第107話 VS黒騎士 最終戦(5)


「し、信じられん……このオレが押されているだと……?」


「超える! 今ここで、アンタをっ!!」


「ぬぅぅ……! おかしい! 互いに残るものはトラックだけのはずだっ! ならばレベルも、力も、魔法も、スキルも、経験も……全てが上回っているこのオレが押されるはずは無いっ!!」


「それがアンタの限界かぁっ!!」


「ふざけるなぁっ!!」


 両者は激しくぶつかりあった。


「まさか運お前、あのスキルを使っているのか……? 使っているんだなっ!?」


「あのスキル? 知らねぇよそんなもん!」


「今すぐに止めろ運! そのスキルだけは使ってはダメだっ!!」


「うるせぇ!!」


 運は猛攻の手を休めることはなかった。


「スキル、データ不正改ざん。使えば絶大な能力値の向上を得ることができる……が、それはあくまで表記上の問題だ、強くなった気にさせるだけのものだ」


 黒騎士は防戦一方に陥りながらも運の攻撃を必死に凌いだ。


「不正が暴かれれば、その反動は本体に跳ね返る……解っているのか!? それは一時的な能力減少程度では済まされんのだぞ?」


「知らねぇよ! そんなことっ!!」


「今すぐ不正をやめろっ! 日野運っ!!」


 それでも運の攻撃は緩むことはなかった。


「なるほど……究極のトラックを欲するオレがそれを指摘出来ないと解っていてやっている訳か……いいだろう!!」


 遂には腹を決めた黒騎士も全力を以てそれに向かい合った。


「うおりゃああああっっっ!!!」


「うおおおおおおおっっっ!!!」


 しかしそれでも運の攻勢に変わりはなかった。


 徐々に躯体の歪みを増してゆく漆黒のトラック。


「く、このままではオレの夢が、全てが水の泡……止むを得ない、止むを得ないのか……」


 黒騎士は葛藤を繰り返しながらも全てをかなぐり捨てる決意を固めて叫んだ。


「ならばオレも使わせてもらうぞそのスキル、運うぅぅぅっっっ!!!」


 刹那、急激に精度を増した動きで運に迫る漆黒のトラック。


「来おおおぉぉいいっっっ!!!」


 運もそれを正面から受け止めた。


 だが、今度の衝突は威力を増した黒騎士が押し勝った。


「どうだっ! 同じ条件ならオレの方が強い!!」


「まだだっ! 絶技! ノークラッチシフトォッ!!」


「なにィ!?」


 押し返されても瞬時に体勢を整えて再び迫り来る運を前に、遂には黒騎士も気迫で押される形に持ち込まれていた。


「なんなんだ……なんなんだ運、この強さはァ!?」


「言っただろっ! 数字じゃねぇ! スキルじゃねぇ! ただの気持ちだけだっ!!」


「気持ちだと……? まさかお前、データ不正改ざんを使っていないのかっ!?」


「当たり前だっ! 俺様は! 正々堂々! アンタを乗り越えるっ!」


「くっ……! 気持ち、たかが、たかがそんなものでっ!!」


「そんなものだとっ!? そんなことも忘れちまったのかアンタはぁ!」


「何だとっ!?」


「エヒモセスに来て一番最初にナヴィに聞いたことだ……心を燃やせ。熱い気持ちがトラックを呼び起こすってな……アンタが知らねぇ訳ねぇだろうがっ!!!」


「生意気な口をおおおぉっ!!」


「初心を忘れてんじゃねえええぇっ!!」


 稲妻を散らすように激しく当たるトラック。


「そう、そうだ。いいぜ? アンタ、さっきより当たりが強くなったじゃねぇか!」


「それでオレより上に立ったつもりかあぁっ!!」


「当たり前だっ!! 俺様はたった今、アンタを踏み超えて行くんだからなっ!!」


「オレに勝ってから言ええええっ!!!」


「やってやらあああぁっ!!!」


 2台の激突は最高潮に達したが、その時にはもう、運は自身の勝利を確信していた。


「いいぜ、もう良いだろう……そろそろ終わりにしようか。俺様の渾身の一撃で異次元まで吹っ飛ばしてやるからよ。トラックの固有スキル、運ぶものでな」


「運……まさか、お前……」


「神なる座標だっけか? そこまで吹っ飛んじまうかもな」


「く……そんなもの、オレのプライドに賭けて認めねぇ!!」


「なら必死に防いで見せるんだな」


 そう言って運はその手に雷雲が収縮された玉を呼び出した。


「なっ!? なんだそのエネルギーは?」


「これか? これは一番最初に放ったトラックハンマーの雷雲だ。俺様はあの時、この雷雲玉を消したんじゃないぜ? 未来に送ったんだ」


「なんだと……?」


「で、確か一度反射した魔法はマジックミラーでも反射出来ないんだっけな」


 運はそう言ってトラックの荷台を崩すと、その装甲を凹レンズのように広げ、焦点を黒騎士に合わせた。ゆっくりと運の掌から離れてその凹レンズに吸い込まれていく雷雲玉。


「マジックミラー……トラックハンマーを反射して社長を一点突破しろ」


「く……突飛な使い方をしやがって……」


「行くぜ社長。俺様の恩返し、喰らってくれよ」


 運は軽く笑ってから、その手を前に突き出した。


「雷槍! トール・アーク・ランスッ!!」


「たかがこんな魔法で、くたばるオレじゃねぇぞ運うううぅっ!!!」


 凄まじいエネルギーの雷槍と激突しながらも運への反撃を狙う黒騎士。


「これを防ぐだなんて流石だ社長……だが、ボディがガラ空きだぜ!」


「くっ……オレは負けん! 負けてたまるかぁっ!!」


「これが本当に最後の一撃だっ!」


 黒騎士には雷槍を凌ぐだけで運の追撃に対抗する術は残されていなかった。


「喰らえええっ! インパクト・アアアアァースッ・イノセントッッッ!!」


 そしてそこへ運の最終最後の突撃が炸裂した。

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