第93話 再開、ママよ


 場を取り直してラグナは発言する。


「もう知っているとは思うけれど、私は神竜族のラグナ。神々の遺産を守護する使命を与えられた存在よ。たまにはマザードラゴンなんて呼ばれることもあったけれど」


「ダイナから、それはもう立派なドラゴンだったと聞いているよ」


「あら? もしかしてダイナちゃんをご存知?」


「ご存知も何も。まずは言っておくべきだな。ダイナは今、俺の妻でもあり、俺達全員の大切な仲間なんだ」


「あら? あらあらあら? と言うことは?」


「心配しないでくれ。あんたが大切に守っていた荒野の白い花なら俺達が責任持って……」


 と運が言い掛けたところで、その続きは身を乗り出してきたラグナによって遮られた。


「子供は授かったの!?」


「そっちかよ!!」


 運は思わずツッコミを入れたが、その後照れたように顔を少し逸らした。


「ま、まぁ結婚したばかりで子供はまだ授かっちゃいねーが」


「あらあらまあまあ」


 ラグナは嬉しそうに口元を押さえた。


「運ちゃん、だったわね。娘のこと、よろしくね」


 そうラグナが深々と頭を下げた時だった。


「ママ……?」


 その声は上空から聞こえた。見上げれば、そこには1匹のドラゴンの姿があった。


「あらダイナちゃん。立派になったわね。元気にしてた?」


「う、うそじゃないよね……? 急にママの気配を感じて飛んで来たんだけど……」


「本当よ。ママ、ちょっとゾンビになって腐ってたんだけど、この人達に治してもらったの。凄いわよね、いくらドラゴンゾンビ状態とは言え、普通には絶対勝てないハズだったのだけれど」


「恐ろしかったよ。特に最後の紋章が刻まれた白と黒の円環の光? あれは相当ヤバかったな。多分指先が触れただけでも即死だったろう」


「ご、ごめんなさいね。私、何も覚えていないものだから……」


「ともあれ、レインボー久遠様の活躍で困難は無事に乗り越えられたって訳だ」


 そこでダイナはようやく運達の存在に気が付いた。


「あれ? ご主人様だ」


「聞いたわよ? 運ちゃん、あなたの旦那さんなんだってね」


「うん……うん……」


「ほら。いつまでもそんなところに浮かんでないで、こっちにいらっしゃい。私に抱きしめさせてちょうだい?」


「うん……ママ、ママぁ……」


 そしてダイナはラグナの胸に飛び込んで暫く泣いた。


「はは。ダイナの奴、いつもは母さんとか言ってるくせに、本当はママ呼びなんだな」


「シッ! お兄ちゃん。少しそっとしておいてあげよ」


「そうだな」


 運、久遠、五十鈴の3人は暫く口を閉ざした。




「それにしてもダイナちゃん。あなた本当に良い旦那さんを見つけたわね」


「うん! ボクの自慢のご主人様なんだ!」


「これなら使命の方も安心ね?」


「う、うん。ご主人様と頑張ってるよ?」


「もし大変そうならママも手伝おうかと思ったのだけど」


「? どういうこと?」


「ほら、ママもドラゴンだから、強い人には惹かれちゃうじゃない?」


「「!!」」


 一瞬にして女性陣の間に緊張が走る。


「ダ、ダメだよっ! ご主人様はボクのご主人様だよっ!!」


「あら良いじゃない? ダイナちゃんだって兄弟を欲しがっていたでしょう?」


「今は街の仲間がいっぱいいるから平気なんだよっ!!」


「運ちゃんだって、今更1人2人増えたところで大して変わらないでしょう?」


「絶対、ダメェ~ッ!!」


「運ちゃんにも聞いてみましょうよ? 運ちゃん、腐ってたドラゴンはお嫌い?」


 運は周囲からの視線に戸惑うばかりだ。


「い、いや……俺は何とも……」


 ダイナはラグナの背中を押しこくって運から遠ざけた。


「ダメッたら、ダメェ~ッ!!」


 そんなことをしているうちのことだった。


 死の国の中心で和気藹々と盛り上がる一行のもとに1台の軽トラが近付いた。


「あれ? お兄ちゃん、あれはトラ仙人さんの軽トラじゃない?」


 トラ仙人は一同の前で軽トラを停めると、すぐに降りてきて天を仰いだ。


「し、信じられん……死の国に光が射したかと思い来てみれば……ほ、本当に原初のドラゴンをやりおったのか……」


「ま、決め手は久遠のエターナルホーリーだったんだがな」


 運は久遠の背中を叩いた。


「それどころか見ろよ、黒紋病も押さえ込んじまったばかりか、死に絶えた大地にすら命が芽吹いてるだろ?」


「まさに、まさに聖女の為せる奇跡じゃ……これならば、これならばあの子は……」


 トラ仙人は突如、運達に向かい膝を折り、体を畳んで頭を下げた。


「この黒金幼司、お主等に折り入って頼みがある!!」

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