第105話 VS黒騎士 最終戦(3)
2台のトラックの激突は一見して互角に見えたが、徐々にそのレベル差が目に見える形でトラックの躯体に現れ始めていた。
「どうした運? 降参でもするか?」
「する訳ねぇだろっ! 見てやがれっ!」
「やってみろ。ただし、お前の考えていることくらい予想は付くがな」
「そいつはこれを防いでから言ってみろっ!」
運は激突のリズムを乱して黒騎士のトラックをかわし、その横腹を正面に捉えた。
「ヘッドライト・レイ!」
だがそれを予測していた黒騎士はまるで動じることなく鼻で笑った。
「前と変わらない……力で敵わないと知るやすぐに魔法に頼る……つまらん」
黒騎士はそれを避けようとすらしなかった。
「スキル、マジックミラー」
「なにィ!!」
黒騎士の発動したスキルによって運が放ったビームは反射され、逆に運自身への攻撃となって命中した。そのまま地上の街へ墜落しそうになるも直前で踏み止まる。
「フ……知らなかったのか? このスキルは熟練度によって魔法反射の追加効果が付与されるのさ……トラック同士、力と力の激突に無粋な魔法は要らんだろう?」
「くそが……」
「魔法反射くらいなら今のお前にも出来るはずさ。やってみろ、ヘッドライトレイ」
黒騎士は余裕の態度でビームを放った。
「やってやらぁ! マジックミラー!」
ところが運のトラックは黒騎士のビームを反射できず、直撃を受けてとうとう地上に落下した。そこは運良く広い公園で幸いにも人的被害は生じなかったが、上空で激しく激突する2台のトラックの存在は既に帝国民に隠しようのない事実となっていた。
「うわははは! ホントお前って奴は予想通り馬鹿正直に受けやがって。マジックミラーはな、一度反射された魔法までは反射できねーんだよ。オレは自分のビームを自分のマジックミラーで反射してから放った……つまり最初から反射できねーのさ。ま、こんな器用な真似は今のお前には出来ないだろうがな」
「騙しやがったな!」
「これも経験の差だな」
「ちくしょう!」
「これで解っただろう? レベル、力、魔法、スキル、経験……その全てにおいてオレはお前を完全に上回っている。抗うだけ無駄だと」
「うるせぇ! それでも俺様は勝たなきゃならねー!!」
運は力強く地上から飛び出し上空の黒騎士に向かう。
「直接の魔法が効かねぇなら技術で勝つ! ウォッシャーバブル!」
「幻影か? つまんねぇな」
運の展開した幻影が黒騎士を完全に包囲したのも束の間、黒騎士はトラック気を放射線状に放ち、自身を取り囲む全ての幻影を一瞬のうちに消し去った。
「んなっ!?」
「今度こそ解ったか? オレにお前の攻撃は通用しない」
「……嘘だろ?」
「トラック同士の戦いは、結局のところ単に力と力の激突に収束するのさ」
「これはちょっと参ったぜ」
「もう諦めろ。所詮、今お前が立っているのはオレが昔歩いて来た道の上なんだからな」
「俺様は諦めねぇ! 誰ひとり同じ道なんかねぇ!!」
「なら、これからオレは力でお前を捻じ伏せて解らせてやるぜ?」
「くそがっ!!」
トラック同士の戦いは再び正面衝突による激突の繰り返しに戻った。しかし戦況は変わらず運のトラックだけが一方的に消耗してゆく。
「ははは。思ったより耐えるじゃないか、運」
「今話しかけんなっ! こっちは限界ギリギリなんだよっ!!」
「ははっ……そう言うな。こんな風に本気でぶつかり合うのも恐らく最後のなんだ、ゆっくり話でもしようじゃないか」
「ふざけんなっ! この猛攻、話してる余裕なんか与える気ねーくせにっ!」
「オレも本気で戦ってるからな……よくもここまで強くなったもんだ」
「そうやって上から言えんのも、今のうちだけだっ!!」
「そうだな……勝っても負けても、そうなるだろうな」
「……くそがっ!」
「だが、オレにも1つ教えてくれ運。今のお前なら、市場に出回っているトラックくらい好きなだけ手に入れられるはずだ……わざわざオレと戦うリスクを負ってまで、そのトラックに拘る必要もあるまい……どうしてそこまで抵抗する?」
「アンタには負けたくねぇからだ!」
「あんなにオレに恩返ししたい等と言っていたじゃないか……たかがトラック1台だが、オレはこれ以上なくお前に感謝するだろう……それでもか?」
「そしたらアンタはさっきみたいに大勢の人間を生贄にしちまう……そのやり方じゃアンタの間違いは正せねぇ!」
「大勢の人間を異世界送りにしたお前が言えた事か!」
「俺様だって自分がしたことが正しいだなんて思っちゃいねぇ……暗黒王の誹りだって甘んじて受けるさ……だが、アンタは違うだろ!」
「何が違うと言うんだ!」
「帝国の民は、アンタを慕っているんだろうが!」
「だが、オレの夢を叶えるには必要な過程だ……お前はそれを摘み取ろうと言うのか!?」
「そうじゃねぇ!」
「ならどういうつもりなんだ!」
「俺様がその夢ごと背負って叶えてやるよ! アンタを超えてからな! それが俺様の、アンタへの恩返しだっ!」
「ふざけるなっ! そんな方法があるなら、とうの昔にやっている!!」
「アンタが決めた限界か!? それを! この俺様が! アンタごとブチ破ってやるって言ってんだよっ!!」
「お前に出来る訳があぁぁっっ!!」
2台のトラックは一際激しくぶつかり合って離れた。
「はぁ、はぁ……やっぱそう簡単には乗り越えさせてくれねぇか」
「はぁ、はぁ……お前もな……信じられんが、この戦いの最中にも更に強くなりやがる……ここから先は、もうオレも手加減が出来んぞ」
「最初から全力のアンタを超えるつもりだよ」
「……場合によっては殺してしまうかも知れないと言っているんだ」
「そうでもしねぇと、俺様は止まらねぇからな」
「仕方がない……残念だが、ここからはもう、殺すつもりで行く……良いんだな?」
「やってみろよ!」
それからは、2台のトラックはただ会話も無くぶつかり合う真剣勝負に移っていった。
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