第82話 パーティ選択画面
「旅に出る」
玉座で運が発言すると、その場に居合わせた久遠と五十鈴が目を合わせて笑った。
「そろそろ言い出す頃と思った」
「駄目か?」
「駄目じゃないけど……トラ仙人のところ?」
「この間の黒騎士戦で思い知ったからな。皆を守るためにはもっと強くならないと」
「ですが運殿。黒騎士ももう簡単にアンに手出しは出来ないかと思いますが」
「だがどの道、元の世界に戻るには避けては通れないんだ」
「そう……でしたね」
「安心しろ五十鈴。どうあれ俺達はここに戻って来るよ」
「ふふふ。とっくの昔に信じていますよ」
運と五十鈴は視線だけで意思疎通を図った。
「うん、解った。それじゃあ旅立ちについては私の方で調整しておくねっ!」
「すまないな久遠」
「それから、お兄ちゃんは誰をお供に連れて行くのか考えておいてね?」
「誰を?」
「何言ってんのお兄ちゃん。トラックの定員は3人でしょ? お兄ちゃんは運転手だから残りは2人、妻は8人。パーティ選択だよ?」
「ゲーム感覚だな」
すると頼んでもないのに運の目の前にはパーティ選択画面が現れる。
「マスター。奥方様のデータをまとめてみました」
「ナヴィまでフザケやがって。お前も最初はもっとお堅い奴かと思ってたよ」
「旅は楽しい方が良い。ナヴィも解って参りましたよ?」
「そりゃ良かった」
「何なら夜の相性の方も……」
「ゲフンゲフン!」
運は黙ってパーティ選択画面を操作する。
「久遠に五十鈴は言うまでも無いし、明るいミューがいれば道中は笑顔が絶えないだろうな。薬学ついでなのか知らんがフィリーの料理は絶品だし、カレンがいれば現地の精霊との連携がスムーズだろう。セレナがいれば機械関係の心配は無用だし、ダイナやルーがいれば戦闘面の不安が無くなるうえに魔物とも連携できそうだ……」
運は腕を組んで唸った。
「マスターは瞬間輸送が出来るのですから、毎日戻って来て、翌日続きから走れば良いのではないですか? 奥様も日替わりで」
「ナヴィ、やっぱ解ってねーな。それじゃ旅感が出ねーだろ?」
「!! なるほど、失礼いたしましたマスター。どうぞごゆっくりご検討ください」
「ん」
運は悩みながら隣の久遠に目をやる。
「私? 私のことは気にしなくても良いよ。お兄ちゃんの意思を尊重するし、どうあっても私はただ支えていくだけだから」
「お前……そんな健気なこと言われたら、連れて行かん訳にはいかんだろ」
「ホント? 嬉しいな」
そう無邪気に笑う久遠であったが。
「流石、計算通りでしたね久遠殿」
と横から澄ました顔の五十鈴に言われて向けられた運の視線には向き合えなかった。
「久遠?」
「てへっ?」
「まったく。とは言え頼りになるのも事実、1人は久遠に任せよう」
「やったー!!」
「で、もう1人だが、五十鈴、頼めるか?」
「!! もちろんです!」
「何だかんだで旅慣れたいつものメンバーって感じだな」
「お兄ちゃん! 私、頑張るよっ!」
「運殿! 私もお役に立ちます!」
「おう、よろしく頼むぞ」
3人は拳を握って中央で突き合わせた。
「それから……言っておくがメンバーは迷いに迷ってのことだからな。残るメンバーも国王不在という大変な時期を安心して任せられると考えたからだ」
「大丈夫だよお兄ちゃん。そんなの皆解ってる」
「本当、皆がいれば留守中の不安など全くありませんね」
3人は頷く。
「ではマスター。残られる奥方様は今のうちに可愛がっておかないといけませんね?」
「ナヴィお前……本当に最初からこんなにフザケた奴だったか?」
「何を仰いますマスター。ナヴィはいつでも真面目でございますよ?」
「……ともあれ、ナヴィも道中よろしくな」
「お任せあれ」
こうしてパーティ編成はまとまった。
「運さん、後のことは私達に任せてね!」
「でも、たまには戻って来てほしいな、運」
「運様、帰りを待つ妻のこと、忘れないでくださいね」
「運お兄ちゃん、私、電話するね!」
「ご主人様が留守の間、アンの平和はボクが守るよ!」
「帰ったらいっぱいよしよししてよね!」
旅立ちの日、残る妻達の明るい見送りを受けて運は答えた。
「なるべく早く帰ってくる。皆がいれば心配はしていないが……よろしく頼むな」
妻達は笑って頷いたが、その後すぐにミューが悪戯な顔で言った。
「それはそうと久遠ちゃん、五十鈴ちゃん。見守りの方はよろしくね?」
「了解! ミューさん」
「運殿は私達がしっかりと見張っておくので」
「ん? どう言う意味だ?」
運が首を傾げると妻達は声を揃えて答えた。
「「浮気防止」」
「お前ら……俺は遊びに行くんじゃねー」
運は肩を落としたがすぐに語気を強めて言い張った。
「俺は浮気はしない!」
「と、行く先々でこんなに妻を集めた運が申しております」
すかさずフィリーのツッコミが入る。
「……多分しないと思う」
「ご主人様。獣王国と言えばウサ耳、猫耳、色んな尻尾と、よりどりみどりだけど?」
ルーテシアがそれを確信しているかのように横目で零すと、運の目は露骨に泳いだ。
「……しないんじゃないかな?」
「「ま、ちょっと覚悟はしておくね」」
最後は妻達に言い切られて運はたじろぐばかりだった。
「だーもう!! 久遠、五十鈴。ホレ行くぞ。皆もそんな心配は要らないからな!」
運は妻達の視線から逃れるようにトラックに乗り込む。
「ご主人様よ……その辺りは奥方様の誰からも信用されておらんのぅ」
「ぽよぽよ」
ゾエやサフランからも呆れた視線を向けられ、次第に雲行きが怪しくなって来た見送りから逃れるようにトラックは新たな旅に出た。
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