第106話 VS黒騎士 最終戦(4)


「うおりゃああああっっっ!!!」


「うおおおおおおおっっっ!!!」


 精も魂も絞り尽くすような咆哮で2台のトラックは激突を続けていた。そこにはもうレベル程の差も無く、両者共に譲らぬ精神のみでぶつかり合っているようですらあった。




「ゼウス! オレが一瞬だけ奴に隙を作る! アレを撃て」


 漆黒のトラックの中で黒騎士が空間の精霊ゼウスに言った。


「!! グランドマスター! 本当に良いのですかっ!? あれほどマスターのことを気に入っていたではありませんか!」


「構わんっ! それとも何か? お前も奴に絆されてしまったのか!?」


「そんな! ……しかし、マスターとの旅を経て、何も思わなかった訳ではありません。彼についたクロノスの気持ちも解るのです」


「それも踏まえて、お前はオレのところに残ったのではないのか!?」


「……殺してしまうのですよ?」


「撃てるのかっ!? 撃てないのかっ!?」


 ゼウスは暫く押し黙った。そうしている間にも激しい戦闘は続く。


「さあどうしたゼウス! 今すぐ決めろ!!」


「……グランドマスターの命に従います……ですが、照準がズレてしまう可能性がありますことをご了承ください」


「構わんっ! 奴を再起不能に出来るならな!」


「……」


「ゼウス! 打破せよ!」


「……かしこまりました」


 ゼウスの了承を得て黒騎士は一層速く運に迫った。




「くそっ! 社長のヤツ、ここに来て更に速度が上がるのかよっ!」


 運も必死にそれに食い付いた。車内ではクロノスも拳を握って行方を見守る。


「ですが今やマスターもそれに対応できています。黒騎士は能力値の一部を身体能力にも割いていますので、トラック自体の性能差はレベル差程ではありません」


「足りねぇ分は気持ちで埋めるっ!!」


「その意気です! トラック同士の戦いの行き着くところは力と力! 戦いは既に最終局面となり単調なぶつかり合いになっています。ここからは気持ちの勝負ですっ!!」


「生真面目なナビが精神論語り出したら世話ねぇなあぁっ!」


「マスターのせいですよおおおおおっっっ!!!」


 運とクロノスは共に叫びながら黒騎士との激突を繰り返した。


「しかし、いくら何でもあの社長が単にゴリ押しだなんて妙な気分だぜ」


「ですが結局は……いや、まさか?」


「どうしたナヴィ? 何か気になることがあるのか?」


「いえ……いくら黒騎士でも、マスターに対してあの技は使わないでしょう……ゼウスもついていることですから」


「良く解らんが、とにかく俺様はこのまま気持ちとパワーで押し切れば良いんだな?」


「はい! この場ではそれが最善でしょう!!」


「なら解りやすいっ! 全力を超えて行くぜっ!!」


 運も更に速度を上げて黒騎士に挑んだ。




 それは何度目かも解らない正面衝突の直前だった。


 漆黒のトラックが一瞬にして姿を消した。しかしそれと同時に、運のトラックに垂直方向から横腹目掛けた漆黒のトラックが突き刺さっていた。


「っっ!?」


 一瞬の出来事に運は状況を把握することができないまま、真横からの強烈な一撃を受けて吹き飛ばされていた。漆黒のトラックの突撃を受けた荷台は大きく凹み、姿勢制御もままならぬまま宙に放り出される運のトラック。


「今だっ! やれっ! ゼウスっ!! 亜空切断だっ!!」


「……っ!!」


 ゼウスは苦悶の表情を浮かべつつも、黒騎士の命じるままその技を放った。


 その変化は何の脈絡も無く突然に運のトラック周辺に発生し、まるで鏡に映った世界を割るように運のトラックを一瞬にして砕いた。


「うわああああぁぁぁぁあぁ!!!!! あ、足があぁぁぁっっっ!!!!!」


「マ、マスターっ!!!」


 その攻撃に巻き込まれた運は、トラックの下半部と共に自身の両足を失っていた。


「良くやったゼウス。絶妙な照準だ……これでもう運はアクセルを踏むことが出来ない……トラック自体の損傷もあの程度なら修復可能だろう……運を引き換えにして妹に修復させれば良いのだからな……勝った」


 ゼウスはそれを聞いて顔を背けた。


 が、その次の瞬間、完全に動きを止めていた漆黒のトラックの横腹に、運のトラックによる強烈な突撃が突き刺さっていた。


「なにィ!?」


 漆黒のトラックは荷台を大きく歪ませながら宙を舞った。


「ば、馬鹿な……」


 困惑する黒騎士に、顔を背けつつも安堵するゼウス。


「どうしたよ社長? ちょっと巻き戻しただけのことだろ?」


「……どうやら、お互いの精霊同士にも抑え合ってもらう必要がありそうだな」


「良いじゃねぇか……結局は元のトラック同士のぶつかり合いに戻るだけだ」


「良いだろう……とことんまで解らせてやる」


 再三に渡る互いの戦略も、結局は全てを削り合って単純にトラックを残すのみとなった。


 しかしだからこそ、出し惜しみを許さぬその争いは熾烈を極めた。


「うおりゃああああっっっ!!!」


「うおおおおおおおっっっ!!!」


 やがて、その戦いの行方は、漆黒のトラックの方へ歪みとなって表れ始めた。

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