第89話 超絶最強魔法少女プリキュラ☆レインボー久遠ちゃん


「運にゃ~ん! 絶対、ぜぇ~ったい、迎えに来てニャ~!」


 両手を大きく振って飛び跳ねながら見送るアクトロスの姿も次第に小さくなり、運達3人の乗るトラックはエヒモセス最北の地、レソツ魔王国に近付いていた。


「アクトちゃん、元気で可愛い子だったね」


「それも政略結婚ですから浮気には当たらない……上手くやりましたね運殿」


「……滅相も御座いません」


「お兄ちゃん? 早くも1人目だね?」


「……重く受け止めております」


「とは言え、運殿に悪気はありませんでしたよね?」


「面目次第も御座いません」


 トラックの中、妻2人に詰られて運は借りてきた猫のように小さくなっていた。


「ま、カヨタ獣王国と友好的な国交が始められるなら、1人くらい良しとしよっか」


「それに、アクト殿も話してみれば良く気の合う方でしたし」


「きっとこの調子で魔王まで口説いちゃうんだよ? お兄ちゃんは。あははっ」


「なるほど~。次はアンデッドの奥様ですか~? 流石は運殿、うふふっ」


 身震いを禁じえない運であった。


(ナヴィ、俺は今、何処へ向かっているんだろうか)


「真面目にお答えしますマスター、死の国です」


(ヒエッ……)


「マスター。ナヴィはもう、これ以上、人生にお迷いにならないことをお勧めします」


(俺だってそうしたいよ……ナヴィ、俺を導いてくれ)


「かしこまりました。ルート検索、ルート検索……マスター、運転お疲れ様でした」


(え!? おいナヴィ! 俺の未来はどうしたよ! 俺の人生のルートは!)


「お兄ちゃん、どうやら着いたみたいだよ」


「運殿。とうとう、死の国です……」


「ヒッ! 全員、一生大事にするから許してくれっ!」


「何言ってるのお兄ちゃん? いよいよレソツ魔王国の領内に入るんだよ?」


「運殿? 長時間の運転でお疲れでしたら、少しお休みなさいますか?」


「え……? いや、あはは。大丈夫、少しナイーブになってただけだ」


「う~ん、流石にそれも仕方ないかもね」


「目の前に、こんな光景が広がっていればですね……」


「え?」


 トラックの眼前に広がる光景、それは地平線まで続く灰の平面であった。


「ここを一歩でも踏み越えれば、私達の命も吸われていくのですね」


「大丈夫。私のホーリーがみんなを守るから」


「久遠、いつのまにホーリーを習得したんだ?」


「そんなの解らないよ。でも決めたの。私のホーリーは、みんなを守るホーリー。だから、絶対大丈夫だよ!」


「ぽよっ! ぽよっ!」


「ほら! こんなに恐がりなサフちゃんだって、ちっとも恐がってないよ?」


「だな。それじゃ、俺達も腹括って行こうか」


「そうですね。久遠殿が言うならば信じましょう!」


 3人は迷うことなく目に映るものが何も無い灰の平面をひたすら北へと進んだ。


「しかし、こうもずっと同じ風景ばかりが続くと、どうしても眠くなるな……」


「ちょっ! お兄ちゃん。運転手がそういうこと言うの止めてよっ!」


「そこで眠ったが最期、二度と目覚めることは無かったり……」


「ちょっ! 五十鈴さんまで!」


「あ~、ここらでドラゴンゾンビでも出て来てくれた方がまだ目が覚めるぜ」


「ちょっとした運動でおめめパッチリですね、運殿」


「ちょっとちょっと。2人ともさっきからどうしたの?」


「ビリビリと感じねぇのかよ久遠、とうとう来たぜ?」


「来たって、もしかして……?」


「いよいよ相見えますね、原初のドラゴンに」


「あ~……やっぱり、戦わなきゃならないんだぁ……」


「五十鈴、どう戦う?」


「運殿はトラックで思いっ切り戦ってください。私は大精霊の力を借りて外から全力でサポートします!」


「久遠はどうする? 何処かに隠れてるか?」


「隠れるって……こんな何も無い平原の何処に隠れろって言うの?」


「生身の久遠殿が狙われるのだけは避けなければなりませんね……」


「とは言え、トラックに乗ったままじゃ前みたいに鞭打ちになっちまうだろ?」


「困ったなぁ」


「ぽよっ! ぽよっ!」


 久遠が首を傾けた時、サフランが自己主張するように久遠の膝の上に乗った。


「どうしたのサフちゃん。何か良い作戦でも思いついたの?」


「ぽよっ! ぽよよ!」


「久遠、なんて言ってるんだ?」


「ボクと契約して魔法少女になりなよ、だって」


「……本当にそう言ったのか?」


 疑惑の目を余所に久遠はサフランに尋ねる。


「サフちゃん。そうするとどうなるの?」


「ぽぽぽよっ。ぽよん!」


「えっ!? それ凄いじゃない! 是非やってみようよ!」


「久遠殿、通訳を願えますか?」


「良いけど、多分やって見た方が早いかな」


「「?」」


 首を傾げる運と五十鈴の前に久遠はサフランを持ち上げて見せた。


「サフちゃん。お願い」


「ぽっぽよ~!」


 するとサフランと久遠の身体がまるで魔法少女の変身シーンのように光り輝き、サフランは薄く引き伸ばされて久遠の身体を丸々と覆った。


「サフちゃん合体! ミラクル☆マジカル! プリティキュートヒーラー! 超絶最強アルティメッター……レインボー・久遠ちゃん!!」


「名乗りが長ぇよ」


 得意げに宣言する久遠に運は呆れ顔で言った。


「説明しよう。レインボー久遠ちゃんとは、衝撃吸収性能バツグンのレインボースライムを全身に纏った、プリティでキュラキュラ、超絶最強となった魔法少女久遠ちゃんのことであるっ!」


 久遠は更に得意げに胸を張った。


「で? そのプリキュラモードの久遠は何が凄いんだ?」


「ねぇお兄ちゃん。いつか私が言ってたの覚えてる? 私もトラックに乗り込んでヒールしながら戦ったら最強じゃない!? って」


「それは覚えてるが……まさか?」


「そのまさか。今のレインボー久遠ちゃんなら鞭打ちになんかならない!」


「「うそーん……」」


 運も五十鈴も目がテンだ。


「サフちゃんは自分だと恐くて戦えないけど、こうやってトラックの中なら平気! しかも私を癒して魔法力を無尽蔵に回復してくれるんだよ?」


「ぼくがかんがえたさいきょうのトラック、完成じゃねーか……」


「レインボー久遠ちゃんを助手席に乗せた無限全快チートトラック! その名もレインボートラック! 爆誕っ!!」


 そこから想像できる戦闘方法に運と五十鈴の脳内は一時バグった。


「もうチートやチーターやろそんなん!」


「トラックのチーターだからチートラです!」


「良いんだよっ! 破壊不能設定のドラゴンが相手なんだから、こっちだってチートくらいが丁度良いでしょ!? ほらお兄ちゃん! そんなこと言ってる間にドラゴンゾンビ、見えてきたよっ!」


「ったく、驚いてる暇もありゃしねぇ……なんかもう負ける気がしねーけど、久遠! 五十鈴! 全力でブチかますぜ!」


「「おぉーっ!!」」


 高速で接近してくるドラゴンゾンビ、ラグナを前に3人は完全に迎撃体制を取った。

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