゃん!」
久遠は運の手を取ってブンブンと上下に振った。
「それじゃあ、そろそろ行くわ」
運はみんなに向けて言った。
「運さん。浮気はしちゃ、ダメだよ~?」
「そんなことしたら、今度こそ泣いちゃうぞ、運」
ミューとフィリーが言った。
「みんなを泣かせるようなことはしないよ」
運が優しくキスをすると2人は照れたように口を閉ざした。
「運様! お2人にだけズルいですぅ」
「運お兄ちゃん。私もいってきますの挨拶、したいな」
「ははは。2人とも、いってきます」
続けてせがむカレンやセレナにも優しくキスをする。
「ご主人様! ボクね、ボクね! ……あ、やっぱりまだ内緒!」
「帰って来た時には、人間の姿に戻ったアタシに驚かせてあげるからね!」
「何だ何だ2人とも含みを持たせて……」
ダイナやルーテシアにも続く。
「私なんかまだ運にゃんと全然イチャイチャラブラブし足りないニャ~」
「わ、私だってまだ……ま、魔王を待たせるなんて運くんは酷いのだ~」
「お前達は政略結婚組のはずじゃなかったのか……」
運は多少呆れながらもアクトロスやカスケディアにもキスをした。
「運ちゃん。私のことは、いつか貰ってくれればそれで良いからね?」
「ははは。ラグナには俺の父さんでも紹介してやろうか?」
ラグナの発言に一瞬だけ妻達の緊張は高まるが、運がそれを余裕の態度で抱きしめ、ポンポンと軽く背中を叩いて流したのを見て戦争は免れた。
「運殿……」
「五十鈴……」
最後に、運は五十鈴を抱きしめてキスをした。
「早く帰って来ないと、名前は私が勝手に決めてしまいますから……」
「え……?」
唇が離れた後、耳元でそっと囁かれた言葉に運は暫し放心した。
「え? 五十鈴、おま、ちょっ……」
「はーいはい、お兄ちゃん! 続きは帰ってから聞こうね! 早く帰ってこないとね!」
頬を染める五十鈴から引き剥がすように久遠が運の背中を押した。
「……そんなの、みんな同じなんだから」
久遠自身も頬を染めるばかりか、妻達はみんな揃って視線を逸らしたりした。
「マ、マジ?」
運は嬉しいやら戸惑うやらで挙動不審となる。
「こ、こりゃあ早く帰って来ないといけないな……」
後ろ頭を掻きながら運は妻達に笑顔を向ける。
「俺、絶対にみんなのこと、幸せにするからな! 大船に……いや、大型トラックに乗ったつもりでいてくれ!」
そう言って運は久遠の手を取る。
「そうと決まったら久遠! 俺達は早く行くぞ! 1秒でも早く帰って来るんだ!」
「あははっ! 急いでても安全運転! 制限速度は守るんだよっ!」
「解ってるって! シートベルトも忘れずになっ!」
運と久遠は早々にトラックへと乗り込んで出発する。
元いた世界に向けて。
「久遠。俺さ」
その帰りの道中で運は隣に座る久遠に語った。
「久遠がトラックに轢かれて、一家離散して、母さんを亡くして、そのうえ異世界にまで飛ばされて……何で俺だけがこんなに不幸な目に合うんだって、そう思ってた」
「うん……辛かったよね」
久遠はそっと運の左手を握った。
「でも、不幸なんかじゃなかったって、気付いた」
「うん……」
「父さんは、お前と過ごした時間を守るために、その生涯を果たす覚悟をした」
「うん……」
「母さんは、残された俺に対して、未来に向けて責任を果たそうと、命を賭けてくれた」
「うん……」
「誰が悪いとかじゃなかった……家族がバラバラになった訳じゃなかった……父さんも、母さんも、それぞれが俺達のために、自分の全てを注ぐつもりでいてくれたんだ……」
「うん……」
「なんか、今、そんなことに気付いちまった」
「うん……お兄ちゃんも今、そう思ってくれているんだね……」
「ああ……。俺、父さんに会ったら、久遠のことも、みんなのことも、正直に言うよ」
「うん。今のお兄ちゃん、とっても頼もしいよ」
「これからも、きっと沢山苦労かけてしまうかも知れないけどさ」
「大丈夫。きっと乗り越えられるよ」
「これからも、よろしく頼むな」
2人は強くその手を握りながら、やがて、元の世界への扉を潜り抜けるのであった。
こうして1台のトラックが無事に異世界からの帰還を果たした。
結局のところ、そのトラックはその異世界に自らの帰るべき場所を見つけ、いずれまた、この世界を旅立っていくだろう。
しかし、そのトラックと旅を共にする自称トラックの精霊は大層なイタズラ好きだ。
いつどこで、どんなトラックに宿っているのか、知れたものではない。
この世界群には沢山の異世界が存在していて、今日も誰かがそんな異世界に転移転生をしている。
もしかしたら、今、あなたの目の前を通り過ぎたトラックが、その扉を開いているのかも知れない。
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