第90話 VSドラゴンゾンビ(1)
高速で飛来するラグナを視界に捉えた五十鈴は速やかにトラックの外に抜け出し、独立した戦闘態勢をを取った。
一方、ラグナは翼を畳み、更に加速してトラックに突っ込んだ。
「早ぇ!」
間一髪回避をすると、ラグナはそのままの勢いで地面に激突し、大地を抉るように灰を巻き上げた。
「グルルル……」
「もしかしたらダイナと同じように会話出来るかもと期待はしていたが、どうやら完全に正気を失っているようだな」
「戦うしかないってことだよね?」
「それ以外に救えねーからな」
「グオォォォッ!!」
運と久遠がそうこう話している内にもその首を擡げ、連続で炎弾を吐き出すラグナ。その照準は定まらず、時に無差別的に照準に入っていない五十鈴にも向かった。
「一発一発が即死級。言葉も通じず暴走状態かよ」
「完全に暴力の塊、だね」
「ですが運殿、逆に好都合では?」
「だな。破壊不能設定なんて奴が本来の力のままに襲い掛かって来たら為す術がねぇ。だが、どうやら今のラグナはその力を単純に振り回しているだけに見えるぜ」
「スキだらけって訳だねっ! お兄ちゃん、疲労や損傷は気にしなくていいからガンガンやっちゃって!」
「運殿! 私も魔法でサポートしますっ!」
「最初から全力で行くぜっ!!」
地上から打ち上げられる炎弾を回避しながらトラックはトラック気を纏って高速で突撃する。反対にラグナも炎弾を止めて地上から飛び出しトラックを迎撃する。それらは空中で激突するが、弾き飛ばされたのはトラックだった。
「うわああああ!」
「きゃああああ!」
車内で激しく身体を揺さ振られる運と久遠であったが、すぐに体勢を立て直し、ラグナとの激突地点を睨み返す。が、既にそこにラグナの姿は無かった。
「くそっ! こちとらレベルカンスト間近の極振りトラックに加え、トラック気までマスターしてんだぞ! なのに全く力が及ばねぇとか、どうなってんだあのドラゴン!」
「そういう設定なんだから、きっと正攻法じゃ駄目なんだよ!」
「くそっ! 何処行きやがったアイツ!」
「運殿! 上ですっ!」
五十鈴の警告と同時に上空からトラックに撃ち付けられる無数の炎弾。トラックの反応は間に合わなかった。
「不味い! ノーム! シルフ!」
五十鈴は最初に巻き上げられて空中に散布されていた灰の塵芥を凝縮させてトラックを守るよう壁を展開した。同時に暴風を生み出し炎弾の軌道も逸らしにかかる。
しかしそれでも完全にラグナの攻撃は防ぎ切らず、連続した炎弾の雨は壁を打ち砕き、トラックに直撃、そのまま地面へと叩き付けた。
「ぐはっ!! 久遠、大丈夫か!?」
「私は大丈夫、それよりすぐヒールするね」
大地に激突し、一時は鉄屑に変わり果てたトラックだが、一瞬にして完全回復し間髪置かずラグナに向かって突撃する。空中からは再度降り注ぐ炎弾の雨。
「ヘッドライト・レイ!」
回避とビームを使い分けながらトラックは突撃するが、距離が近付くとラグナの方も迎撃体勢に変わりトラックを迎え討った。結果、またも大地に叩き付けられるトラック。
「くそ! 結局はこっちは突撃するっきゃねーのに、あいつ、力じゃ完全にこっちの成長限界を凌駕してやがんな」
「ヒール! お兄ちゃん、やっぱり正攻法じゃ無理だって!」
「なら次は撹乱だ! 単純攻撃しか出来ねぇ奴に幻影が判別できっかよ! ウォッシャーバブル!」
魔法による幻影でラグナを取り囲んでの突撃を図るトラックであったが。
「グオオオオオォォォォッ!!!!!」
ラグナは一際大きく咆哮し、ただその振動によって強引に周囲の幻影を打ち払った。
「嘘だろっ!?」
完全に虚を突かれた形でトラックは三度目となる地面への墜落、即座の全回復。
「くそ。誰だよスキだらけなんて言った奴」
「実際スキだらけだけど、能力値の暴力には敵わないってことでしょ」
「無限回復だけがアドバンテージだが、これじゃどっちがゾンビか解んねーな」
「それでも五十鈴さんが消耗してしまう分、長引けば状況は悪化しちゃうよ」
「なら、次はスピードで勝負してやる!」
再びトラックはラグナに向かって飛び出したが、迎え討つラグナとは直前で擦れ違う形で激突を回避した。
「お兄ちゃん、どうするの?」
「このまま空中で激突を避けながらアイツの背後を取って集中砲火を浴びせてやる!」
「ええぇっ!? トラックとドラゴンのドッグファイトォ!?」
「勝ちゃあ良いんだよ!」
互いを追う様に空中旋回を続けるトラックとドラゴン。
「知ってるか? 戦闘機同士の戦いじゃ背後を取った方が勝つんだ。だがな、良く考えてみたら俺様、スキル自由旋回のお陰で無理繰り背後が取れるじゃねぇか! この勝負、もらったぜ! ナヴィ、アイツをロックオンだ!」
「了解しましたマスター」
前方を逃げるように飛ぶドラゴンの背後に、ナビ画面に映る照準が重なった。しかし。
「!! いけないっ! 運殿!」
五十鈴がシルフの感覚を通じて読み取ったのは僅かな気流の乱れだった。そしてそれは突如突風としてトラックに襲い掛かり、その機体を激しく揺らした。
気が付けばラグナはその身体を反転、不安定に自身に向かって来るトラックに対してその爪を振り被っていた。
運の脳裏を過ぎるダイナ戦での爪の攻撃。それはかつてトラックの装甲を軽く引き裂いていった攻撃でもあった。そして今、眼前ではそのダイナをも遥かに凌ぐラグナの力によって、その爪がトラックに振り下ろされようとしていた。
「いやっ! お兄ちゃん!」
久遠は顔を伏せ目を瞑った。その瞬間。
「やあああああぁぁぁぁっっ!!!」
それまでサポートに徹していた五十鈴がトラックとドラゴンの間に割って入ってきた。その手に持つのは刀身の無い柄に、精霊の力を変換した魔力の刃を持つ剣であった。
「風の呼吸終ノ型! 奥義!
その一太刀は振り下ろされるドラゴンの腕を断ち切り、トラックを窮地から救った。
「五十鈴っ! 危ねぇっ!!」
しかしその代償に、全力で振り切って硬直した状態の五十鈴には無慈悲にもラグナの尻尾が叩き付けられた。
そしてそのまま生身の五十鈴は上空から為す術無く地上へ打ち付けられてしまった。
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