第79話 VS黒騎士 次戦(3)
激しい金属音を打ち鳴らしながら2台のトラックが旋回と激突を繰り返していた。
その様子を街の外れからルーテシアが邪眼を使いながら見ていた。
「悔しいけど、今のアタシには奴に弱体の制限を掛け続けることしか出来ない……」
しかしそれでも実力差は一目瞭然で、次第に運のトラックだけがその姿を歪ませていく。
「それでも押されてるなんて……ダイナ、ゾエ、早く復活して。ご主人様がやられちゃう」
しかし荒野を走る久遠も、その撃ち落とされた距離が想定以上に長く辿り着けていない。
「くそ! 何としても久遠のところには向かわせねーぞ!」
久遠を庇うように戦う運は既に満身創痍だった。
「……」
その様子を見て黒騎士が久遠に向けてヘッドライトからビームを放つ。
「久遠! 危ねぇ!」
咄嗟に自身を盾にしてそれを防ぐ運のトラックはビームの直撃を受けて地を横滑りした。
「お兄ちゃん!」
トラックは久遠にぶつかる直前で停止した。
「俺様に構わず行けっ!」
「う、うん! お兄ちゃんも頑張って! ヒール!」
去り際に運のトラックを回復しつつ、振り切るように踵を返し駆け出す久遠。
「……」
しかし黒騎士もその隙を見逃さず、再度鋭いビームを放った。そのビームは地上に線を引くように走り抜け、久遠とダイナ達を遮った。
「うそ……大地が……」
そのビームが走り抜けた跡には、到底久遠がよじ登れないような溝が残っていた。
「くそ、折角ヒールして貰ったのにこれかよ」
「ごめんお兄ちゃん、遠回りになっちゃう」
「仕方ねぇ。何とか時間は稼ぐ」
再び走り出す久遠を見送って、運は黒騎士に向き直った。
「久遠はゼッテー狙わせねー!」
間を置かず突撃する運のトラック。あらゆるスキルを用いて抗うも、形勢は変わらずだった。
「くっそ、まるでシェルターだな」
圧倒的防御力の漆黒のトラック。ひとたびそれが動き出せば触れる物を皆粉砕する。
「だが、ここで止めなきゃ街や仲間がどうなるか解ったもんじゃねー!」
「……」
あくまで矛先が街や倒れた仲間達に向かわぬよう戦う運を見て、漆黒のトラックはそこでふと動きを止めた。
「どうしたんだ? 急に止まって……」
運は不審に思ったが、漆黒のトラックが止まったのは一瞬に過ぎなかった。そしてその間に何を思ったのか、漆黒のトラックは急に運に背を向けた。そして放つヘッドライトのビーム。
その先にいたのはダイナやゾエだった。動けないところを更に吹き飛ばされる2人。
「オイッ! テメェ何しやがるっ!」
運は問答無用で突撃するが、漆黒のトラックはそれを余裕でかわし、今度は街に向けビームを放った。
「やべえっ!!」
慌てて運はそれを庇いに向かうが間に合わない。
「ご主人様大丈夫! アタシが止めるっ!!」
それを止めに入ったのは街の外れにいたルーテシアだった。
瞬時に障壁を張ってそのビームを遮るも。
「きゃああああ!!」
「ルー!!」
その強烈なビームはいとも簡単に障壁を突き破り、ルーテシアを瀕死にまで追い込んだ。
「おい、お前……さっきから何してくれてんだ……」
漆黒のトラックの一連の行為は運の逆鱗に触れた。
「そりゃあ俺様が弱いからお前にそんな余裕を与えちまうのは解るぜ? 解るが、理由も語らずに街や仲間を狙われて黙っていられる訳もねぇ」
怒りに震える運の周りで大気までもが震えだした。
「テメェはここでブッ飛ばすっ!!」
刹那黄金のオーラを放ち始めた運のトラックはかつて無いスピードで漆黒のトラックに迫った。
「……!!」
激しいぶつかり合いの衝撃波は、ダイナ達に向かい走る久遠の体を揺さぶる程だった。
「うおおおおおっ!! 落ちろおおおっ!!」
「……!!」
必死に食らいつく運に合わせて更に底上げされた力を示す漆黒のトラック。
「くそ! まだ余力を残してやがったな! フザケやがって!!」
だがそれでも運のトラックは少しも引けを取らない。空中の至る所が爆発音のような空気の破裂が相次ぐ戦場と化す。
「だが解るぜ? 今、俺様が纏えているのがトラック気だ」
その激突の中にあっても運はどこか冷静に自分の力を認識していた。
「ようやく同じ土俵だ黒騎士さんよ……でもやっぱ、最後は力で押し切らねーと駄目みてーだな……なら、全力だ!!」
続く激突の中、運は一瞬の間に大きく息を吸い込んだ。
「行くぜ! インパクトアァーーース!!」
「……!!」
運の攻撃の全てを正面から受け続けてきた漆黒のトラックも一瞬のうちに気を練り込んでそれを迎え討とうとする。
「うおりゃああああっ!!!!!」
互いに引かぬ激突の中、運はその残る力の全てを振り絞るようにアクセルを踏みつけた。
「!!!!!」
それは初めて運のトラックが漆黒のトラックに打ち勝った瞬間だった。
運の進行方向から弾き飛ばされた漆黒のトラックの躯体は大きく歪み、きりもみを加えながら、ただ物理法則に従うばかりに宙を舞った。
「うおおおおおおおお!!」
勝利を確信した運は咆哮した。
そしてそのまま、漆黒のトラックは地に落ち、大破した。
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