第92話 運とチートな仲間たち
「なんて生命力だ。ラグナの奴、生きてやがる」
横たわり動かなくなったラグナの心音を確認して運が久遠に言った。
「てっきり一度死んだアンデッドを回復すれば死んだ肉体だけに戻るかと思ったが……」
「オーバーズの影響を受けたせいもあるんじゃないかな、あとは……」
「久遠のホーリーのお陰かもな。遂に発現したな」
誇らしげに両手を開いた運の背後には倒れたラグナのみならず、死の大地に命が芽吹き始めた兆候すら見て取れる緑が広がっていた。
「
「ただただ必死だったから……それよりお兄ちゃん。ラグナさん、今は意識が無いようだけど、このままで平気かな?」
「また暴走し始めたら大変だし、トラックでも乗っけとくか」
「だ、大丈夫なの?」
「腐っても……いや、腐ってたがドラゴンだ、平気だろう」
運はうつ伏せに倒れた人型のままのラグナをトラックのタイヤで踏みつけ高らかに宣言した。
「トラックオンドラグーン!!」
「凄い絵面だね」
傍から見ていた久遠は少し引き気味だった。
「いたたた……出来ればもうちょっと右に乗ってはくれないかな?」
「ん? 何か言ったか久遠?」
「ううん? 何も言ってないよ」
「五十鈴はまだ気を失っているし……じゃあ誰だ」
「一人しかいないね」
「あっ! そこそこ! あ゛あ゛ぁ~、腰に効くわぁ~」
言葉を発していたのはタイヤの下敷きになっていたラグナであった。
「どうやら正気に戻ったようだな」
そしてすぐにトラックを退けようとした運を更にラグナは制止した。
「待って! もう少しだけ! 今度は少し下の辺りに乗ってもらっても良いかしら?」
「いやぁすまない、トラックでマッサージするのは初めてなもんでな」
「ぐっはぁ~。き、効くぅ~」
その後、暫く人の背中をトラックでゴリゴリした。
その後、無事に五十鈴も目を覚まし、ラグナに服を貸与し4人は話し合いの場を設けた。
「まずはお礼を言わせて頂戴。助けてくれてどうもありがとう。お礼に差し上げられる物と言えば、腐った私に突き刺さっていた剣や槍くらいしか無いのだけれど……」
4人の目の前には大量に積み上げられた武器の山があった。これらもまたエターナルホーリーの影響を受けて完全な状態に修復されている。
「ここ数十年、ラグナを何とかしようとして返り討ちにあった奴らの武器だろうな……ラグナに挑む時点で腕に相当な自信があったはずだが……」
「マスターに報告します。これらは全て伝説級の武具のようです。聖剣エクスカリバー、レーヴァテイン、デュランダル、シャスティフォル、神魔剛竜剣、鬼殺の剣、インテリジェンスウェポン、ファントムソード、マスターソード、ライトセーバー、鍵ブレード、グングニル、ロンギヌス、丸太……全て読み上げますか?」
「いや、いい……」
運はうんざりした様子でナヴィからの報告を遮った。
「どうやらこれらは全て伝説級の武具らしいぞ。ミスリル武器では五十鈴の力に耐え切れなかったが、この中になら何か良い武器があるんじゃないか? オリハルコンとかさ」
「運殿、もしかしてこれを私に頂けるのですか!?」
「て言うか、私達のパーティ普通じゃないから五十鈴さん以外に武器が扱えないし」
「うわあ……伝説武器。私が、あの伝説武器ですか。夢にまで見た……」
五十鈴は目を輝かせていた。
「しかし折角の機会なのに、全ての武具を有効活用するのは難しいな」
と運が言うと、五十鈴が些かの迷いも無く答えた。
「問題ありませんよ?」
「「え?」」
驚く運と久遠を余所に五十鈴はシルフの力を使ってその武具の山を全て宙に浮かせた。それらはまるで千手観音が扱うかのように一つ一つ独立し、五十鈴の思うがままに舞った。
「この通りです」
更に五十鈴は自身の周りに侍らせた武器の中から一本の剣を手に取った。
「私の新しい相棒はこれにします」
運は暫く呆然としていたが、思い出したようにナビ画面を開いてその剣を鑑定する。
「和風で五十鈴にも似合うし、なかなか良さそうな剣だな。なになに? その剣は
「普通に三種の神器だし……チートだし……」
「天叢雲剣ですか……良く手に馴染むようです。これから、よろしく頼みます」
五十鈴はその剣を一振りした後、鞘に納めた。
「その他の武具は……戦闘時以外は空間収納しておきますね」
五十鈴の開いた異空間に次々と飛び込んで仕舞われて行く伝説の武具達。
「さっき久遠にチート過ぎると言ったばかりなのに、五十鈴までチートだった……」
運は実感の沸かぬ様子で言った。
「最強の精霊術師にして、もはや何十刀流かも解らん無双剣姫とは……」
運の言葉を受けて、五十鈴は両手を添えた頬を赤らめながら言った。
「そんな。幾ら多くの武具を手に入れようと、私が欲しいのは運殿の剣ただ一本だけです……」
運と久遠は驚き半分呆れ半分で目を合わせた後、言った。
「これは、クッコロだったエルフが、下ネタを発するまでの物語である」
「本当に、本当にありがとうございました」
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